C-12 -
takaci 様
2月も下旬になり春も近い季節になるが、相変わらず寒気が頑張っていて凍えるような日々が続いている。
そんなとある日の放課後、小宵が佐藤に『相談に乗って欲しい』と持ちかけてきた。
そしてこのふたりが行き着く先は自然と決まっている。
佐藤は小宵を連れて、『Racing
Sports』の扉を開けた。
「やあ、おふたりさんいらっしゃい」
店主が優しい笑顔で声をかけてきた
さらに、
「あっ、義彦お帰り〜。小宵ちゃんご無沙汰〜」
琴美が待っていた。
「あっ、こ、こんにちは」
慌てて頭を下げる小宵。
「よっ琴美、今日はよろしく頼むよ」
「小宵ちゃんの悩みならあたしも放っておけないって。あたしが役に立てるなら喜んで!」
琴美は元気良く胸を張った。
小宵が佐藤に持ちかけてきたのは、『恋愛みたいなものに関する男の子の意見』だった。
それに対し、
「でもそれなら年上の同姓もいたほうが良くない?」
と佐藤は言い、メールで琴美をここに呼び出していた。
佐藤と琴美は店内奥にあるテーブルに向かうが、小宵は入り口側に立ってじっと一点を見つめていた。
「あれ、別所どうした?」
「あ、ううん。ただ写真が変わってるなあって思って・・・」
「写真?ああこの車ね」
店の入り口にある大きな写真の車が、以前とは別のものに変わっていた。
http://mahoroba.s70.xrea.com/up/img/106.jpg
「しっかし今度はこれですか。店長もベタっすねえ」
佐藤はやや皮肉交じりの笑顔で店主に向けてそう言った。
「でもまあ、日本人の心に残るCカーと言ったらやっぱこの車、マツダ787Bだろ」
「でも厳密に言えばこれってCカーじゃないですよね?」
佐藤は店の入り口に引き返し、改めて写真を見上げる。
「IMSAGTPだな。でも似たようなもんと言うかほとんど同じだ。義彦くんはあまり好きじゃないんだよな、787Bは?」
「前に飾ってあった956のほうがはるかに好きですね。787Bは確かに偉大な功績を残したけど、けど実際には裏の理由があっての話でしょ?」
「まあそうだが、でもそれを知る日本人はほとんどいない。残るのは結果だけだよ」
「それが少し気に入らないんですよ。まあ結果は認めるけど、完全に納得は出来ないって感じですかね・・・」
「義彦くんらしい答えだな。まあそう思ってる人も少なくは無いけどね」
店主は優しい笑顔を崩さないまま、義彦の皮肉交じりの指摘を大人の対応で流していた。
「おーいふたりとも、早くこっち来なさいよ〜」
店の奥から琴美の元気な声が届いた。
店の奥にあるテーブルで店長が淹れてくれたコーヒーをすすりながら3人は本題に入った。
「で、小宵ちゃんは恋愛の悩みなんだよね?」
琴美の目と顔がとても輝いている。
「う、うん・・・恋愛なのかどうか分からないけど・・・」
小宵は顔を伏せて、若干目も泳いでる。
その様子から緊張が感じられた。
対する佐藤は落ち着いた様子で、静かに聞き耳を立てている。
「最近、財津くんが優しくって・・・小宵それがちょっと気になってて・・・」
「財津くんって誰?小宵ちゃんのクラスメートか誰か?」
「うん、同じ学級委員同士で少し前にすごくお世話になって・・・それでバレンタインにチョコあげたんだ。義理チョコだけどね」
「確か俺が貰ったのと一緒だよな?」
「うん」
「あっ、あの美味しかった手作りチョコね!あたしも覚えてるよっ!」
琴美の笑顔が光る。
「それが原因かどうか分からないけど、バレンタイン以降の財津くんの態度が気になるって言うか、なんか優しい感じがして・・・」
「で、小宵ちゃんはそれをどう感じてるの?」
「う、うん・・・優しいのは嬉しいけど・・・たまにドキドキするときがあるって言うか・・・」
「へえ・・・」
佐藤が生返事をした。あまり関心が無いようだ。
「で、やっぱり男の子は義理でもチョコ貰うと自然と優しくなるのかなあ?佐藤くんはどう?」
「どう?って言われても逆に聞きたいよ。俺って態度変わった?」
「ううん、佐藤くんは前と変わってないよ。けど佐藤くんには琴美さんがもういるし、けど財津くんには誰もいないわけで・・・そのあたりのことを佐藤くんに聞きたくって・・・」
「要は彼女いない男が義理でもチョコ貰うと態度が変わるかって事?」
佐藤が尋ねると、
「うん・・・」
小宵は頬をやや紅くして頷いた。
「まあ、微妙だな。正直相手によるし、義理でもあんなに美味いチョコ貰えれば心は動くかもな。別所ってかわいいし」
「へえ、じゃあ義彦の心も少しは動いたんだあ・・・」
琴美は佐藤に対してやや冷たい視線を送る。
「いや俺は別に。だって態度変わってないでしょ。まあ話す機会が増えた程度じゃない?」
「うん、佐藤くんはほとんど変わってないよ。けど財津くんは明らかに優しくなってる気がして・・・小宵の自意識過剰かもしれないけど・・・」
「バレンタイン以前になんかきっかけがあったんじゃないの?そもそもなんで義理チョコあげたの?」
琴美が指摘した。
「一度教室で倒れたときに財津くんに保健室まで運んでもらって、その時に小宵の悩みも聞いてくれたんだ。そのお礼」
「ああ、あのときの過呼吸ね」
佐藤が当時の状況を思い出した。
「それじゃないかな。女の子が男の子に悩みを話すなんて、よっぽど心を許してないと無理だと思うからさ」
と琴美。
「う〜ん、それがあってさらにチョコ貰って財津の心の火が点いたのかもな。でもちょっと待てよ、確か財津ってほかの女子からも・・・」
佐藤は怪訝な表情を浮かべて記憶の糸を辿る。
「うん、あゆみちゃんが本命チョコ渡してるよ。それも悩みのひとつなんだよ」
「あゆみちゃんって誰?」
「有原あゆみっつってクラスメートで別所の親友。そうだよ有原がチョコ渡してんじゃん!」
琴美の質問に佐藤が代わりに答えた。
「え?ちょっとそれってまずくない?友達と一緒の男の子が好きになるってギスギスした関係になっちゃうよ?」
不安げな表情を浮かべる琴美。
「それが小宵気になるんだ。小宵が財津くんと仲良く話してたとき、なんかあゆみちゃんが悲しそうな表情でじっと見てたんだよね・・・」
小宵の顔が暗くなる。
「で、そんな今の状況から、別所はどうしたいんだ?財津と仲良くしたいの?それとも有原との友情を優先する?」
「その判断が出来れば小宵こんなに困らないよう!そのための相談なんだからあ!」
佐藤が確信を突いた質問をすると、小宵は拗ねたような表情を浮かべた。
「う〜ん・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
三者三様に黙り込んで思考を深める。
カチャ・・・
佐藤がコーヒーカップを静かに手に取り、小さな音がやけに大きく感じられる。
それほどまでに3人は黙り込んでしまっていた。
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