「幸せのかたち」 6- takaci 様
「ただいま」
夕方、淳平は自宅に帰った。
そしてそのまま自室に入り、ベッドにゴロンと寝転がる。
「ふう」
大きく息をつき、見なれた天井をボーッと見つめる。
(でも小宮山ってマジでタフだな。あれだけ美鈴に攻撃食らって、その後外村とさつきにも殴られ、蹴られたにもかかわらず、帰る頃には元に戻ってんだもんなあ)
「美鈴ちゃんには、あたしから電話しておくから」
綾の優しい言葉を思い出す。
(まあ小宮山も反省してたし、美鈴は東城から電話で慰めてもらえばたぶん大丈夫だろうけど…)
(小宮山は、俺よりずっと以前から西野のことが好きだったんだよなあ…)
(小宮山の事を、親友のことを考えたら、俺は西野を諦めるべきなのかも…)
(でも…俺も西野が好きなんだ。簡単には…諦められない)
(でももう、外村が言う通り、俺って嫌われたのかも?ずっと放ったらかしだったし、何も言わずに長崎に行っちゃったって事は…)
淳平の目に涙が浮かんできた。
ガチャ
「淳平、あんたに手紙が届いてるよ〜」
母が封筒を持って部屋に入ってきた。
「だーっ!ノックぐらいしろよ!!」
慌てる淳平。
だが、どうやら目に光る涙のことは気付いていないようだ。
「はいはい。じゃあこれ置いとくからね」
母は事務的な青い封筒をベッドの上に放り投げると、部屋から出ていった。
「…ったく、誰だ…!!!」
封筒を裏返した瞬間、一気に顔が変わる。
事務的な封筒に書かれた、可愛らしい『西野つかさ』の文字。
慌てて封筒を開ける。
ベッドに座り、中から封筒とは対照的な、可愛らしい便箋を取り出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――
淳平くん、元気にしてる〜?
あたしは「元気だよ!」と言いたい所だけど…
ちょっと凹んでる。
聞いてよ!このヒドイ話!!
先生から突然、『生徒代表として長崎に行きなさい』って言われて、
心の整理がつかないまま、翌朝には飛行機に乗ってた。
で、気が付いたらこっちに来てたって感じ。
何が『模範生徒』よぉ〜〜!!
こんな事になるんだったら、修学旅行中に淳平くんと抜け出した事がバレてた方が良かったかも?
最悪、退学になってたかもしれないけど、それでも淳平くんと離れるよりはマシだもん!(なんちゃって。キャー恥ずかしい!)
まず、ここの話をするね。
「聖ローザ学園高等学校」ってミッションスクールの女子校の、学生寮にいます。
全寮制ではなくって、3分の1くらいが寮生活をしてるの。
あたしと同じように、都会から来た子も少し居る。
ここはまあ、一言で言ったら『田舎』。
土日は街に出れるんだけど、ホント寂れてるの。
古臭いスーパーや百貨店があるだけで、可愛いお店はなに一つ無し!
ドーナツ屋さんやファーストフードのお店も無いんだよぉ。
さすがに…凹んだ。
でも、いい所もある。
学校自体はとてもいい感じなんだよね。
山を切り開いて作った学校で、敷地内に学生寮もあるんだけど、
すぐそばに海があって、なんか幻想的なんだよね。(この雰囲気が無かったら、あたし絶対に逃げ出してるよ。)
まあそれもあって、都会の雑踏で疲れた心が癒され、洗われてる感じもする。
そう考えれば、ここも悪くないかな?なんて思っちゃったりして。
朝7時に起きてお祈りするのはやっぱキツイけど…
そんな学校だから、恋愛はご法度。
でも、あたし達の年頃で、そんなわけにはいかないよ!
だからこんな事務的な封筒でこの手紙を送ってます。
これだとバレにくいからね。
本当は電話して声を聞きたいけど…それは止めとく。
だって、電話で声を聞いちゃったら、凄く会いたくなっちゃって絶対に泣いちゃうもん…
帰るのは夏休み空けの予定だけど、休み前に帰れる可能性もあるんだ。
って言うか、あたし的には絶対そうしたい。
だってせっかくの夏休みに、こんな所に居たくないよぉ!!
あたしがなんで携帯を持ってきてないか分かる?
校則で禁止されてるって言うのもあるけど…
ここ、電波が入らないの。グスン…
だからお願い!夏休みに入っても帰れなくなった時は、あたしを迎えに来て!
もし、今でも淳平くんが来てくれたら、あたし絶対に飛びついてハグハグしちゃうから!
たとえ淳平くんが東城さんと一緒に来ても、あたしはそうします。
修学旅行のあたしとは違うよ。今は東城さんを突き飛ばしてでも…な〜んてね!
今の状況は、こんな感じです。
淳平くんの周りはどうかな?
お返事、送ってくれると嬉しいです。
でも、ここに直接送っちゃダメだからね。
それだと学校側で跳ねられちゃうから。
だから、申し訳ないけど…ウチに届けてくれないかな?
それなら『家族からの手紙』って事で、私の元に届くから。
じゃ、お返事まってま〜す!!
西野 つかさ
P.S.
淳平くん、ダ・○・○・○!(キャアアアア!!!恥ずかし〜〜〜!!!)
――――――――――――――――――――――――――――――――
「こ、これが西野の手紙?」
淳平の顔は真っ赤だ。
今までのどこか思わせぶりな態度ではない。
つかさのダイレクトな想いがひしひしと伝わってくる。
(やっぱ西野って、俺の事が好きなんだな…)
そう考えてしまうような、手紙の内容だった。
「こんな手紙を貰っちゃったら、やっぱ返事は書かなきゃな」
「でもなあ、西野の家かあ…」
つかさの親に会うことは、淳平にとって大きな抵抗だった。
「でも、西野も頑張ってこの手紙を送ってくれたんだ。俺が頑張らなくてどうする!」
淳平は自らを奮い立たせた。
そして机に就き、便箋を取り出す。
(西野ほどストレートには書けないけど、少しでも俺の気持ちを…)
淳平はなれない手つきで、つかさへの手紙を書き始めた。
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