R[ever free]19 - takaci  様


19話     薄れ行く世界・・・


つかさの身体をそっと横たえ、淳平は振り向きながらゆっくりと立ち上がる。


とてつもない悲しみと憎しみが織り交ざった、ものすごい形相で天地を睨みつけていた。





「うっ・・・」


淳平に圧倒され、思わず後ずさりする天地。


「ばっ・・・   バカな!? こんな事が・・・」


天地は下がりながら、もう一度淳平に銃口を向けた。





パアン!!





パアン!!





パアン!!





3発の軽やかな銃声が響く。










だが・・・










「な・・・なぜ・・・  こんな事が・・・」





天地の目には、放たれた鉛の弾が黄金のオーラによって弾かれるように見えていた。










(くそ・・・このままではやられる!!)


天地の武器は、今手にしている小銃しかなく、しかも残弾数は3。


そしてその唯一の武器が、理解不明の現象によって通用しない。


そうなれば肉弾戦しかないが、天地は片腕と共に大量の血液を失っていた。


実は立っているだけでもかなり辛い状況なのだ。


圧倒的優勢だった状況は一転し、一気に窮地に追い込まれた。





(万が一のための接近戦用バタフライナイフをどこかに落としてしまったのが痛い。せめてあれがあれば・・・)










「なっ・・・それは!?」










淳平はポケットから天地のバタフライナイフを取り出していた。


「お前の遺品だと思って拾ったものを・・・こんな形で使うとはな・・・」


淳平は天地に向けて、ゆっくりと一歩踏み出す。










ナイフを見た天地の心はさらに追い込まれた。


(何か・・・何かいい手はないのか?)


淳平より速い速度で後ろに下がり、距離をとりながら必死に対応策を巡らす。

























「つかさの・・・    みんなの仇だあああ!!!!!」




















「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」



















淳平は雄叫びを上げながら、『最期の突撃』を開始した。



































オーラを身に纏いながら突進してくる淳平に圧倒されつつも、天地は頭をフル回転させていた。


(落ち着け、落ち着くんだ!!)


(あんなオーラが現実に在るわけない。全て出血による幻覚だ!!)


(弾かれたように見えたのも全てそれだ!!思ったより出血の影響が大きく、片手で撃った事も重なって狙いが大きく逸れただけだ!!)


そう自分に強く言い聞かせる。





(だから・・・このオーラは!!)





一瞬、天地は強く目を瞑り、





力を込めてかっと開いた。















(よし!!)





淳平を包んでいたオーラが消えた。










(後は奴を限界まで引きつけて・・・全弾ぶち込む!!!)










(これが最後の勝負だ!!  そして・・・僕が勝つ!!)










瞳から淳平に対する怯えが消え、再びどす黒い『憎しみの光』が放たれる。





天地は退歩を止め、淳平を迎え撃つ姿勢をとった。

























「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」





両者、雄叫びを上げながら・・・





強大な憎しみの心が激突する。
























(よし、今だ!!)


天地は淳平を十分に引きつけてから、引き金に力を込めた。










パアン!!










パアン!!















淳平の腹部に鉛の弾がめり込むのを確認した。





「ぐっ・・」





歪む淳平の顔。










(よし!! いける!!)





この瞬間、天地は勝利をほぼ手中にしたと確信した。















だが、まだ淳平は止まらない。





なおも刃をかざして突進する。















(これで・・・とどめだ!!)





淳平があと数10センチに迫ったところで、





天地は淳平の心臓めがけて最後の一発を放つ。




















パアン!!




















乾いた音と共に、





鉛の弾は淳平の左胸に到達した。















(勝った!!!)





淳平が着るジャンパーの左胸を銃弾が貫いて行ったのを見て、天地は勝利を確信した。




(これで奴は失速する・・・)




















だが・・・














(なにっ・・・)



































「ぐうっ!?」















天地の思惑とは裏腹に、淳平は失速せず・・・















刃は、天地の心臓に到達していた。


















































(くそお・・・    相打ちかあ・・・)










ナイフを突き立てる直前、天地が放った銃弾が自身を貫いていたのは分かっていた。





腹と左胸に、強烈な熱い痛みを感じる。










(でも・・・   仇はとった!!!)










(つかさ・・・   みんな・・・   やったぞお!!!!)










声を出して叫びたいが、もうそんな力は残っていなかった。










力尽き、その場で崩れる淳平。










(こりゃあ・・・俺ももう長くないな・・・)










自身の身体から溢れ出すかなりの量の出血を見て、淳平は死を悟っていた。


































「は・・・ははは・・・   僕の・・・勝ちだ・・・」
























(なっ!?)





予想だにしなかった言葉で淳平は思わず顔を上げ、天地を睨みつけると、




















(天地・・・笑ってる・・・)










異様な光景が飛び込んできた。




















ナイフは確かに心臓を貫いていた。







大量の出血が、その証である。















にもかかわらず、天地は両腕を空にかざし、最高の笑顔を見せていた。















「これで・・・僕は・・・綾さんに逢える・・・」














「綾さんの・・・   待つ・・・   地獄へ・・・   逝け・・・   る・・・  」















「もう・・・   誰にも・・・   邪魔・・・   されない・・・   」















「僕・・・   たち・・・   は・・・   これ・・・   で・・・   」






























ドサッ・・・

























仰向けに倒れる天地の身体。















周辺に積もった埃がばっと舞い上がった。






























「最期まで・・・何言ってんだか・・・  東城が地獄にいるわけない・・・   ぐうっ・・・」










淳平の意識が急速に薄れだした。









「うっ・・・ぐぅ・・・」










天地と同じように、天を見上げる淳平。










灰色の空と、降り注ぐ白い雪が目に入り、










次第に暗くなっていく・・・




















(つかさの言ってた通りだ。マジで暗い・・・)










(それに・・・感覚も無くなってきた・・・すげえ寒いや・・・)










(つかさ・・・)










顔を横に向け、最愛の妻を捜す。










(せめて・・・最期は一緒に・・・居たかったな・・・)










暗闇の中、ぼんやりではあるが遠くに横たわるつかさの姿を捉えた。










無意識に手が伸びていく・・・










(はは・・・俺ってバカだな・・・届く距離じゃないのに・・・)










(それに・・・良く考えたら・・・もうすぐ逢えるじゃないか・・・)










(つかさだけじゃない・・・死んで行ったみんなとも逢える・・・)










(そうだ・・・子供も・・・天国で生めばいいじゃないか・・・)










(そう考えたら・・・死ぬのも・・・怖くないな・・・)










(そのせいかな・・・走馬灯も・・・廻ってねえ・・・)


































ファンファンファンファンファン・・・















サイレンのような音が淳平の耳に届いた。















最初は微かに聞こえたそれが、次第に大きくなっていく。

























ダッダッダッダッダッダッ・・・















「いったい何が起きたんだ! 急げ!!」















いくつもの足音と、人の声が微かに聞こえる。






























(今頃・・・   遅せえ・・・  よ・・・   )










呆れる淳平だった。















そして視界は真っ暗になり、物音も聞こえなくなった。














































数十秒後・・・

























警官らがこの場に駆け付けた時、

























淳平の意識は完全に途絶えていた。


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