[memory]4 - takaci  様


高校生活の終盤、


淳平は多くの魅力的な女性たちから好意を寄せられていた。


綾、つかさ、さつき、こずえ、唯、美鈴(?)・・・


皆とても魅力的で、淳平にはもったいないくらいの女性たちだ。


その中で見事淳平の心を射止めたのが・・・





つかさだった。





勝因、という言い方が正しいかどうか分からないが、もしそれがあるとしたら『夏休みの旅行』だろう。


ふたりっきりで訪れた田舎町。


つかさが幼い頃育った場所。


そこでつかさは自らの悩み、迷いを淳平に打ち明けた。



そこで淳平が出した答えは、つかさの迷いを打ち消した。


『自分で選んだ道だもん振り向かずに歩いて行こう』


旅の終わり、つかさはこう語った。


事実、つかさの歩む道は決まっていた。


パティシエを目指す道と、





淳平の恋人を目指す道。










ライバルとなる綾やさつきには『迷い』や『遠慮』があった。


だが、つかさにはそれがない。


迷わず、周りに惑わされずに自らの思いを一直線に淳平にぶつけたのが『勝因』と言えるだろう。





何はともあれ結ばれたふたりは幸せいっぱいだった。


ようやく繋がったふたつの心。


身体が繋がるまで、さしたる時間は掛からなかった。


淳平はその幸せをエネルギーへと換え、『ほぼ不可能』と言われていた志望大学に見事現役合格をした。


これには周り一同が驚き、改めて『幸せ』の強さを知らしめた。





そして淳平は大学に通い始め、つかさはパティシエ修行のためパリ留学目前。


遠く離れるふたりだが、『心の絆』はその距離を繋いで行ける自信があった。


互いを信じ、信頼し、そして愛し合う。


そんな最高の幸せの渦中にいるふたりに・・・





悲劇は突然、何の前触れもなく舞い降りた。










『西野の家が燃えている!!まだ中に取り残されているらしい!!』


深夜に突然やって来た外村からの知らせで、血相を変えてつかさの家へと向かう淳平。


そして、つかさの家を包む強烈な炎を目の当たりにした。





ひとりの男は、全てを焼き尽くす炎に対しあまりにも無力だった。


愛する人のため、火事場に飛び込むつもりでもいたが、


あまりにも強烈な『紅蓮の炎』を前にして、その勇気はあっという間に崩れ去った。





そして翌朝、淳平の手に『いちごのペンダント』が手渡された。


長時間高温に包まれたそれは半分以上が黒く焼け焦げており、形もかなり変わっていた。


だがそれ以上に、それを身に着けていたつかさの身体は、





熟練した検察がようやく人と判別できるほどに焼け焦げており、つかさと同じような状態で両親も発見された。





淳平は、最愛の人とその家族を一瞬にして全てを失ってしまった。
















淳平はもちろん激しく泣いた。


その後、とてつもない空虚感と孤独感に見舞われた。


何もかもがどうでも良くなり、生きる事に対する希望を失ってしまう。





そんな淳平に対し真っ先に救いの手を差し伸べたのが、綾だった。


綾はなりふりかまわず、ずっと淳平の側にいた。


淳平を思う気持ちに加え、大胆になれなかったゆえに淳平をつかさに取られた苦い経験。


それが、淳平に対する綾のフルアタックを生み出した。





淳平がつかさを選んだとき、最後まで気になったのが綾だった。


つかさと付き合うようになってからも、綾は誰とも付き合わずずっと淳平に思いを寄せており、淳平にもそれが伝わっていた。


そして突然訪れた深い悲しみ。


絶望のどん底にいる淳平を優しく包み込んでくれるような綾の存在。


ふたりはあっという間に惹かれ合い、ごく自然に恋人同士となった。


そして淳平は比較的短期間で立ち直れた。





だが、これを境に淳平は変わる。


もちろん綾の存在は大きいが、つかさを完全に忘れさせる事は出来ない。


『俺が頑張るんだ・・・つかさの分まで、俺が頑張るんだ!!』


映画に対する情熱、厳しさがより強まり、甘えが無くなる。


それがあって、今日の成功に繋がっている。


淳平の成功は、つかさの死という『負のエネルギー』がもたらしたものでもあった。















そして、さつき。


まずつかさに敗れ、その次に綾に敗れた。


つかさの死で悲しみに暮れる淳平の姿を見て『今はそっとしておこう』と思ったのだが、その間隙を綾に突かれた。


そのさつきの『優しさ』が、自らの大きな悲しみに繋がってしまった。





そして、さつきも変わる。


『優しさ』を捨てるため、淳平らと距離を置いて自らを厳しい競争の世界に身を置いた。


そんなさつきが選んだのは、『夜の街』。


『優しさも見栄もいらない。あたし自信を高めるためなら、西野さんの名前だって何だって使ってみせる』


この強い思いが、伝説のキャバクラ嬢『つかさ』の誕生に繋がる。





『つかさ』はデビュー間も無くめきめきと頭角を現し、半年もたたずに店のNo.1に。


1年後には月収100万を軽く超える超売れっ子キャバクラ嬢になった。


そして、その名前と人気を聞きつけて駆けつけてきたのが、芸能プロダクションを立ち上げて間もない外村だ。


『夜の街No.1から日本の・・・いや世界のNo.1を目指してみないか?』


この言葉にさつきは乗り、『つかさ』の芸能界デビューとなった。


芸能界でもめきめきと頭角を現し、現在に至っている。





芸能界デビュー直後に、淳平とさつきは再会した。


さつきがつかさの名前を使っていたことに対し淳平はもちろん怒ったが、理由を聞かされるとそれ以上反論が出来なかった。


さつきをそこまで追い込んだのは、何よりも淳平自身なのだから。


それに、淳平も分かっていた。


さつきには、『つかさの名を利用し、取り込み、より強くなりたい』という強い思いと共に、『志半ばで亡くなったつかさの思いを、自分が引き継ぐ』という優しい思いがあった事を。










その後しばらく、ふたりは顔を合わせなかった。


だが、ただでさえ厳しい芸能界で、しかも己に厳しく生きているふたり。


『変わった』と言っても、根っこの部分までは変われない。


ふと疲れた時、弱さが顔を出すことがある。


そんな一面は人の心を大きく惹きつけ、その距離は急速に縮まっていく。





このふたりにもそのような事が起こり、


身体を触れ合わせることで、心の疲れを癒した。


それがばれたのが、半年前のスキャンダルである。


その後もいろいろあったが、現在は高校時代と変わらないような関係に戻っている。










「えっ、これから名古屋に行くの?」


「ああ。明日向こうで師匠の新作披露パーティーがあるんだ。外村もそれに出るよ」


「なんか忙しいね。別に今夜出なくてもいいのに・・・」


「外村の指示さ。なんか向こうでやることあるみたいだ。それに今日出来る事があるのなら、やっておいたほうがいい」


「ねえ、もう少し楽にしたほうがいいんじゃない?そりゃ忙しいとは思うけど、なんか今の真中、ピンと張り詰めすぎてると思うよ」


さつきは心配そうに淳平の顔を見つめる。





以前の淳平なら、このような時は笑顔を繕ってでもさつきを安心させようとしただろう。


だが今の淳平には、そんな余裕すらない。


「楽なんかできないよ。俺の周りでみんな頑張ってるし・・・綾にまでメチャメチャな負担をかけてるんだ」


そう話す淳平の表情は、怒りと悔しさが織り交ざったものだった。


「あっ・・・」


それを見たさつきの表情もさっと曇る。


「さつきも知ってるだろ・・・俺と外村が綾にさせている事・・・  俺は最低の男だよ」


カップを持つ淳平の手が、自らに対する怒りで小刻みに震えていた。
















カフェでふたりが談笑している間に、前田は車をカフェの前に着け淳平を待っていた。


淳平には似あわない、国産の高級スポーツセダンは外村プロの社用車ではあるが、ほぼ淳平の専用車となっている。


これは『速くかつ快適に移動出来、ある程度はったりが利く車が芸能人には必要』という考えを持っている外村の回答でもある。


はったりとしての効果は別として、事実快適に長距離を移動できるこの車を淳平はそれなりに気に入っており、自らハンドルを握る事もさほど苦にならない。


「じゃあなさつき!頑張れよ!」


淳平はさつきに手を上げると、助手席に前田を乗せて一路名古屋へと向かっていった。





さつきはしばらく淳平の車のテールランプを眼で追っていく。


「つかさ、あたしたちもそろそろ行くよ!」


「あ、そっか。もうそんな時間か」


脇に佇む女性マネージャーに言われて、さつきは次の仕事の時間が迫っていることに気付いた。


そしてマネージャーと共に仕事場へと向かっていく。





(真中・・・頑張るのはいいけど、頑張りすぎは良くないよ・・・)





(それにいくら頑張っても・・・もう西野さんは戻ってこないんだから・・・)





淳平に何かをしてあげたいが、何も出来ない。





仕事場へと向かうさつきの背中には、そんなもどかしさが表れていた。


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