C-18 - takaci 様




「なにすんのよ佐藤!苦しいから離してってば!!」


掴み上げられながら悲鳴を上げるあゆみ。


「さ、佐藤くん、どうしたんだよ突然・・・」


財津も突然の佐藤の行動に驚きを隠せない。


「ちょっと佐藤!なにやってんのよアンタ!?」


「佐藤!あゆみを離しな!!いきなりなによ突然!?」


慧とりかが慌てて寄って来た。





だが佐藤は一向に構わずに、あゆみに対して詰問を始めた。


「おい有原、お前別所が財津に悩み相談してたことを知ってるな?」


「し・・・知ってるわよ。だってあたし保健室で小宵ちゃんが泣きながら財津くんに抱き寄ってたの見たもん・・・泣き落としなんて卑怯よ・・・」


「じゃあそのことに関して、お前は別所になんと言った?」


「はあ?なに言ってんのよ?いいから離して・・・」


「答えろ!!」


苦痛で顔を歪めるあゆみに対し、佐藤は厳しい形相で強い口調を続ける。





その迫力に圧倒されたか、あゆみは苦しい表情のままゆっくりと答え始めた。


「小宵ちゃん・・・ちっちゃい頃にお母さんが目の前で事故で死んだって・・・小宵ちゃんをかばって・・・それ小宵ちゃん思い出して苦しいからって財津くんに相談して泣きついて・・・だから小宵ちゃんのせいでお母さんが死んじゃったんじゃないのって言ったのよ・・・悔しかったから・・・」





「分かった。もう十分だ」


佐藤はとても暗い視線をあゆみにぶつけて、側に居たりかと慧目掛けてあゆみの身体を乱暴に投げつけた。





「きゃっ!!」


悲鳴を上げてふたりに抱えられるあゆみ。


「ちょっとあゆみ大丈夫!?佐藤いきなりなにすんのよ!?」


あゆみを抱えながら怒る慧。


「佐藤いきなりなんなのよ?女子に対する態度じゃないよ!いくらなんでも酷すぎる!!」


りかも同様に怒っていた。





だがそれ以上に怒っていたのは、


「もうっ!!絶対に許さないっ!!」


体勢を立て直したあゆみだった。





バキイッ!!


佐藤目掛けて怒りを込めたハイキックを加える。






「痛ったあ〜いっ!!」


蹴ったあゆみ自身が痛みで利き足を抱えて派手なアクションを見せる。





それとは対照的に、佐藤は蹴られた頬に手を当てながらも静かだった。


そして、


「有原、こんな痛みよりもっと辛い苦しみを味わうかもしれんぞ」


低いトーンで静かにそう告げた。


佐藤の身体全体から事態の深刻さを伝えるような雰囲気が湧き上がる。





「な、なによその苦しみって・・・」


そんな佐藤の様子を見てやや圧倒されるあゆみ。





「その説明は後だ。それより別所の家に行きたい。誰か場所知らないか?」


佐藤がそう言うと、名央が小さく手を上げた。


次に、


「財津、山本さんと連絡付かないか?山本さんと別所の兄貴ってクラスメートなんだろ。別所の兄貴に大至急伝えなければいけないことがある・・・」


佐藤の鬼気迫る表情に圧倒された財津は、黙って携帯を取り出す。


「千倉、案内してくれ。先生には俺があとから説明する。お前らには迷惑かけない。とにかく今から行こう」


佐藤、財津、名央の3人は急ぎ足で教室から去っていった。









幸運にも、財津の携帯は岬と簡単に繋がった。


岬のほうも休み時間だったようで、すぐにクラスメートの別所の兄、良彦に取り次いでくれた。


そしてこちらも財津から佐藤に代わる。


「小宵さんのお兄さんですか?俺、クラスメートの佐藤と言います。落ち着いて聞いてください」


暗い表情で歩きながら、佐藤は携帯に向かって説明を始めた。





その説明をすぐ側で聞いていた財津と名央の顔色がどんどん蒼く、深刻になっていく。


「俺の杞憂かもしれません。けど今の小宵さんと同じような状況が俺の妹に起こって、それで妹は亡くなりました。だから今は騙されたと思って家に向かってください」


最後にそう言って、何回か相槌を打った後に携帯を切った。





「別所さんのお兄さん、なんだって?」


携帯を受け取りながら佐藤に尋ねる財津。


「今から家に帰ってくれるそうだ。マジで杞憂で済んでくれればいいんだけどな・・・」


そう言いながらも、深刻さは変わらない。


「ねえ佐藤くん、妹さんは病気で亡くしたって聞いたけど・・・」


おずおずと名央が聞いてきた。


「ああ、心の病気だよ」


「心の病気?」


「人の心なんて弱いもんなんだ。それに言葉は時としてどんな刃よりも鋭くなるんだ。命をも落とすほどにな」


「そんな、じゃあ小宵ちゃんは・・・」


「まだ分からない。とにかく行こう」


3人は急ぎ足から駆け足へと変わっていた。









名央の案内で小宵の自宅マンションに着いたのは3人のほうが早かった。


急いで部屋の前に行き、呼び鈴を鳴らし、ドアを叩く。





だが、返事はなかった。


「家にいないのかも・・・どこかに出かけてるんじゃ・・・」


「それなら後で探せばいい。とにかく今は兄貴が帰ってくるのを待とう」


心配そうな表情を浮かべる名央に佐藤はそう言った。


だが、深刻な重い空気はどんどん増していく。





佐藤たちから遅れるほど10分ほどで、良彦が帰ってきた。


動揺した表情で・・・





良彦は手を震わせながら鍵を開けて、小宵の名を呼びながら部屋に入っていく。


財津が続く。


名央もそれに続こうとした。


が、






「千倉は来るな。ここにいろ」


佐藤に止められた。


「なんで?だって小宵ちゃんが・・・」


「最悪の事態だったら、それは見るに耐えない光景なんだ。女子は見ちゃいけない」


「でも!!」


玄関でふたりがそう言いあっていると、










「うわああああああ!!!小宵いいいいいい!!!!!」










良彦の叫び声が聞こえてきた。










「小宵ちゃん!!」


佐藤の制止を振り切り、部屋に入る名央。


「あっ千倉!?待て!!」


佐藤もそれに続いた。









「ひっ!!」


名央の顔が引きつる。




バスルームだった。










後からやってきた佐藤が名央の前に立って視界を塞ぐ。


「お兄さんは救急車を!財津、とりあえず止血だ!急いで!!」


慌てていた良彦と財津に的確な指示を送る佐藤。


そして名央の手を引っ張り、ダイニングに連れて行った。









「ちっくしょう!!!」


バァン!!


佐藤は悔しさをダイニングのテーブルに思いっきりぶつけた。


その手は怒りと悔しさで震えていた。





(小宵ちゃん・・・小宵ちゃん・・・)


名央は涙を流しながら、身体全体が震えていた。






とてつもなく大きなショックだった。










両手を浴槽に入れて血の気が失せた小宵の表情と、










真っ赤に染まったバスタブが目に焼きついて離れなかった。





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