R[ever free]15 - takaci  様


第15話    希望の光


「な、何でだ? 何で俺を・・・」


「何を今更言ってるんだ。ケーキ屋の前で撃たれそうになった事、もう忘れたのか?」


「あ、あれはつかさを・・・」





(!!!)


はっと気付いた。





「ま、まさか!?」





「綾さんはお前を忘れられなかった。だからお前が生きている限り、綾さんは笑えない」


「綾さんは西野くんを憎んでいた。愛する人の願いをかなえるのもまた男の務めさ」


天地は不気味な笑顔を淳平に向けながら、普通の口調で話し続ける。





「じゃ、じゃあつかさを狙ってたのは・・・それにみんなの死は・・・」










「そうさ!!全て僕が企てたのさ!!お前ら夫婦を殺すためにな!!」










「てめえ!!」


一気に怒りが沸きあがる淳平。





「端本くんと美鈴くんはお前らを殺すためのテストさ。小宮山と北大路くんは計画を知られたために口封じ」


「テストも終わり、邪魔者を消し、晴れてお前らを殺そうとしたら・・・他の大切な命が身代わりで散って行ったんだ」










「天地、まさかあのテロも・・・」










「ああ、僕が企てたんだ。お前を殺すためにな」


天地の表情は変わらない。










「てっめえ・・・狂ってやがる!!」










「狂うさ!!僕が綾さんを殺したんだ!!狂うに決まってるさ!!!」


そう話す天地の瞳は、『人の心』を失っていた。


大きな憎しみに包まれ、輝きを失った真っ黒な瞳で淳平を睨みつける。










「ざけんなあ!!大切な友達や、お前をずっと慕ってたたくさんの女の子までお前は殺したんだぞ!!」










「綾さんの命に比べればすべてカスみたいな物さ!!ははははは!!!!!」





天地の高ら笑いが暗いフロアに響き渡る。










「てっめえ・・・そんなくだらない動機で・・・」





(唯・・・つかさの両親・・・塾のみんな・・・学校のみんな・・・)





(小宮山・・・さつき・・・美鈴・・・端本・・・トモコちゃん・・・)





死んでいった多くの人たちの顔が淳平の脳裏に浮かぶ。





(こいつが・・・みんなを・・・)


淳平もまた、憎悪のこもった目で天地を睨み付けていた。










「さあ、お話はここまでだ。お前も外村や大草と一緒に送ってやるよ」


天地は銃口を再び淳平に向けた。





「外村と大草?」





「ああ、昨夜僕を尋ねてきてな。何か知ってそうだったので一緒に殺したんだ。そうそう、綾さんの弟も一緒だ」





「なっ・・・」





「あの弟くんはお姉さんと違って頭の回転が悪いみたいだ。きっと将来苦労するだろう。ここで死んだほうが弟くんの為にもなるし、それに綾さんも身内が来てくれれば喜ぶ」





「そんな理由で・・・あいつを・・・」


「それに・・・外村と大草まで・・・」


校門で殴りかかってきた正太郎の怒った顔が、


写真館で涙ながらに祝福してくれた大切な親友の笑顔が、





浮かび上がり、消えていく・・・










「もっとも、それはもはやどうでもいい事さ。お前が死ねば丸く収まるのだから」





「ぐっ・・・」





(なんとかこの状況から逃げ出す方法は・・・)


淳平は必死に策を巡らした。










だが、答えは出てこない。










(このままじゃ、引き金を引かれてそれで終わりだ)





(でも少しでも動けば、すぐ天地は引き金を引くだろう)





策は・・・無い。










(ちっくしょう!!!!!)





死を直感した。





硬く目を閉じる淳平。




















「淳平くん!!」




















(えっ!?)










ゴン!!





「うわっ!?」





パアン!!





天地の頭に何かが当たり、その衝撃で大きくよろけた。


その瞬間に引き金を引いてしまい、派手な銃声が響き渡る。





銃声で淳平の身体は一瞬固まるが、銃口は天井を向いていた。





(助かった。でもあの声は!?)


声のした方へ目をやると、










「早く!!こっち来て!!!」


つかさが必死になって呼んでいた。










(な、何でつかさがここに!?)


(い、いや、今はそれより・・・)


よろける天地を押しのけて、つかさのもとへ走った。










「ま、待て・・・」


天地は体勢を立て直しながら、銃口を逃げる淳平の背に向けたが、










バコッ!!





ゴオン!!





「ぐあっ!?」










「な、何だ今の音は!?」


鈍い音の後に、天地のうめき声。


思わず振り向くと、










「こ、こずえちゃん!?」





こずえは天地に対し、どこかに転がっていた一斗缶を頭に被せ、その缶の上から鉄パイプで殴りつけていた。


不意を付かれた天地は大きくよろけ、倒れかかっている。










「ふたりともこっち!!急いで!!」


こずえは淳平とつかさに逃げる方向を指差し、自らもその方向へ駆けて行く。





「淳平くん、行こう!!」


「あ、ああ・・・」


ふたりも、こずえに続いた。






















こずえの案内のもと、3人は上のフロアへと上がっていく。


「う、上に上がってどうすんの?これじゃあ・・・」


「入って来た出入口はもう塞がれちゃってる。だから別ルートで逃げるの!」


「別ルートって・・・なんでこずえちゃん知ってるの?そもそも二人ともなんでここに・・・」


「説明はあと!!今は逃げるのが先!!」


こずえとそんな会話を交わしながら、淳平は階段を上っていく。















「あっ!? そ、そんなあ・・・」


そしてある場所の手前で立ち止まると、こずえは落胆の声をあげた。





「えっ? ここに何かあったの?」


「うん。下に降りる階段があったんだけど、板が張られて塞がれちゃってるよお・・・」


こずえの言うとおり、壁には大きなベニヤ板が張られている。





「ねえ・・・この・・・大きな・・・吹き抜けは?」


つかさは高さ1メートルほどの柵の向こう側にある床の無い真っ暗な場所を見ながら尋ねた。


「無理だよ。壁に手や足をかける場所はないし、それにすごい深いの。地下深く・・・確か30メートル以上の高さがあるのよ」


「じゃあ俺たちは・・・」





退路を絶たれていた。










ドオオオン!!!!





ババババババッ!!!!










階下から地響きと共にけたたましい音が聞こえてくる。





(この音って、爆薬と・・・マシンガン!?)


淳平の危機感がより一層強くなる。





「とりあえず隠れよ!こっちに付いて来て!!」


同じように危機を察知したこずえは、ふたりを別の場所へと案内した。















バタン。





「はあっはあっ・・・ここなら見つかりにくいはず・・・」


3人は物置に使っていたと思われる狭い部屋に身を隠す。


部屋にはいろいろなものが散乱しており、スペースはごく僅かしかなく、結果的に身を寄せ合うこととなる。





いつもの淳平ならここで煩悩が目覚めるところだが、さすがにこの状況ではそんな余裕は無かった。


先ほどのこずえの攻撃がよほど頭にきたのだろうか、天地が暴れまくっていると思われる派手な音と振動は絶えず淳平らの耳と身体に伝わっている。





「くっそ、この状況じゃいずれ・・・」


「たぶん、あたしたちの退路を潰しながら上がってきてると思う。逃げるとなるとあの板の向こうにある階段を使うしか・・・」


「こずえちゃん、何でそんな事知ってんの?」


淳平は疑問のひとつをこずえにぶつけた。





「あたしちっちゃい頃、ここのすぐ側に住んでて良くここに遊びに来てたんだ。この会社の人たちみんな可愛がってくれて、結構はしゃぎまわってたの。だからこの中の事は良く知ってるの」


「へえ、そうだったんだ」


「だから、西・・・つかさちゃんとここに来たとき、驚いたけど、少し懐かしくって、あと・・・なんか寂しかった。風の噂で『倒産した』とは聞いてたんだけど、目の当たりにすると・・・」


「えっ、つかさと一緒に来たの?」


「うん。真中さんが行った後の役場の前で偶然会ったんだけど、その時すごく心配そうな顔してたの。だから二人でこっそり後をつけて・・・そしたら天地くんが現れて鉄砲なんか持ち出すからもう慌てて飛び出しちゃって・・・」





「本当にありがとう。もし来てくれてなかったら今頃俺は・・・」


「お礼ならまず奥様に言ってあげて。真中さんのことずっとずっと心配してたのよ。でもこんな事になるのを直感で気付いてただなんて、やっぱり凄いなあ・・・」


「つかさ、本当にありがと・・・」


淳平は側のつかさに目をやると、










(!!!)


つかさの異変に気付いた。










「つかさ、どうした!?大丈夫か!?」


つかさは苦しそうに下腹部の辺りを押さえている。


「つかさちゃん、大丈夫!?」





「さっきから・・・ちょっと・・・お腹が・・・」


痛みに耐えながら必死に声を絞り出すつかさ。





「つかさ!!」


淳平は苦しむ妻の身体を抱き寄せる。


薄暗い部屋だが、美しい顔は苦痛で歪み、汗が噴き出しているのがはっきりと分かるほどだ。





(まずい、このままじゃお腹の子が・・・いや、母体のつかさも危ないかもしれない)





(一刻も早く病院に連れていかないと・・・でも外に出たら・・・)





天地が派手に暴れている様子はここに居ても伝わってくる。


下手に出れば、そこで全てが終わる・・・・





だからといって、時間の猶予は無い。










(くっそお・・・一体どうすりゃいいんだ!?)










(どうすれば・・・みんな・・・助かるんだ!?)










淳平は必死になって答えを導き出そうとする。










だが、答えは出てこない。










(諦めるな!!俺が諦めたらつかさを誰が助けるんだ!! 考えるんだ・・・)





絶望的な状況下で、必死にあがく若き夫。





希望を求めながらも、その瞳は急速に光を失っていく・・・




















「真中さん、あたしに考えがあるんだけど・・・」





「えっ!?」





薄暗い部屋の中で、





そう話すこずえの瞳は、





『希望の光』が発せられていた。


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