R[ever free]18 - takaci  様


第18話     魂の光


全身の動きを妨げていた強烈な肩の痛みが、一瞬にしてほとんど感じなくなった。


「つかさ!!  しっかりするんだ!!!  つかさぁ!!!!!」


淳平はつかさの手を取り、腕に力を込め、必死になって呼びかける。


「つかさぁ!!!!  つかさぁ!!!!  つかさああああああ!!!!!!!」





呼びかける声にはどんどん力が入り、それと共に手を握る力も本来なら痛がるほどになっていた。





だが、それでも反応はない・・・















淳平の脳裏に、ある嫌な光景が浮かび上がって来た。





力なく、ぐったりとした身体。


それを支える腕にべったりと付く鮮血。





(東城が・・・重なる・・・?)


数ヶ月前、淳平の腕の中で息を引き取った時の綾の姿が現在のつかさとダブって見える。










あの時と全く同じ感覚だった。





あの時と同じ、絶望感が広がっていく。










(ダメだ!! ダメだダメだダメだダメだダメだ!!!!!)


淳平は浮かび上がった記憶と共に絶望感を払拭しようとするかのように、首を大きく振った。





諦められない・・・





諦められるわけがない・・・





腕の中にいるのは、





永遠の愛を誓い、





一生守り続けることを誓い、





共に歩んでいくことを誓い、





そして、その証を宿している・・・





この世で最愛の女性なのだ。










涙ながらの淳平の叫びが続いていた。


「つかさ!!!  頼むから目を開けてくれえ!!!!!  つかさああああああ!!!!!!!」










「じゅん・・・   ぺい・・・   くん・・・   」





「つかさ!?」


ようやく、つかさの瞳がうっすらと開いた。










「ごめん・・・  なさい・・・   あたし・・・   ダメな・・・      母・・・親・・・     だあ・・・  」










「な、何言ってんだよ!?」










「子供の・・・   命・・・    守れない・・・    ダメな・・・    親・・・   だから・・・    こうな・・・ちゃ・・・たん・・・   だね・・・   」





「だから・・・     あた・・・し・・・   も・・・   もう・・・  」










「諦めるな!!!  つかさが諦めたらお腹の子はどうなるんだ!!!  絶対に諦めるなあ!!!」










「じゅんぺい・・・   くん・・・    ないて・・・   る・・・    の・・・    」





つかさの頬に、淳平の瞳から溢れた熱い雫がぽたぽたと滴り落ちる。










「見りゃ分かるだろ!! つかさが・・・弱音を吐くから・・・つい・・・」










「ゴメ・・・  ン・・・   暗・・・   くって・・・良く・・・   見えな・・・  いよ・・・   」










「つかさ!?」










「寒い・・・    じゅん・・・   ぺい・・・   くん・・・    側・・・  に・・・    い・・・   る・・・   の・・・    」





つかさの瞳には、目の前にいる淳平の姿は写っていなかった。





不安げな表情で空を見上げ、愛する夫を呼ぶ。
















(そ、そんな・・・)





愕然とする淳平。





つかさはもう、感覚のほぼ全てを失っている。





自らを強く抱きしめている淳平の存在すら気付かないほどに・・・















「つかさ!!!  俺はここにいる!!!  ずっと側にいる!!!!!」





存在を強く示すかのように、つかさの身体を強く抱きしめる。















「じゅん・・・   ぺい・・・   く・・・    ん・・・     だ・・・      」





淳平の強い想いが薄れていくつかさの心に届いた。





不安の色は消え、穏やかな微笑を浮かべる。















「俺が付いてるから!! だから・・・頑張ってくれ!!  絶対・・・諦めるな!!!」





何としてでも失いたくない。





そのあまりに強く、溢れ出した想いの雫は、





淳平の頬からつかさの頬へと熱い流れを作り出す。






























「じゅ・・・     ん・・・     ぺ・・・     い・・・      く・・・     ん・・・     






























あっ・・・       た・・・             か・・・           






























・・・            ・・・               」























































「つかさ!?」










まるで穏やかな寝顔のようだった。










だが、寝息は立てていない。















「そ・・・ん・・・な・・・  」





全身から力が抜ける。










ずっと強く握っていたつかさの白い手が、淳平の手からすとんと落ちた。














「そ・・・そんなそんなそんな!!!」










「つかさ!!  頼むから目を開けてくれえ!!  もう一度声を聞かせてくれえ!!!」










「なあつかさあ!!   頼むよお!!  お願いだから目を開けてくれえええええ!!!!!」










蒼ざめた顔で、










光を失った目で、










淳平は、つかさの身体を強く揺する。








































だが、願いは叶わず・・・応えは返ってこなかった。








































シャリン・・・










(ん?)










小さな金属音の後、何かが淳平の足に落ちた。





















「そ・・・    ん・・・    な・・・     」










拾い上げたそれは・・・




















−いちごのペンダント−





去年、つかさの誕生日に淳平が送ったものだ。










つかさがずっと大切にしていた『宝物』が










主の命と共に、すっと落ちていったようだった。



































「うぅ・・・   ぐっ・・・   うああああああああ・・・」










ペンダントを右手で痛いほど握り締める淳平。








































「わあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」




















空気を貫くような淳平の叫びが、




















雪がちらつく灰色の泉坂の空を突き抜けていく・・・











































































「そんなに悲しむ事はない。お前もすぐに送ってやる」





ずっと様子をうががっていた天地が淳平の背後に近付き、後頭部に銃口を向けていた。

























「なんでつかさまで・・・   つかさには子供が居たんだ!!!  お前も分かってただろうが!!!」










淳平は後ろを振り向かず、穏やかなつかさの顔を見つめながら背後の天地に問いただす。




















「子供が居たからだ。お前の子供など生かしてはおけん」




















(返事がない? しかも震えが・・・)










天地は何かしらの応えが返ってくると思っていたが、反応はない。










しかも、全身の大きな震えまで止まった。




















(まあいい、そんな事はもう関係ない・・・)




















「さらばだ、真中淳平・・・」








































パアン!!




















軽やかな銃声が辺りにこだまする・・・
















































































(ん!?)




















淳平の後頭部を狙ったのだが、傷一つ付いていない。










(いくら片手でも、僕が外す距離じゃないぞ。空砲か?)










不審に思いながら、もう一度引き金に力を込める。




















パアン!!




















だがやはり、淳平の身体に変化はない。










(なぜだ!?  この手応えは空砲じゃない!!  なぜ当たらない!?)










天地は激しく狼狽した。








































「天地・・・    てめえだけは・・・    許さねえ・・・   」




















(な・・・なんだこれは・・・   真中の身体から・・・)




















憎しみが込められた低い声と共に、




















淳平の身体を包み込むオーラのような黄金の光が




















天地の目には見えていた。


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