regret-6 takaci様

「ん・・・」





秀一郎は光を感じ、ゆっくり目を開くと、カーテンの隙間からこぼれた朝日が差し込んで来た。





(朝か・・・)
時計に目を向けると、午前7時を指していた。





いつもより早く目覚めたことを少し損をしたように感じ、その分を取り戻そうと二度寝しようと思ったときに、いつもとは異なる違和感を感じた。





「・・・」





(そういやそうだったな。それに今日は土曜か・・・)





せっかくの休みの朝に早起きした事をやはり勿体ないと感じながらも、違和感がなぜか幸福な気分にさせてくれる。





(まあ、休みの早起きも悪くないか・・・)





自然と笑みがこぼれ、静かにベッドから抜けると足音を起てないように部屋を出た。










「ふう・・・」





冷蔵庫から出したスポーツドリンクに口を付け、一息つく。





ピンポーン





インターフォンが鳴った。
(ん、誰だ?こんな朝っぱらから)





訝しく思いながら、ペットボトルを置いて玄関に向かった。





ピンポーン





ピンポーン





到着するまでの僅かな間に何度もベルが鳴り、来客がかなり急いでいるのが連想された。





それが誰なのか全く検討が付かないまま鍵を解除し、扉を開けた。






「なんだ若狭か。こんな朝っぱらからなんだ?」





正弘が立っていた。





「スマンこの前大事なものをお前の部屋に忘れた。入るぞ」





と言ってから秀一郎を押し退けて上がり込んだ。





(忘れ物?)





秀一郎には全く見当がつかず、しばらく立ち尽くす。





だが正弘の背中が階段の影に消えそうになった時、大事な事実に気付き、





「おい若狭待て!」





慌てて後を追った。





(若狭を止めないと・・・)





急ぎ足で追うものの、正弘の足も速くてその背中は視界にない。





「おい待てよ!とにかく止まれ!」





階段を昇りながらそう呼ぶが、





「ヤバイものなんだ!一刻も早く回収しないとまずいんだ!」





先を進む正弘の声はかなり切迫しているように聞こえた。





が、ヤバイのは秀一郎も同じだった。





声と距離感から、正弘はもう秀一郎の部屋の前に達していると推測される。





「とにかく止まれ!部屋に入るなあ!」





階段を昇りきってそう叫んだ時、正弘は部屋の扉を開けていた。





「・・・・・」





僅かな時間だったが、主観的にはそれ以上に感じられた。





正弘は部屋に入らずそのまま入口で立ち尽くし、





バァン!





慌てて扉を閉め、





「お、おい若狭!」





秀一郎を押し退けて駆け降りていった。





(若狭も気になるが・・・)





秀一郎は正弘を追わず、自分の部屋に足を向けた。





そっと扉を開ける。





カーテンが閉められた薄明るい部屋の中心に影があった。





部屋に入り静かに扉を閉め、影のそばに寄る。





「ゴメン、大丈夫か?」





「なんで正ちゃんがいるの?」





「わからん、なんか慌てていきなり上がり込んできた」





「あたし、思いっきり見られた・・・」





素肌に秀一郎のワイシャツのみ身につけた奈緒は、顔を真っ赤にして部屋の真ん中でへたりこんでいた。











そして時は経ち、





「いただきま〜す」





「いただきます」





秀一郎と奈緒は並んで食卓に座り、





「おい、これはなんだ?」





対面に席を取る正弘は複雑な表情を浮かべていた。





「見てわかんないの?朝ごはんよ」





と簡潔に答える奈緒。





「そんなんわかる!なんで俺がお前らと一緒に朝メシ食う状況になってんのか聞いてんの!」





「細かいこと気にしないでさっさと食べなさい。冷める前にね」





「・・・わかった。じゃあ、いただきます」





渋々箸をとり、味噌汁に口をつける。





「予想通りっつーか、予想外っつーか・・・美味い」





「これくらいなら、ちょっと練習すれば出来るようになるわ。誰でもね」





奈緒は鼻にかけるような態度は一切見せず、当たり前のように言った。





「この朝メシも、いつもの弁当も・・・奈緒ちゃんってマジ料理得意なんだな。で佐伯にはよく料理作ってたりするの?今日みたいにさ」





「秀のご両親は仕事で全国飛び回ってて家を空けることが多いのよ。で、秀は放っておくとインスタントとかレトルトばっかだから、こうやって食事の世話するようにしてるのよ」





「それって佐伯が頼んでんのか?」





今度は秀一郎に非難の色を向ける。





「俺は頼んでねえよ。昨日だって誰もいないだろうと思って帰ったら明かり点いてて鍵も空いててさ。で、奈緒が晩飯作って待ってたんだよ」





「あたしも事前にご両親から聞いててね。だったらあたしが秀の世話をするって言ったら、鍵を預けてくれたんだ。なんか嬉しかった」





「まあ、お前らの関係が親公認なのは分かった。けど泊まるのはやり過ぎじゃねえか?」






「なんで?だって朝ごはんも作るんだし、いちいち帰るの面倒じゃない?」





「あのなあ、お前ら付き合ってるっつってもまだ高校生だろ?高校生らしい健全な付き合い方っつーか、その・・・なんだ・・・」





正弘は顔を赤くして口ごもる。





「もう、ハッキリしない男ね!言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ!」





そんな態度に怒る奈緒。





「ハッキリってもなあ、その・・・だからアレだよ!」





「アレって何よ?まあ分かるけどね。でも逆に聞くけど、恋人同士がセックスして何が悪いのよ?」





「セッ・・・ちょ、女の子だろ?恥ずかしくないの?」





「恥ずかしいに決まってるでしょ!でもあんな姿見られたんだったらいまさら隠しても無駄じゃない!」





やや頬を赤くしつつも、奈緒は開き直った。





「まあ・・・そうだけど、けどやっぱまずくないか?」





「さすがにあたしたちの関係知ってるのはお互いの家族くらい。友達には刺激が強いから秘密にしてるわ」





「親は何も言わないのかよ?」





「避妊さえしっかりしてればいいって言われてるくらいね。そもそも高2男子なんて煩悩真っ盛りで性欲抑えろなんて無理に決まってるじゃない。彼女いるなら尚更よ。だったらヘンに我慢させてヘンな気おこさせるより、ちゃんと発散させて満足してもらったほうが全然いいわよ。これも恋人の努めよ」





「なんか間違ってるような気もするが、でもまあ男が満足出来るならそれもありか。さっきの素っ裸に男もののワイシャツだけってカッコは妙にエロかった・・・」





「なんで素っ裸ってわかるのよ?あたし咄嗟に隠したはずよ」





「見えたわけじゃないけど・・・部屋も薄暗かったし・・・けど床に下着の上下が・・・」





「もういいわ。それ以上思い出さないで。あーっでもこれから正ちゃんの夜のオカズにされると思うとなんか寒気がする。ホント最悪・・・」





「オ、オカズって・・・そんな事しねえよ!俺は佐伯と違ってロリコンじゃねえんだよ!」





「俺はロリコンじゃねえよ」





それまでずっと黙っていた秀一郎がようやく口を開いた。





「・・・もういいわ。済んだことをいまさらとやかく言ってもどうにもならないから。とにかく正ちゃん、さっき見たものは全部忘れて。忘れられなくても他の人には話さないで。そのために朝ごはんご馳走してあげたんだからね」





「なんだよ、俺を朝メシひとつで買収する気か?」





「不満?」





「不満っつーか、なんかすげえ安く見られた気がする」





「じゃあこれも追加ね。正ちゃんの忘れ物ってこれでしょ?」





奈緒は一枚のDVDを差し出した。





「あ〜〜〜っ!」





驚いて大きな声をあげる正弘。





「なんだこれ?」





秀一郎も気になって目を向けるが、レーベル面には何も印刷されておらず、市販DVDを焼いたものくらいしか連想出来ない。





奈緒はニヤリと嫌な笑みを作り、





「無修正エロDVDよ。しかもその内容ときたら・・・ホント最悪よ。観てて気持ち悪くなったわ。正ちゃんにこんな性癖があったなんてねえ・・・」





「だーーっ!!奈緒ちゃんストップ!!お願いだからそれ以上言わないで!!俺が悪かった!!なんでも言うこと聞くから!!」





正弘は尋常ではない慌てぶりを見せた。











結局この一件で正弘はしばらく奈緒の下僕になることで折り合いがついた。





正弘は目的のものを無事回収出来たものの、魂が抜けたような顔で秀一郎の家をあとにした。







「全く若狭の奴・・・そんなものを俺ん家に持ってくんなよな。下手すりゃ俺が誤解されるじゃねえかよ」





「でもあたしは秀を信じてたよ。秀にはあんな趣味はないってね。秀はふつーのが好きだもんね」





「てかハッキリ言って奈緒のほうがエロいぞ。いくら若狭相手でもよくあんなにズバズバと言えるな。聞いてる俺のほうが恥ずかしかったぞ」





「まあぶっちゃけあたしもエッチ好きだし。なにも着けずに秀に抱かれて寝るの大好きだもん。暖かくてホント幸せなんだよ」





正弘が帰ってから、デートに出かけたふたり。





街に繰り出して店を巡り、ふたりの大切な時間を過ごす。





秀一郎にとっても幸せなひと時だった。





(やっぱ奈緒と一緒にいると落ち着くし、楽しい。いろいろダメなところもあるけど、奈緒は俺の大切な女の子なんだ)





隣を歩く小柄な少女を見つめる。





「ん?」





視線に気付いた奈緒が恋人のみに見せる可憐な瞳で秀一郎を見つめる。





秀一郎は小さな肩を抱き、





奈緒は秀一郎の胸に身体を沈め、





「・・・」





互いの愛情を確かめ合う、大切なキスを交わした。





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