C-14 -
takaci 様
「よう財津、最近別所と仲よさそうだなあ」
「な、なんだい佐藤くん、急に・・・」
このとき、財津の頭が一瞬ピクンと反応した。
図星を突かれた表れである。
「まあ、何だ。ちょっと話をしようか?」
佐藤はそう話して、財津を教室の外へと連れ出した。
そして向かった先は屋上だった。
高いフェンスにもたれかかり、本題に入る。
今日は春が近いと思わせるほどの陽気があり、あまりの寒さで誰も寄り付かない2月の屋上とは感じられないほどの快適さだった。
その暖かい陽気が、人の心の扉を開けさせる効果があるのかないのか?
それはその場に立つ者でないと分からない。
「で、佐藤くんは別所さんに関心があるの?噂では佐藤くんには年上の彼女がいるって聞いたことあるけど・・・」
「ああ、俺はそう」
「佐藤くんが羨ましいな」
「そうでもないと思うぜ。年上だといろいろうるさいし。それに財津ってもてるから、その気になれば彼女なんてすぐに出来るだろ?」
「そうやってよく言われるけど、想いってなかなか通じないよ。特に年上となるとね」
「ってことは、財津は年上が好みなのか・・・それかもう好きな年上の人でもいるの?」
「幼馴染の姉みたいな人なんだけど、この前のバレンタインで振られたんだ」
「そう・・・なんだ。悪かったな。嫌なことを思い出させて・・・」
佐藤は気まずそうな表情を浮かべたが、逆に財津はサバサバした笑顔で、
「いいよもう。終わったことだし、良くも悪くも白黒はっきり付いたし。そりゃ悲しいけど、結構すっきりしたよ」
「で、その代わりって言っちゃ悪いが、別所に優しくなってると・・・」
「佐藤くん、やけに別所さんが気になるみたいだね。個人的には彼女がいて、ほかの女の子まで好きになるのはどうかと思うけど・・・」
「そりゃ誤解だ。俺は別所を何とも思ってない。別の意味で気にしてるのは俺の彼女だよ。別所と仲良くなってさ」
「へえ、そうなんだ」
「だから、皆まで言わなくても分かるだろ?俺の質問の意図が。財津よ?」
「まあ、なるほどね。でもつまり裏を返せば、別所さんが僕のことを気にしてるとも取れるけど・・・」
「その通りだよ」
「ええっ?」
驚く財津。
「マジだって。その相談が別所から俺に回ってきて、俺が自分の彼女に相談して、それでまず財津の気持ちを確かめようってことになってさ。だからこうして聞きづらい質問を屋上なんかでしてるわけだよ」
「そうなんだ。別所さんが僕のことを・・・ちょっと驚いたよ」
まだ言葉どおりの驚愕の表情を浮かべている。
「でもよお、財津って俺と違ってもてるだろ?有原からも本命チョコ貰ってたよな。そこんとこはどうなんだ?」
「う〜ん、有原さんには悪いけど、あまり意識してないよ。別所さんのほうが気になる・・・かも・・・しれない・・・」
後半、言葉が途切れ途切れになりながらも、財津は小宵への気持ちを肯定した。
やや空気が重くなる。
「まあ有原も悪くないと思うけど、本命チョコ最悪だったんだろ?そりゃ引くよなあ!」
重い空気を打ち消すような明るい口調で、佐藤は冗談交じりの言葉を吐いた。
「そ、そうなんだよね・・・あの兄貴さえも苦しめた殺人チョコは・・・何がどうなってチョコがああなるのか不思議だよね!」
吊られて財津も苦笑いを浮かべる。
「ま、有原には悪いが、財津にとって有原は恋愛対象外ってことか?」
「まあそうだね。あとこれは推測だけど、僕の兄貴が有原さんに何らかの好意を寄せてるみたいなんだ。兄弟揃ってひとりの女の子を争うってのも・・・ね?」
「・・・だな!」
財津、佐藤両名共にはっきりとした言葉は示さないが、アイコンタクトで意思の疎通は出来ていた。
「でもゴメン、別所さんへの気持ちは僕自身も分かんないんだ。さき姉・・・まえに振られた女の人のことを引きずってないとは言い切れないし、大事なことだから自分自身の気持ちに整理をつけてからきちんと返事したい」
財津が真面目な顔でそう答えると、
「まあ、別所もまだおぼろげながらって感じだし、今まで通りダベったりしてやってくれよ。結論出すのはまだまだ先でいいからさ」
佐藤も顔を引き締めてそう返す。
そしてふたりは屋上を後にした。
この会話がふたりだけのものだったらなんら問題はなかった。
だが、こういうときに限って聞き耳を立てている者がいた。
そうじゃないと話が成り立たないのでもあるが・・・
踊り場の陰に隠れて、なんとあゆみが立っていた。
財津の同行が気になり、付いてきてしまったのである。
だがこの会話は、あゆみの心をえぐり、深く突き刺さるものだった。
口から魂が抜け、しばらく茫然自失としていたが、財津たちが屋上から立ち去ろうとすると慌てて姿を隠した。
(小宵ちゃんが財津くんを好き・・・でもこれって裏切りじゃない?)
(だって財津くんはあたしが先に目をつけたんだから・・・途中から横取りなんて許せないよ)
(いくら友達でも・・・これは許せないよ!)
あゆみの瞳に怒りの炎がメラメラと点っていた。
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