C-15  - takaci 様



 
2月の屋上は基本的には寒い。


先日、佐藤と財津が話していたときのような陽気に包まれることは稀である。


あれから数日後、冷たい空っ風のなかで同じ場所に今度は5人の女子生徒が集まっていた。


「有原、こんな場所で話ってなによお?あたしメッチャ寒いんだけど・・・」


「同感。用件は手短に頼むわ」


りかと慧は揃って寒がり、風が吹くたびにぶるっと身体を震わせる。


だがあゆみはそんなふたりのことは全く気にしてない様子で、屋上のフェンスを細い指で掴みながら淡々と語り出した。





「少し前にここで財津くんと佐藤くんが話してたんだ。今日みたいに寒くなくって、ポカポカ陽気の日だったんだけどね・・・」


「あのふたりが?で、何の話をしてたのよ?」


やや怒ったような口調になる慧。


「財津くんが小宵ちゃんを意識してるって・・・小宵ちゃんも・・・財津くんを少し気にしてるって・・・」


「えっ!?」


フェンスを掴むあゆみの指は寒さではない別の理由で震えていて、あゆみの言葉を聞いたほかの4人は揃って驚きの声をあげた。


「ねえ小宵ちゃん、そのあたりどうなのかな?小宵ちゃんも知ってるよね?あたしが財津くんを好きなこと・・・」


あゆみは小宵たちに背を向けたまま、鋭い口調で小宵を問い詰める。


「こ・・・小宵は・・・小宵は・・・その・・・」


小宵はほかの3人の視線を一斉に受けて、下を向きモジモジしながら返答に詰まっている。


「ちょっと小宵、真剣に答えなさい。あんたも財津くんが好きなの?」


慧が小宵の両肩を掴み身体を揺さぶる。


それを受けた小宵は渋々ながら、ゆっくりと答えた。





「好きって決まったわけじゃないよ。ただ少し気になるって言うか、ちょこっとドキドキするかなって感じ。まだ小宵自身も良く分からないんだよ・・・」


「でもお兄さんは?小宵ってお兄さん大好きなんでしょ?」


「おにいちゃんも好きだよ。けど財津くんみたいなドキドキはなくって、それをほかの人に相談したら『小宵は財津くんに恋心を抱いてる』って言われた。だから小宵も・・・財津くんを・・・好きだと・・・思う・・・」


「あちゃ〜、こりゃ最悪だわ・・・」


小宵の途切れ途切れの告白を聞いて、りかは思わず天を仰いだ。




「小宵ちゃんルール違反だよね?あたしが財津くんを好きなのを知ってて、それでアプローチするなんてルール違反だよね?」


あゆみは必死の形相で小宵を問い詰める。


「ちょっと待ちなよあゆみ、ルール違反と決め付けるのはどうかな?そもそも恋愛にルールなんてないんだよ?」


すかさずりかが仲裁に入った。


「でもあたしたち友達だよね?友達同士で同じ男の子を好きになるってどうなの?しかもあたしが最初に財津くん好きになったんだよ。小宵ちゃんはお兄さんが好きで・・・みんな知ってたよね?それってどうなの?」


あゆみは涙を浮かべて、真剣な面持ちで訴えた。


「う・・・」


固まるりか。


「・・・」


名央は圧倒されて言葉が出ない。



「まあ・・・その・・・なんだかな・・・」


そんな中で慧が声をあげた。


「小宵が財津くんを好きになったのは仕方ないと思う。土橋も言ったけど、恋愛にルールはないし、自由なものよ。確かにあゆみは横槍が入って面白くないだろうけど、仕方ないんじゃない?」


「あたしも同感。恋愛にルールはないし、友達と同じ男子が好きになることも有りうること。小宵はウチらが兄貴に会ったときにだれか好きにならないかどうか心配してたけど、有原はその心配をしてなかったからショックが大きいんだよ。小宵を責められることじゃないよね」


慧とりかは揃って小宵を庇う個人見解を出した。


だがそれでもあゆみは、


「そんなの・・・分かってるけど・・・言ってることは分かるけど・・・納得できない!これがまだ知らない人なら受け入れられるかもしれない。けど小宵ちゃんだなんて・・・あたしの友達からこんなことになっちゃうなんてどうしても納得できない!」


あゆみは涙を流しながらも、一歩も引かない姿勢を見せる。





あゆみにとってすれば、財津を最初に好きになったのは自分である。


そして小宵からは自身の兄が好きだと打ち明けられていた。


それがここに来て、『小宵も財津が好き』と言われても『はいそうですか』と簡単に受け入れられるわけがない。


例え、先のバレンタインで本命チョコが失敗に終わったとしても。まだ諦められない。


あゆみは『小宵に裏切られた』と感じていた。





「あたし、こんな気持ちで小宵ちゃんと友達付き合いなんて出来ないと思う」


「あゆみちゃん、なに言い出すのよ!?」


ずっと黙っていた名央が思わず声をあげた。


「そうよ。あゆみバカ言うな!」


「あゆみ、ちょっと落ち着きな!」


慧とりかは揃ってあゆみに寄り、なだめようとする。





「でも・・・あたしは・・・」


あゆみは素直な娘である。


だから自分の感情を押し殺して器用に人付き合いをするという真似は出来ない。


それゆえに『小宵と絶縁』という言葉に繋がってしまった。




それを受け、


「・・・分かった・・・」


小宵は素直に受け入れてしまった。





「ちょっと小宵、それでいいの?」


「そうだよ小宵!あんたも落ち着いて考えな!」


慧とりかのふたりは、今度は小宵に寄ってきた。




「あゆみちゃんの気持ち、小宵も良く分かる。小宵もルール違反みたいに感じてる。だから・・・仕方ないよ・・・」


うつむいたまま、落ち込んだ声で小宵はそう答えた。


今にも泣き出しそうな声で・・・




暖かい陽気は、人の心を開ける効果があるかもしれない。




逆に寒い寒気は、人の心を閉ざしてしまうのかもしれない。






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