R[ever free]16 - takaci  様


第16話    一瞬の微笑


こずえの瞳は絶望の真っ只中にあった淳平の心に、


一筋の光を差し込ませた。


「か、考えって!?」


「うん、ちょっといいかな・・・」


こずえは淳平とつかさの3人で寄り添い、思いついた『作戦』を説明する。





「・・・」





「・・・」





「・・・」





「・・・て感じで、どうかな?」


「だ、だめだよ!!それじゃあこずえちゃんを危険に晒す事に・・・」


作戦に反対する淳平。


「俺だけならともかく、こずえちゃんまで危ない目に遭わせられないよ!!」


「でも真中さん一人じゃ無理です。それにこのままじゃみんな死んじゃう。この際多少の危険は仕方ないし、あたしも・・・」





「・・・覚悟してます・・・」


こずえの右手にぎゅっと力が込められる。





「じゃ、じゃあせめて・・・こずえちゃんが囮になって。そっちのほうがまだ危険は少ないから・・・」


「それもダメです。囮は真中さんじゃないと」


「でも!!」


「あたしじゃ天地さんの意識を十分に惹き付けられない。天地さんが全意識を囮に集中しなきゃこの作戦は成功しない。そうするには、囮は真中さんじゃないとダメです」


「た、確かに・・・そうかもしれないけど・・・」










現在の天地の狙いは淳平のみでつかさとこずえは巻き込まれた形であり、特にこずえは全くの無関係である。


そして今、そのこずえに頼り、今から行われようとしている作戦でさらに大きな危険に晒そうとしている。





淳平にとって、受け入れられるものではなかった。










だが、他に案が無いのもまた事実である。


(このままじゃ、ここにいる全員が天地に殺されるだけだ)


(・・・ちくしょう、マジ情けないよ。苦しむ妻を助けるのに、振った女の子の力を借りるなんてさ・・・)





(・・・でも、そんなこと言ってられないんだ!!)


淳平は苦しむつかさの身体を抱き寄せる。


(情けなくてもいい!!かっこ悪くてもいい!!今は、どんな事をしてもつかさを助けるんだ!!)


淳平は自分にそう言い聞かせた。


























「はあっ・・・はあっ・・・真中ぁ!!  どこに隠れている!!!」





バババババババババ!!!!!!





「出てこぉい!!何としてでも息の根を止めて見せる!!」





バババババババババ!!!!!!





マシンガンを乱射する天地。










こずえの攻撃で天地は完全にキレていた。


(この僕が女の子に、しかも向井くんに不意打ちを食らって倒れるとは・・・)


(これも全て真中が悪いんだ!!あいつが諸悪の根源なんだ!!)


(北大路くんがガサツになったのも真中のせいだ!!)


(綾さんが僕に振り向いてくれなかったのも真中のせいだ!!)


(あいつだけは、絶対に生かしておけない!!)


全ての怒りをマシンガンの引き金に込めて、辺りかまわず発散する。





完全に、我を見失っていた。














バフッ!





「うわっ!?」


突然、天地の視界が真っ白になる。


「ごほっ、ごほっ・・・何だこれは・・・粉か?」


石灰のような白粉の塊が顔に当たったようだ。


粉が目に入って視界が歪み、息も苦しい。





「はっはっはっ!!せっかくの色男も台無しだな!!」





(この声は!?)


天地の怒りレベルゲージが一気に上昇する。





顔を上げ、声のするほうに目を向けると、





「真中ぁ・・・」


涙で歪む視界の中、こちらを向いて薄ら笑いを浮かべている(ように見える)淳平の姿を捉えた。





「貴様ごときが僕をコケにするとは・・・許さん!!!!!」


怒りが最高潮に。


「死ねええええ!!!!」


ぼやけた淳平に向けてマシンガンを発射する。





だが当たらない。


銃口を向けた途端、淳平の姿は奥に消えていった。





「待てええ!!!!」


引き金を握りながら淳平を追っていく。


天地はもはや淳平の事しか頭に無かった。





全ては、こずえの思惑通り・・・















「待て待て待て待て待てええええ!!!!」


天地はマシンガンを乱射しながら淳平の後を追っていく。


そして左手に柵のある薄暗い通路に差し掛かった。





だが、天地に周りの状況は見えていない。


暗い構内に加え、先ほどの目くらましの効果で視界はとても悪く、逃げる淳平の姿はほとんど分からない。


ただ怒りとカンで、微かに見える淳平向けてただ乱射してるに過ぎなかった。





この状況では淳平を捕らえることなどまず不可能なのだが、頭に血が上っているのでそれすら気付かない。


もちろん、この先に淳平らの仕掛けた『罠』が待っていることなど・・・















バフッ!





「うわっ!?」


天地の視界が再び真っ白になった。


(な、なぜだ・・・真中は先に・・・)





次の瞬間、










ガッ!!





「ぐあっ!?」


頭に強い衝撃が走った。










そして間を置くことなく、





ガァン!!





第2波は腕に。


「ぐうっ・・・」










(し、しまった!?)


頭の衝撃で朦朧とする中、天地に戦慄が走る。





腕への衝撃により、マシンガンを落としてしまった。















ガッ!!





ガッ!!





ガッ!!





再び、頭への強い衝撃が続く。










「このっ!!」





「このっ!!」





「このおっ!!」





それと共に聞こえる女の子の声。










(この声・・・向井くんか・・・)





薄れていく意識の中で、天地はようやくこずえの存在に気付いていた。

























「やった!!!」


やや離れた場所で歓喜の声をあげる淳平。


(こずえちゃんすげえ!!作戦通りだ!!)










『ここに、石灰の粉と小袋があるの。これで弾を作って、まず真中さんが天地さんの顔にぶつけてください』


『そのあと天地さんを挑発してから奥に逃げます。天地さんが撃ってきたとしても暗い構内の上に眼くらましが加われば視界は遮られてまず当たらないはずです』


『真中さんは逃げながら、あの吹き抜けのある通路に誘い込んでください。あたしはあの通路の物陰に隠れて天地さんを待ちます』


『あの通路には、隠れて狙うには絶好の場所があるんです。あたしからは良く見えて、相手からは絶対に気付かれないような場所。あたしはそこからもう一度目くらましを浴びせます』


『いくら強い男の人でも、眼が見えないところに頭に不意打ちされれば絶対に倒れます。あたしは全力でこの鉄パイプで天地さんを殴りつけます』


『天地さんが倒れて、武器を手放しさえすれば危険はかなり減ります。そこに真中さんが加勢してくれれば・・・あたしたちは勝てます!!』





こずえがこの構内の構造を良く知っていた事。





隠れた部屋の中で石灰の粉と小袋を見つけてくれた事。





そして何より、こずえがこの場にいてくれた事。





さまざまな幸運が重なり、こずえの立てた作戦は奇跡的に成功を収めようとしていた。





(よし!俺も行くぞ!!)


淳平は通路の脇に落ちていた鉄パイプを手に取り、天地めがけて向かっていく。


(ここにこんなものが落ちてたなんて、メッチャついてる!!)


更なる幸運に喜びながら、雄たけびを上げて突進する淳平。


「うおおおおおおおお!!!!!!」















パアン!!










(えっ!?)


勢い付いていた淳平の表情が、この音によって変わった。





(こずえちゃんが!?)


淳平の眼はよろけるこずえの姿を捉えていた。










天地の必死の抵抗だった。


朦朧とする意識の中、隠し持っていた拳銃を取り出し、


相手の姿を捉えられない状態のまま、無我夢中で引き金を引いた。





銃口が火を噴き、





発射された鉛の弾は、





こずえの脇腹を貫通した。















だが、天地の反撃はそこで終わる。


「ぐっ・・・」


こずえの攻撃によるダメージが大きく、大きくよろけて通路にある柵にもたれかかる。










「天地いいいいいいい!!!!!! てめえええええええええ!!!!!」


こずえが撃たれた事で、淳平の怒りにも火が点いた。


ものすごい形相で天地めがけて突進を再開する。










そして、撃たれたこずえも、





まだ、闘志は衰えていない。










「うあああああああ!!!!!」


苦痛で美しい顔を歪めながらも、天地に体当たりをした。





ガシャーン!!


柵が倒れ、天地の身体がその先にある深い穴へと向かっていく。










(こずえちゃん・・・    そうか!!)


淳平はこずえの行動に驚きつつも、考えを理解した。


鉄パイプを投げ捨て、さらに速度を上げて突進する。










ドン!!





そのままの勢いで、天地に体当たりをする淳平。





こずえの身体は離れ、淳平一人の力で天地を押していく。










「ぐっ・・・まな・・・か・・・?」





「落ちろおおおおおお!!!!!」


淳平は、全力で天地の身体を突き飛ばした。















天地の身体が、暗い穴へと吸い込まれていく・・・










「うわあああああああ・・・」





穴から聞こえる天地の叫び。





それはだんだんと小さくなり、










そして・・・















ドオン!!





低く、嫌な音が穴の奥底から響いてきた。















「はあっ、はあっ、はあっ・・・」





淳平は荒い息のまま、穴を覗き込む。





(真っ暗で何も見えない。こずえちゃんの行ってた通り、メッチャ深いな)





(でもこれで・・・終わったんだ・・・)










危機は、去った。





だが、気分は晴れていない。





もやもやとしたものが、淳平の心にまとわり点いている。










(ん?)


穴の脇に真新しい長方形の物体が落ちており、淳平はそれを拾い上げた。


(これは・・・バタフライナイフ。  って事は、天地のものか・・・)


(一応、あいつの遺品になるのかな・・・)


そう思いながら、ナイフをジャンパーのポケットに入れた。










「うっ・・・」


「あっ!? こずえちゃん!!」


(やべえ!!こずえちゃんの事すっかり忘れてた!!)


こずえの呻き声でようやく気付き、慌てて駆け寄る。










「こずえちゃん、大丈夫!? しっかりして!!」


淳平はこずえの身体を抱きかかえ、必死に呼びかける。





「真中さん・・・天地さんは・・・」


「あいつは奥の穴に落とした。もう大丈夫だ!!」


「そう・・・よかった・・・」


淳平の腕の中で笑顔を見せるこずえ。










「淳平くん・・・   こずえちゃん・・・   」


「えっ・・・あっ、つかさ!?」


淳平はつかさがよろよろと歩いてくる姿を捉えた。





「つかさ、身体は・・・」


「大丈夫だよ。痛み、だいぶ治まったから。それより・・・」


つかさも心配そうな顔でこずえに寄り添う。





「もう、大丈夫だよ・・・天地さん、やっつけたから・・・」


「そんな事よりあなたの身体が・・・しっかりして!!死んじゃいや!!」


「大丈夫です・・・痛いけど、見た目ほどひどくないと思う。血もそんなに出てないみたいだし・・・撃たれた後も動けたし・・・」


「俺も、たぶん大丈夫だと思う。でも一刻も早く医者に見せないと・・・」





淳平に、嫌な記憶が蘇っていた。





今のこずえと同じように淳平に抱きかかえられ、





腕の中で息を引き取った、綾・・・










(東城の時は、メチャメチャひどい出血だった。それに比べればこずえちゃんは大した事ない)





(だから急げばきっと助かる・・・いや、絶対に助けるんだ!!)





(もう・・・俺の腕の中で、死んでいく人は見たくない!!)


自然とこずえを抱く腕に力が入る。










「ヤダ・・・そんなに強く抱いちゃ・・・奥様の前なのに・・・」


「えっ? あっ、いやそのこれはっ!!」


思いもしなかったこずえの発言に慌てる淳平。





「淳平くん・・・」


つかさは淳平をじっと見つめ・・・いや、睨んでいる。





「だから違うって!!これはその・・・こずえちゃんもこんな時にそんな事・・・」


いっぱいいっぱいの淳平。










「くすっ・・・真中さんおかしい・・・」


「ははっ・・・ホントだね!」


そんな淳平の姿を見て笑い出す二人。





「は・・・はははっ・・・」


結局、淳平も釣られて笑い出す。





寒い構内で、温かい空気が3人を包んでいた。





























ドオオオン!!!!!










「うわっ!?」





「きゃあっ!?」





突然、大きな爆発音とともに激しい地響きが湧き上がった。


建物全体が大きく揺れ、壁が崩れ始めている。





「ま、まさか・・・天地くんが何か仕掛けていたんじゃ・・・」


「冗談じゃねえよ!!そんな映画みたいなお決まりの展開が・・・うわっ!?」





さらに酷くなる揺れ。










淳平らの居る真上の天井に亀裂が走り出した。





(まずい!!天井が崩れる!!)





亀裂はどんどん大きくなり、今にも崩れそうだ。










「つかさ!!こずえちゃん!!立って!!こっちに・・・」





淳平は二人を引っ張り上げようとする。





だが揺れが大きく、上手く立ち上がれない。










「くっそ・・・つかさ!! こずえちゃん!! 頑張って!!」





必死になって呼びかける淳平。










つかさは何とか立ち上がり、淳平に寄り添った。





「こずえちゃん!!痛いだろうけど頑張って!!このままじゃ・・・」





淳平はこずえの左手を掴み、引っ張り上げようとする。





つかさもこずえの右手を掴み、同じように引っ張ろうとした。















だがこずえは、










(えっ・・・)










二人の手を払いのけ、















「うわっ!?」





「きゃっ!?」















全力で二人を突き飛ばした。




















(これ・・・東城のときと同じ・・・)










淳平に、再び嫌な記憶が蘇る。










(こずえちゃん・・・)










倒れていく視界の中で、淳平の眼にこずえの姿が飛び込んできた。















(こずえちゃん・・・笑ってる・・・)










淳平をじっと見つめ、嬉しそうに微笑むこずえの顔。










その一瞬の笑顔を、淳平は確かに捉えた。




















そして、その笑顔は・・・




















崩れた天井の下へと消えていった・・・


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