親から子へ・・・4 takaci様




「おはよう」



「おはよ〜」



朝の校舎に挨拶と活気のある声が行き交っている。



そんな声の中に真司たちも混ざっていた。



「ところで亜美っちよ、なんか最近顔色がすぐれないな?」



啓太は爽やかスマイルを亜美に向けた。



「別にっ」



亜美はぶっきらぼうに答えてそっぽを向いた。



確かに亜美は不機嫌の色を浮かべている。



「最近は毎朝俺が勝ってるからな。だからじゃない?」



対する真司は微笑。



「なんか最近ウチの子調子が良くないんだよね。加速が鈍い気がする」



「タイヤかバッテリーが旬を過ぎたんじゃないの?普通に載ってれば気にならないレベルだけど、お前らは普通に乗ってないもんな」



真司と亜美は毎朝、通学路の峠道を全開でかっ飛ばしている。



そのような乗り方は常識の範疇からはみ出している。



啓太の呆れ顔が、その非常識ぶりを表していた。






「おはよう、真司くん、亜美ちゃん」



そんなライダー3人衆にとても温かみのある声が届く。



「あ、あや乃ちゃんおはよう」



「おはよっ!」



「おっす」



「えっと・・・」



「西岡啓太です!今後お見知りおきを!!」



まだあや乃に顔を覚えられていない啓太はあや乃にやや切羽詰った顔色を向けた。



「は、はあ・・・」



そんな啓太の勢いにやや圧倒されるあや乃だった。






あや乃の対応に焦ったのか、啓太は爽やかスマイルと軽やかな口を回して自己アピールを続けている。



当然の事だが、真司の心は穏やかでない。



(なんだよあいつ、前は俺をフォローするって言ってたくせに、あや乃ちゃんを目の前にしたらああかよ。くそ・・・)



あや乃も啓太の話を微笑みながら聞いている。



目の前の局面になんとか割って入りたい真司だが、如何せん啓太の話術に適うわけがないし現状の空気を壊すのも気が引けるのでイライラしながらふたりの会話をただ一心に聞くのみだった。






「おーい、啓太!」



「あ、おーっす!ゴメンあや乃ちゃんまた今度ね。じゃ!」



真司の心に波風を立てていた啓太は、少し離れていた場所からオレンジのタンクトップにジーンズ柄のミニスカート、生足に赤のミュールという派手で活動的な姿の美女に呼ばれると、足早に去っていった。



「すごい綺麗だし、存在感のある人だね。上級生かな?」



あや乃は見事なポニーテールの後ろ姿を捉えながら感想を述べた。



「3年の大沢志保さんよ。新体操部のエースで高等部生徒会副会長。まさに才色兼備って言葉がピッタリの人ね」



「高等部ではダントツに人気の高い人だよね。けど啓太の奴、いつの間に知り合ったんだ?」



真司は啓太の話術と女子人気の高さに軽い嫉妬心を抱いていた。






1時間目の講義。



啓太のみ別で、残りの3人は同じだった。



そこそこの広さを持つ講義室に入る。



生徒たちは入り口に備え付けられた銀色の箱に右手首に身に付けているリングをかざす。



実はこの箱が出欠簿で、リングには生徒のIDが記録されている。



この箱にリングをかざしてID認識させれば出席になるという仕組みだ。



3人はそれぞれ近くの席に陣取った。



「そうだあや乃ちゃん、この前お菓子ありがとう。お袋メッチャ喜んで美味しそうに食べてたよ」



「ううん、あたしの方こそありがとう」



「ねえねえなんの話よ?」



「実はな・・・」



真司は興味深く聞いてきた亜美に、先日たまたまあや乃の家の洋菓子店に足を踏み入れ、パソコンを直し、お礼に店の焼き菓子を貰った経緯を話した。



「へえ、あや乃ちゃんの家ってあの新しいお菓子屋さんだったんだあ」



「なんだよ亜美は知ってたのか?」



「うん、なんか本格的な洋菓子店で敷居が高そうなイメージあったんだよね。でもあや乃ちゃんの家なら今度行ってみようかな」



「そういやウチのお袋もそんなこと言ってたっけ。ちょっと入り辛かったってさ。だから貰ったお菓子渡したらメッチャ嬉しがってたからなあ。これからは買いに行くって言ってたし」



「お母さんの作るお菓子は確かに本格的だけど、だからって高級志向って訳じゃないよ。目指してるのはあくまで町のお菓子屋さんだからね」



「俺もあや乃ちゃん家のお菓子屋さんのことはみんなに話すからさ。すごくいいオススメの店だよってね」



「真司くんありがとう」



「それにしてもあや乃ちゃんのお母さんって若いね。俺最初見たときはてっきり近所のバイトのお姉さんかと思ったよ」



「ウチのお母さん、気持ちはずっと若いからねお父さんがあんなお仕事してるから、常に自分を磨いておかないと浮気しちゃうって言ってたような気がする」



「お父さんとお母さんって仲いいの?」



「うんっ。お父さんたまにしか帰ってこないけど、一緒に居るときはいつも楽しそうに笑って話してるよ。だからあたしもお父さんもお母さんも大好きだよ」



「へえ意外だなあ。俺は有名人の家って仕事が忙しくて家族をないがしろにしてるイメージがあったからなあ」



「他はどうか知らないけどウチはそんなことないよ。今もお父さんオーストラリアのど真ん中くらいに居るんだけど、電話やメールはしょっちゅう来るよ。その後は日本に帰ってくる予定だから、あたしすごく楽しみなんだよ」



「なんか俺ん家と全然違うなあ。ウチの親なんてさ・・・」



あや乃と真司の楽しそうな会話はずっと続いた。






授業終了後、



「真司くん、亜美ちゃん、またね」



あや乃は笑顔で去って行った。



次の授業は3人ともバラバラだ。



真司はにやけながら手を振っていた。



(やっぱあや乃ちゃんいいな〜今日はたくさん話せたし、もっと仲良くなりたいな〜)



そう思っていると、






ゴツン・・・



右のこめかみ辺りに軽い衝撃を感じる。



「ん?なんだよどうした?」



亜美がムスッとした表情で軽く小突いていた。



「あんた、だらしない顔してんじゃないの!シャンとしなさいよ!」



「なに怒ってんだよ?」



「そもそも最初にあや乃ちゃんと話すきっかけ作ったのはあたしだよ。そのあたしを放っておいてなにふたりで盛り上がってんのよ」



「なんだよそれ?ならおまえも話に入ってこれば良かっただろ?」



「そうじゃない」



「なだ、どうなんだよ?」



「・・・もういい・・・」



「は?」



「いい?そんな調子じゃ今度のレースでもぬるい走りになっちゃうからね!そんな言い訳通用しないんだからね!」



亜美は機嫌が悪いまま、真司の前から去っていった。





「なんだよあいつ・・・」



真司には亜美の不機嫌の理由もさっきの言動も全く理解出来なかった。



あや乃との楽しい会話の気分も吹き飛んで決まっていた。



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