親から子へ・・・2 takaci様



「真司、お前今日のゼミの内容全然頭に入ってないだろ」



「あ、ああ・・・まあな・・・」



「真中あや乃ちゃんだったっけ。確かにかわいいが、俺達にゃちょっと高値の花のような気がするぜ」



「へえ、啓太にしちゃ珍しいな。お前の性格じゃ、かわいい女子なら全力で落としに行くイメージがあるけど」



「そりゃ偏見だ。俺にもちゃんと分別をわきまえる配慮はあるぜ」



苦笑いを浮かべる啓太。



「けどあの子からは性格悪そうな感じはしないぜ。何でアタックしないんだよ?」



「それがダメなのさ。ありゃかなりの堅物でノリが悪そうだ。俺は何よりも軽いノリの女の子が好みなんだよ。見た目はその次だな」



「へえ、意外だな。おまえがあんなかわいい子に仕掛けないなんてな・・・」



「まあそれに、俺が本気出したらお前に悪いだろ?」



「な・・・なに言ってんだよ!?」




「今更隠すなって。お前見てりゃバレバレだ。完全に一目惚れだろ?」



「ま、まあな。けどよぉ〜どうすりゃいいんだ?あんなかわいい子とどうやって話せばいいんだ?まったく自信ねえよ・・・」



真司の声のテンションはまさしく自信無さげに落ちていく。



「まあ自信出せ。ハードルは高く攻略は困難だが、お前が本気なら俺もフォローしてやるぜ」



啓太はそんな真司の肩に腕を絡めながら、にこやかに白い歯を見せた。





1現目終了後のキャンバスでの青春真っただ中のひと時だった。









「まずは近いうちに声をかけて印象付けろって言われてもなあ・・・そんな簡単に声をかけれりゃこんなに悩まないっての・・・」



そして時間は昼休み。



真司は人が賑わう購買で多くのパンが並ぶ陳列棚を眺めながら、深いため息をついていた。



『まずはきっかけ作りだ。とりあえず声をかけなきゃ話にならねえ。何でもいいから見かけたら声をかけるんだ。いいな?』



これが啓太のアドバイスだった。



「啓太は女の子の扱いに慣れてるからあんな簡単に言えるんだ。俺の女子とのコミュニケーション能力はすげえ低いんだぞ。全く・・・はあ・・・」



溜息を漏らしながらパンを手に取ったり戻したり。






「おい、そこの挙動不審者」



「んあ?」



声をかけられてふと振り向くと、パンとジュースを手に持った亜美がムスッとした表情で睨みつけていた。



「なんだお前か」



「なんだとは何よ。それより真司あんた、思いっきり怪しく見えたよ。やめてよねそういうの」



「へいへいそうかい」



どうでもよさそうに答える真司。



「それともなに?あたしじゃなくて別の女の子から声かけられたかった?」



「なんだよそれ?」



「真中さんだったっけ。かわいい子だよね〜」



「なんだよお前まで・・・でもまあ確かに気になってるさ。あれだけかわいくて女の子らしい子なんだ。気にするなってほうが無理だろ?」



「ふーん、素直に認めたね。で、どうすんの?アタックするわけ?あんたが?」



「そうしたくても、どうすればいいか分からないから悩んでるんだよ」



真司はそう話しながら、いつもどおりのパンとレモンティーのパックを手に取った。



「ふ〜ん、ま、あんたがその気ならアドバイスしてあげよっか?女の子の視点からね」



亜美は意味深な笑みを真司に向ける。



「お前が女の子の立場から?男の意見の間違いじゃないのか?」



「なによそれ〜!あたしだってちゃんと女の子なんだぞ!バレンタインに義理チョコあげたの忘れたか?」



「じゃあ逆に聞くが、お前は何人にチョコ配った?」



「えーっと、あんたと啓ちゃんに、あとお父さんと兄貴かな」



「んで、貰ったチョコの数は?」



「・・・数えてない。てか数え切れなかった。少なくともあげた数より一桁は多かったと思う・・・」



「お前、男より女の子からの方が人気高いだろ?」



「でも、それとこれとは別だよっ!あたしだって恋する乙女の気持ちは分かるんだからね!」



「お前が恋する乙女ねえ・・・」



「・・・なんか文句あんの?」



呆れ顔になっている真司目掛けて、亜美は思いっきり不満の色を浮かべて鞄を振り上げていた。



「わ、分かった。お前の話を聞かせてくれ。ぜひ、な・・・」



「ったく、ホント真司はいっつも一言多いんだから!」





ふたりは購買でパンと飲み物を買うと、中庭に出た。



この中庭のベンチや芝生の上は、生徒たちのお気に入りの昼食スポットなのでそれなりに人の数はあった。



「ん、あれ?」



中庭に出てまもなく、亜美が何かに気付いた。



「ん、どした?」



「ほらあれ、あそこ」



「あっ!?」



真司は亜美が指差した方向に目をやると、驚きで思わず言葉に詰まった。






中庭の隅にある木陰の下にある生垣のレンガの柵に、白いワンピースに桃色のカーディガンを羽織った少女がポツンとひとりで腰掛けていた。



「あれ、真中さんだよね」



「あ、ああ・・・」



真司からはそれ以上の言葉が出てこない。



視界の先に、真中あや乃の姿があった。



(まさかこんな所で合うなんて・・・でもこの状況はひょっとしてチャンスなのか?いまひとりみたいだから話しかけやすいし・・・でもなんて話しかければいいんだろうか・・・そういや亜美もいたっけ。あいつはどうする・・・って、あれ?)



真司が思考を巡らせているうちに、亜美は木陰に座る少女目掛けて歩みを始めていた。



「お、おい・・・亜美?」



真司は慌てて追いついて呼び止めようとするが、亜美は止まらない。



「なにぼーっとしてんのよ。話が出来るチャンスじゃないの!」



「そ、そうかもしれないけど、俺なんて話していいやら・・・」



「この期に及んでなに情けないこと抜かしてんのよ!あたしがきっかけ作るから、あとはあんたが自力で何とかしなさい!」



厳しい表情と目つきで真司に激を飛ばす亜美だった。





真司の鼓動がアップテンポになる。



(やべえ、なんか緊張してきたぞ。でもマジでなんて話しかければいいんだ?)



そんなことを考えているうちに、目の前にはもうあや乃の姿が大きくなっていた。






「こんにちは真中さん!」



亜美がにこやかに元気よく言葉をかけた。



あや乃はゆっくりと振り向き、



「あ、こんにちは。あなた達は確か同じゼミの・・・」



あや乃の記憶は、僅か1時間足らずしか同席していなかったゼミメイトの姿を覚えていたようだ。



「あたし小河亜美。亜美でいいよ!」



「お、俺は東村真司。真司で・・・いいよ」



「真中あや乃です。あたしもあや乃って呼んでください。亜美ちゃんに真司くん、よろしくお願いします」



(真司くんって呼ばれるのか・・・なんか嬉しいな)



小さなことで感動を覚える真司。



そんな真司を気に留めずに、亜美はどんどん話を進めていく。



「あや乃ちゃんは今お昼?ひとり?」



「あ、うん。今日来たばかりだからまだこの学校のこと全然分からなくて・・・まだ知らない人ばかりで・・・」



「じゃあ何でもいいからあたしたちに聞いてよっ!なんでも相談に乗るからさっ!あ、よかったら一緒にお昼食べようよっ!」



「うんっ。ありがとう」



亜美の元気な笑顔に導かれるように、あや乃も笑顔を見せた。



そして亜美と真司はあや乃の横に並んで座り、あや乃は手製の弁当、亜美と真司は購買で買ったパンを食べながら談笑のひと時が始まった。






亜美が積極的に話を振ったおかげで、あや乃のことがいろいろと分かった。



ヨーロッパからの帰国子女で高校2年分の単位は既に修得していること。



この学園には電車と学園運営のバスで通学してること。



家は亜美や真司たちの比較的近くにあり、最近建てられて引越しして間もないことなどが分かった。



「へえ、あや乃ちゃんの家ってウチらの近くじゃん。でもあの辺から電車とバスって不便じゃない?ウチらみたいにバイク通学したら?便利だよっ!」



「あたし免許ないし、それにお母さんが反対すると思う。オートバイなんて危ないからダメって言われそう」



「古い考えの親だよなあ。バイクなんてすげえ安全な乗り物なのに。俺んトコは親がバイク通学勧めて来たぜ」



「それは真司くんの運動神経がいいからだよ。あたしってどんくさいから・・・」



照れてやや頬を赤くするあや乃。



「いや、それはそうとしても女の子ならそれもありだよ!男勝りでバイク転がす奴よりずっと女の子らしい・・・」






バキッ!!






亜美が頬を膨らませながら隣の真司をグーで殴った。




「じゃかましい」



「・・・だからっていきなり殴るんじゃねえ・・・」



涙目になる真司。



「はは・・・」



苦笑いを浮かべるあや乃だった。






「いででで・・・全くこの女は・・・あ、そういや親で思い出したんだけど、あや乃ちゃんの親って有名人なんだって?」



「あ、うん。たぶんお父さん。有名かどうかは分からないけど」



「へえ、どんな人なの?」



「真中淳平」



「真中淳平?どっかで聞いたことあるぞ?」



真司が首をひねっていると、



「あ、あたし知ってる!確か映画監督だよね!どちらかといえば日本より海外で活躍してる人だよ!」



亜美の表情がぱっと明るくなった。



「うん、そうだよ。お父さんは海外のお仕事が多いんだよ」



「へえそうなんだ映画監督かあ。親が有名人ってどんな気分?」



「うーん、よく分からない。そもそもあたしってお父さんのことよく知らないんだ」



「「えっ?」」



真司の問いかけに対するあや乃の回答は、ふたりにとって意外なものだった。



「小さい頃からお父さんはあまり家に居なかったし、中学からはお父さん以外はみんなお母さんのお仕事に付いてヨーロッパに行っちゃったから。年に何回か顔を合わせるくらいなんだ」



「へえ、そうなんだ。あたしてっきりお父さんの仕事の都合で海外に行ってたとばかり思ってた。お母さんのほうだったんだあ」



「お父さんのお仕事が忙しくなったのはここ最近なんだよ。それまではお母さんが家を支えてて、お母さんが世界中を回ってたの。で、こっちに家を建ててこれからは日本で家族4人一緒に過ごそうと思ったら、今度はお父さんが世界を飛び回るようになっちゃった。なかなか上手く行かないね」



あや乃はやや困ったような色が混ざった笑みを浮かべていた。






その微笑が真司の瞳に焼きつく。



(この子ってこんな風に笑うんだ・・・最初会ったときからかわいいと思ってたけど、性格もメチャ女の子らしくていい子じゃん・・・)



真司は完全にあや乃に心奪われた。



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