C-13  - takaci 様




この長い沈黙を破ったのは、琴美の言葉だった。


「ぶっちゃけのところ、小宵ちゃんはどうしたいの?その有原さんがいなければ、財津くんって男の子と仲良くなりたいの?」


琴美は強い視線を小宵に向けて放つ。


それを受けて、





「うん・・・」


小宵は小さく頷いた。




「それなら、まずは義彦にその財津くんの気持ちを確かめてもらうのが第一!」


「「ええっ?」」


琴美の言葉に佐藤と小宵は揃って驚きの声をあげる。





だがそれでも琴美はけろっとした表情を浮かべて、


「だって、まずはその財津くんの気持ちを確かめるのが必須でしょ。財津くんが小宵ちゃんのことをどう思ってるのか、有原ちゃんとどっちが好きなのか、それとも別にほかの好きな女の子がいる場合も考えられるよ。問題は一つ一つ丁寧に潰していかないとね」


そう言って、コーヒーカップに口をつけた。





それに対し、


「それを俺が財津に聞くの?なんで?」


佐藤は思いっきり不満の表情を浮かべた。


「だってほかに聞ける人がいないじゃん。小宵ちゃんが直接確かめるのもまずいと言うか本心を話さない場合もあるから、やっぱここは同姓のアンタの出番でしょ!」


琴美は相変わらずけろっとしている。


「マジかよお・・・一歩間違えばクラスメートの女子同士のドロドロ恋愛模様に足を踏み入れることになるんだぜ!琴美は俺に地雷原に入れと言うのか?」


「そう」


「そうって・・・そんなあっさり言うなよお・・・」


佐藤は呆れてそれ以上の言葉が出てこない。




「小宵ちゃん!」


「は、はいっ!」


突然、琴美は小宵の名を呼び、ビクッと反応する小宵。


「恋愛も友情もどっちも大切よ。でもこうなった以上は傷つくことを恐れちゃダメ。小宵ちゃんは財津くんとの恋愛を第一に考えるべきよ!」


「れ、恋愛ですか?小宵まだ財津くんに恋愛感情を抱いてるとは思ってないんですけど・・・」


「でもさっき、たまにドキドキするって言ったでしょ?」


「は、はい・・・」


「それで十分!小宵ちゃんは財津くんが好きなの!有原ちゃんのことが頭に引っかかってるから簡単には認められないんだけど、本心じゃ財津くんに恋心を抱いているのよ!」


「恋・・・このドキドキが恋なのかなあ・・・」


「小宵ちゃん、今あなたは財津くんのことを考えてるよね!財津くんを思い浮かべてるよね!」


「は、はい・・・」


「今の小宵ちゃん、とってもいい表情してる。、まさに恋する女の子の表情だよ!その目と顔色が本心だよ!口でいくら誤魔化しても身体は正直だよっ!」


「そ、そうなんですか・・・」


琴美の勢いにたじたじの小宵の様相である。





「だからまず義彦に財津くんの本心を探ってもらう。ここで小宵ちゃんは傷つくかもしれない。有原ちゃんも傷つくかもしれない。でも傷つくのを恐れちゃダメ!じゃないと前に進めないよ!」


「は、はい!小宵頑張ります!」


琴美の勢いに吊られたか、小宵はやや引きつったような笑みを繕ってガッツポーズをする。





「その、女子の心を傷つけるような真似を俺にしろって言うのかこの女は!」


ここで佐藤がやや怒ったような口調で琴美に文句を言った。


「義彦、ここは小宵ちゃんのために汚れ役を背負ってちょうだい・・・」


琴美は佐藤の肩をぽんぽんと叩きながらなだめすかせるような口調でそう言った。


「なんで俺がそんなことを・・・」


「義彦、今はまだ財津くんの本心を確かめるだけだよ。何も無理に財津くんの心を動かせと言ってるわけじゃないんだからね。今は」


不満たらたらの佐藤に対し、琴美は悟ったような笑顔でそう語る。





「琴美」


「なに?」


「俺、最後の『今は』ってのがすっげえ気になるんだけど」


「だって状況によっては、財津くんの心を正しく導く役目をあんたにしてもらう可能性もあるからね」


「それって俺が財津と有原と別所の三角関係に口を出すって事だろ!?」


「そうなるね」


「簡単に言うがなあ、そうなればマジで一歩間違えればドロドロだぞ!そんな役目は御免被る!」


「だからドロドロにならないように注意深く導くのよ。それくらいやってあげなさいよお。義理でもチョコ貰ってるんだしさあ」


「俺、すっげえ嫌な予感がするんだけど・・・」


佐藤の顔色が悪くなっていく。


「小宵ちゃんの恋を成就させるためにも頑張んなさいよお。ひとりじゃ無理でもまわりの助けがあればうまく行くことなんてザラなんだからね!正面写真のマツダだってそうなんでしょ?」


対照的に琴美はずっと笑顔のままだ。





ここで小宵が遠慮がちに切り出した。


「あの・・・それってどういう意味ですか?小宵よく分からないんだけど・・・」


小宵には佐藤と琴美の会話の意味がいまいち理解出来ていなかったようだ。


「ああ、マツダの例えね。正面に飾ってある写真の車なんだけど、1991年のルマンで日本車初の総合優勝をした車なんだよ。結構有名なんだ」


佐藤の説明を受けて、


「うん、ルマンは分かるよ。小宵が生まれる前の話だよね。で、それがどういう関係があるの?」


「この年のルマンは主催者側もごたごたしてて、いろいろ不可思議な点もメッチャ多かったんだ。マツダはそこを突いて、優勝候補の有力勢より170キロ軽い最低重量で走ったんだよ」


「えっ、でもそれって公平じゃないんじゃないの?170キロって大きいよね?」


「表向きは『性能調整』。要は遅い車でも速い車と対等に戦えるように重量を細かく調整してたんだ。でもマツダの170キロは異常に軽いよね」


「うん、小宵もそう思う」


「まあ見方を変えれば、その重量でも互角に走れないだろうと主催者側にタカをくくられたわけなんだけど、けど結果としては優勝しちゃったんだ。まさに『優勝しちゃった』んだよ。主催者も関係者もびっくりの結果になったんだ」





「けどね・・・」


ここで琴美も割って入ってきた。


「マツダはそのマイナス170キロを主催者と交渉して勝ち取ったのよ。それも戦いなわけ。見方を変えれば確かに公平じゃない。だから義彦は787Bを認めてないんだけど、けど別の見方をすればその最低重量を認めさせたことも勝負事なのよ。正面切って正々堂々と挑むのも勝負の形だけど、裏工作して自分達が有利に戦えるようにするのもまた勝負なわけ」


「勝負って事は、小宵はあゆみちゃんと戦うんですか!?」


ここで驚きの表情を見せる小宵。


「ひとりの男の子をふたりの女の子で取り合うんだから勝負で間違いないよ。恋愛の勝負ね」


「そんなあ・・・小宵自信ないなあ・・・」


目線を落とし困ったような表情を浮かべる。


「そのために、とりあいずあたしと義彦が小宵ちゃんの見方になるんだから!小宵ちゃんひとりだと不安かもしれないけど、あたし達は味方だからね!頑張ろう!おーっ!!」


ひとりテンションの高い琴美だった。





(なんで小宵が・・・あゆみちゃんと争うことになったのかなあ・・・)


小宵はそんなことを考えながらふうっと小さなため息をつき、冷めたコーヒーカップにすっと口をつけていた。





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