「幸せのかたち」プロローグ1 - takaci 様


ザアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ…


激しい雨音が鳴り渡る夜の公園。


「やめてぇっ!!!」


その一角で、金切り声を上げるつかさ。


「つ、つかさちゃん、め、目を覚ますんだあ…」


そんなつかさに、『野獣』小宮山が襲いかかる。








バイトの帰り。


激しい雨の夜。


視界も悪く、人通りも少ない。


「こんな日は、どうせ誰も居ないから大丈夫だよね…」


近道の公園。


ひとりの時は、絶対に入らなかった。


夜の公園、危険は多い。


だが、この豪雨がつかさの判断を惑わせた。


雨をうっとうしく思い、「早く帰りたい」という気持ちが、強く働いてしまった。





それが、この悲劇に繋がる。


小宮山という『野獣』が潜む危険地帯に、鮮やかなグリーンの瞳を持つ『白ウサギ』が足を踏み入れてしまった。


『野獣』が獲物を捉え、一気に襲いかかる。








つかさの身体は公園の茂みの中に、乱暴に押し倒された。


泥水が跳ねて、桜学の制服を、つかさの顔を汚す。


「こ、小宮山くん!?な、なんで…」


「つ、つかさちゃん、も、もう真中のことは忘れるんだ!!」


「な、何言ってるのよ!?やめてッ!!」


「や、やめない。つかさちゃんは俺のものになるんだ!!」


「やめてッ!!誰か助け…ふごっ…」


小宮山はつかさの口を押さえ、手早く猿轡をした。


さらにうつ伏せにして、両腕を後ろで縛る。


小柄で華奢なつかさには、大柄で力の強い小宮山にはなす術がなかった。





腕を縛られたつかさは、再び仰向けにさせられた。


胸に黒い泥がベッタリと付いている。


「んーー!!んーー!!」


助けを訴えたくても、猿轡が機能してつかさは声が出せない。





「つかさちゃん、あんまり暴れないで。俺、つかさちゃんを傷つけたくない…」


小宮山は大きなカッターナイフを取り出した。





恐怖に引きつるつかさの顔。


体の動きも止まった。


カッターの歯に対する恐怖もあるが、


それ以上に、獣の眼をした小宮山に対する恐怖の方が大きかった。


腰に圧し掛かる小宮山に対し、何も抵抗出来ない。





「そう。つかさちゃん、じっとしててね」


小宮山はカッターを使い、泥で汚れた白いブラウスを、


可愛らしいブラジャーをゆっくりと切り裂く。





つかさの白い肌が


さらに、小ぶりで白い、ふたつのふくらみが


そしてその頂点にある、淡いピンク色をした小さな突起まであらわになった。





目を硬く閉じ、顔をそむけるつかさ。


あまりの辛さに、恥ずかしさに耐えられない。





「つ、つかさちゃんのむね…スゲエ…」


小宮山はつかさの乳房を食い入るように見つめる。


そして、泥の付いた両の掌で、それを乱暴に揉みしだく。


「す、スゲエ気持ちいいよ。つ、つかさちゃんも気持ちいいだろ!」


獣の心はさらに加速していく。





「んーー!!んーー!!」


激しく首を振るつかさ。


男を知らない繊細な肌に対して、乱暴な愛撫から生み出されるのは、痛みだけ。


小宮山の手に加え、泥の感触も加わり、それが耐えられないようなおぞましい感触を生んでいた。










ふと、つかさの首の動きが止まる。


涙で歪むつかさの視界に、自らの首にかけている、小さな、赤いペンダントが入った。


(淳平くん…)


最愛の人が頭に浮かぶ。


恐怖に慄いている眼の色が、僅かではあるが、優しい色に変わる。





そのわずかな変化を、獣の眼は見逃さなかった。


「なんだよそれ」


小宮山は、赤いいちごのペンダントを手に取った。


(だ、だめ…)


首を横に振り、眼で訴えるつかさ。


「その眼…そうか、これは真中が…」


普段は思いっきり鈍感な小宮山だが、獣になった今は野性のカンが働いている。





「真中のことは…忘れろぉ!!!」


小宮山の怒りが爆発した。


ペンダントを強く引っ張る小宮山の手。





(だ、だめぇ!!)


だが、つかさの願いも虚しく、細く弱いペンダントの鎖は一気に引き千切られた。


小さなペンダントは小宮山の手により放り投げられ、闇の中に消えていく。




(ああ…)


闇に消えるペンダントを見て、つかさの心は大きな寂しさを感じていた。


毎日欠かさず付けていた「お守り」


ずっとそばにあった、愛しい人の「心」


それが、つかさから離れていく…


つかさは、「心の守り」を失ってしまった。





「こんなものを付けてたって事は…」


獣の眼は新たなターゲットを捜索する。


再度カッターを取り出し、泥で汚れたスカートを一気に切り裂いた。


(やめてえっ!!)


心の中で叫ぶつかさ。


切り裂かれたスカートの下から、かわいいいちご模様のパンツがあらわになる。


「やっぱり…真中の贈ったパンツか!!これは俺も一緒に買いに行ったんだよ!!あの時はひでえ目に遭ったぜ!!!」


当時の事を思い出す小宮山。


怒りに任せて、そのいちごパンツを荒々しく掴んだ。


「んーー!!!」


(やめてえっ!!お願いだからやめてえっ!!!)


再度大きく首を振り、眼で小宮山に訴える。


しかし、その訴えは逆効果だった。


「つかさちゃん。こんなものを付けているからおかしくなるんだよ。真中のことしか見えなくなるんだ。つかさちゃんの心が、真中なんかに汚されてるんだ」


「だから…こんなものは!!!」


いちごパンツに両手を懸ける。


「こんな汚れたモノは…こうしなきゃあダメだあ!!」





ビイイイイィィィィィッッ!!!





激しい雨音の中に、布が引き裂かれる音が響く。


つかさを守る、最後の「塞」


その、いちご模様のかわいらしい「塞」は、荒れ狂う野獣の手により、真っ二つに引き裂かれ…


いちごペンダントの「お守り」と同じように、闇の中に消えていった。


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