「幸せのかたち」 5- takaci 様
「へぇ。結構いいじゃない?」
「だろ?見た目はバッチリ!」
「向井さんにどれくらい演技が出来るか分からないけど、雰囲気はいいと思うな」
ここは放課後の映研の部室。
こずえのムービーを綾の携帯で見るのは美鈴、淳平、綾の3人。
「演技に関してはそれほど心配してないよ。今から少しずつ練習すれば多少は良くなると思うし、あとは共演者の演技力でもかなりカバーできると思うから。なあさつき!」
「フン!」
淳平の呼びかけに、プイと横を向くさつき。
そんなさつきに美鈴が尋ねた。
「北大路先輩は向井さんの事、気に入らないんですか?」
「誰もそんな事言ってないでしょお。ただあたしは主役を見ず知らずの女に持ってかれて不機嫌なだけよお〜〜」
「全くもお。イメージが違うんだからしょうがないじゃないですかあ。子供みたいな事言わないで下さい」
「どうせあたしは子供ですよ〜だ!」
「あ〜あ」
すねるさつきに呆れる美鈴。
「はは…」
(あの公園での一件で、さつきはこずえちゃんの事を良く思っていないからな…)
空笑いをする淳平の背中は、冷や汗でぐっしょりだった。
「でもよお、大丈夫なのか。その娘の『男性恐怖症』は?」
今度は外村が淳平に尋ねてきた。
淳平、綾と同じクラスの外村と小宮山は、既にこずえのムービーを確認して、こずえに関するある程度の事は聞いている。
「え、そんなのがあるんですか?」
美鈴の顔が曇る。
「でも、たぶん大丈夫だとは思うよ。真中くんとはだいぶ普通に話せるようになってるから、外村くんならしばらくすれば慣れると思う。でも…」
綾は遠慮がちにある人物へと目線を向けた。
「なるほど。確かに怖がるかも。西野も『怖い顔』って言ってたし…」
納得する真中。
「ちょっとあんた!なにしんみりしてんのよお!?」
目線の先の人物に対し、元気良く呼びかけるさつき。
「だって、つかさちゃんいないんだもん…」
皆の目線の先で佇む小宮山は、部室の窓から見える空を寂しそうな目で見上げていた。
「小宮山ぁ、仕方ないだろ。西野にだっていろいろ都合があるんだからさ」
淳平はとりあえず小宮山を慰める。
「でも小宮山はともかく、真中にも何も言わずに行っちゃうってのは妙だな。ひょっとしてお前、嫌われたかもな?」
「なんだよそれ!そ、そんな事ねえよ…」
外村の言葉であからさまに不機嫌になる淳平。
(真中くん…)
そんな淳平に、寂しい視線を送る綾だった。
「今年こそは、俺とつかさちゃんのラブシーンを確信してたのに…」
小宮山がぼそっとつぶやく。
「「「「へっ?」」」」
奇声をあげたのは、淳平、外村、綾、さつきの4人。
「小宮山先輩、マジでそんなこと考えてんの!?」
驚く4人に対し、美鈴はひとり、怒りの表情を浮かべて小宮山に詰め寄った。
「だって1年の時は俺が主役だったんだぜ。だから今年こそは俺が復活して、つかさちゃんとより深い関係に…」
「ったくなに幻想抱いてんのよ!小宮山先輩がそんな事考えてたから西野さんは長崎に行っちゃったんですよ!」
「な、なんだよそれぇ!」
さらに悲しい顔になる小宮山。
「それ、一理あるかもな」
「西野さんってカンがいいからね。なんかを察知して逃げ出しちゃったかも?」
小宮山をからかう外村とさつき。
「そ、そんなぁ…」
小宮山の目は涙を浮かべている。
「向井さんまで逃げ出さないように、小宮山先輩には撮影から離れてもらおうかな…」
真顔で言う美鈴。
「そ、そんな!?美鈴ちゃんそれだけは〜〜!!」
小宮山は泣きながら美鈴に飛びついた。
「ちょっ…小宮山先輩やめ…キャアッ!!」
ドシャッ!!
飛びつかれた美鈴は、小宮山とともに倒れこんだ。
そして…
「お、おい小宮山…」
「こ、小宮山くん…それは…」
「…」
顔を真っ赤にして絶句する淳平、綾、さつきの3人。
偶然にも
すらっと伸びた美鈴の綺麗な足に挟まれる形で、
小宮山の頭は
美鈴のスカートの中にすっぽりと収まっていた。
美鈴は突然の出来事に驚き、顔を真っ赤にして固まっている。
「温かくって…柔らかい…」
スカートの中から聞こえる小宮山の声。
しかも頭が動いている。
小宮山がスカートの中で美鈴の『秘所』に顔を埋めているのは、容易に想像出来た。
「小宮山ァ!!ドサクサ紛れに何を!!!」
可愛い妹を助けるため、外村は怒鳴りながら小宮山に突進する。
だが、その必要はなかった。
「うわああああああぁぁぁぁぁぁ」
突然、美鈴は唸り声をあげ、小宮山を蹴り飛ばした。
そして近くにあった机を振りかざし、
何度も
何度も
小宮山の身体めがけて振り落とした。
グシャッ!!!
バキッ!!!
グチャッ!!!
部室に響き渡る嫌な音。
凄惨な光景に、ただ圧倒される淳平たち。
いや、むしろその光景そのものより、
焦点が定まらない瞳
そこから溢れる涙
そんな状態で小宮山に攻撃を加える美鈴に、圧倒されていた。
ガランガラン
殴り疲れたのか、美鈴は机を落とす。
「はあ…はあ…」
息が荒い。
涙もまだ止まらない。
「み、美鈴…」
声を震わせながら、妹を呼ぶ外村。
「ご、ゴメン。あたし…帰る」
美鈴は皆にそう告げると、鞄を持ってそそくさと部室を後にした。
〈気持ち悪い…身体を洗って…早く替えたい…〉
自然と速くなる美鈴の足。
美鈴は今日、お気に入りのストライプの下着を履いていた。
でももうこれを身に付けることは二度とない。
誰も気付いていなかったが、
お気に入りの下着の中心部は、
小宮山の唾液がべっとりと付いていた。
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