「おみまい」6 - takaci 様
その6
「えっ!?」
一瞬、先ほどの妄想が頭をよぎる。
(おいおいおい!さっきの妄想と同じだよ!じゃあひょっとしてこの後は・・・)
(だーーっ!!何考えてんだ俺はあ!!そんな事あるわけねえっつうの!!)
「あ・・・やっぱりダメ・・・ですよね・・・家に帰れば温かいご飯もあるだろうし・・・」
落ち込むこずえ。
「い、嫌じゃあ無いけど・・・でもほんとにいいの?」
「えっ?」
「いやその・・・俺なんかが上がっちゃっていいの?その・・・ほかに人が居ないってのに・・・あ!だからって何もしないよ!!うん!!」
「あ・・・」
その言葉でこずえの顔が赤くなった。
(そ、そうだよね。あたし・・・真中さんと二人っきりになるんだよね)
(あたしって・・・はしたないなあ。男の人が苦手なのに誘っちゃってるよお・・・)
(でも真中さんって優しいなあ。あたしの事を気遣ってくれてる。そんな真中さんをこのまま帰すなんて・・・)
「・・・真中さんなら・・・大丈夫です。それに一人でご飯食べるのも寂しいし・・・なんか、心細くって・・・」
うつむきながら力の無い声でそう話すこずえ。
(そうだよなあ。病気の女の子が一人っきりだったんだ。ものすごく不安だったはずだよ)
(ちょっと気が引けるけど、このまま帰るよりしばらく一緒に居てあげたほうがいいよな・・・)
淳平は自分にそう言い聞かせると、
「じゃあ、こずえちゃんがいいんであれば、俺も一緒に弁当食べてくよ」
そう言って軽く微笑む。
「あ、ありがとうございます!じゃ、じゃあどうぞ!!」
こずえはややぎこちない動作で淳平を招き入れた。
でも顔はほころんでいる。
玄関からふたりの男女の姿が消え、静かに扉が閉められる。
扉の中は、誰にも邪魔されないふたりっきりの空間。
(不思議だよなあ。女の子の家って何でこんなにもいい匂いがするのかなあ?)
(西野の家も入った瞬間にとてもいい匂いがして、部屋も綺麗だったよなあ)
(東城の家は・・・匂いは覚えてないけどとにかくデカかった。もう明らかに生活レベルが違ってて、ある意味別世界だったよなあ)
美女二人の家の様子を思い出しながら、淳平はこずえの後を付いて行く。
「どうぞ。ここが・・・あたしの部屋・・・です」
そしてこずえの部屋に招き入れられた。
淳平はとりあえず部屋を見回す。
(ふわあ。やっぱり女の子の部屋だよなあ。なんか可愛らしくって、ちゃんと整理されて・・・ ないかも?)
(一応片付いてはいるけど・・・なんか雑然としてる?)
「あ、あんまり見ないでくださあい・・・あ、慌てて片付けたんで・・・よく見ると汚れてるから・・・」
「あ、ご、ごめん!つい・・・女の子の部屋ってあまり入った事ないから・・・」
(初めて東城を自分の部屋に入れたとき、俺も同じようなこと言ったよなあ)
(こずえちゃんって俺と似てるのかなあ?浦沢さんが前に言ってた『妄想癖』ってのも気になるし・・・)
淳平は謝りながら目線を落とすと、
「あ・・・」
「えっ・・・あっ!?」
ふたりの目線の先にあるのは、
部屋の片隅にちょこんと置かれた、淳平の鞄・・・
(やっべえ、そういえば鞄渡してたのすっかり忘れてた!気まずいなあ。こずえちゃん『俺に避けられてる』って感じてないかなあ?)
(やああああっ!鞄をここに持ってきてちゃってたよおお!!これじゃああたしが真中さんを無理やり誘い込んだみたいじゃない!!)
「「は・・・ははははは・・・」」
気まずい雰囲気を誤魔化すように、揃って空笑いをするふたり。
それが良かったのかどうか分からないが、二人は鞄について触れることなく、一緒にやや遅めの夕食をとり始めた。
淳平には特に話題が無くて場が持つかどうか心配だったが、こずえから積極的に話題を持ちかけてくれた。
普段は男性恐怖症のせいでなかなかそれが表に出てこないが、こずえは基本的には明るくてよくしゃべる女の子である。
今の相手は『慣れ』が出てきた淳平であり、しかも自室という空間が本人の気付かないうちに『心の鎧』を外させていたので、『素のこずえ』が自然と現れていた。
話の内容は、こずえの家族構成や今までの生活、女子高での話や舞の裏話など、淳平にとってはどれも新鮮なものばかりでどんどん引き込まれていった。
それと共にこずえ本人にも惹かれていく。
(こずえちゃんって、こんなに明るい子だったんだ)
(パジャマ姿で髪を下ろした見た目もだけど、なんか印象ががらっと変わったよなあ)
(この雰囲気、なんか・・・いいな・・・)
目の前にあるこずえの笑顔。
暖かい雰囲気に包まれるこずえの部屋。
決して美味しくはないコンビニ弁当だが、素朴な美少女と共に過ごす空間は弁当の味をとても美味しく感じさせていた。
夕食の間、当然のことながら『映画』の話題が出てきた。
淳平の影響でこずえはすっかり映画ファンになり、レンタルDVDを借りまくっている。
こずえが見た映画の中には淳平が未チェックのものもいくつか含まれており、その中のひとつが部屋の片隅に置かれていた。
映画マニアを自負する淳平にとっては見ないわけにはいかない。
こずえが惹かれて借りてきた映画がどんなものか見てみたい。
そう思うのは必至だ。
夕食後、部屋のDVDプレイヤーにその映画のディスクがセットされた。
見慣れたアメリカの映画会社のマークが画面いっぱいに映し出される。
(この画面が消えた後に映画が始まる。このときのワクワク感はいつでも最高だ)
映画が始まるまでのわずかな待ち時間と、その間に膨れ上がる期待感。.
淳平はこの瞬間がたまらなく好きである。
そして、映画が始まった。
だが、
(面白くないかも・・・)
数多くの映画を見てきた淳平には、少し見ただけで大体のストーリーが読めてしまった。
展開が予想出来てしまう作品は、淳平でなくてもつまらないものである。
(この後たぶん・・・あ、やっぱりそうきたか)
(う〜〜ん、悪くないと思うけど、俺的にはBマイナスだな)
淳平はこの映画に対する興味が次第に薄れてきた。
(でもちゃんと最後まで見よう。途中で見るの止めちゃったら借りてきたこずえちゃんに悪いもんな)
(で、見終わったらすぐに帰ろう。こずえちゃん思ったより調子よさそうだけど、だからって夜更かしさせるのはよくない・・・)
(!!!!!)
左の肩に暖かく柔らかいものが当たる。
その瞬間、淳平の身体が硬直した。
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