R[ever free]12 - takaci  様


第12話      門出





「け、結婚!?」


すっとんきょうな外村の声ががらんとした教室に響く。


「ああ。だから進学はやめる」


対する淳平はいたって落ち着いていた。





ここは指導室。映研のもと部室である。


最大で7人いた映研も今や3年の真中と外村の二人しかいないので事実上『廃部』になった。


乱泉祭にも参加出来ず、その準備の後がまだ残るこの部室はとても寂しい雰囲気を醸し出していた。





「結婚って・・・相手は誰だよ?それに何で今頃!?」


「相手なんて一人しかいないだろ。それに理由も大体分かるだろ?」


「で・・・出来ちゃったのか?」


「ああ」


「てめえ!!つかさちゃんに中出しかましてハラませるたあふてえ野郎だあ!!」


「だーっ!!落ち着け落ち着け!!」


胸グラを掴み怒りの形相で迫る外村を淳平は必死になだめる。


「落ち着いてられるかあ!!両親亡くして悲しみの渦中にいるつかさちゃんをさらに不幸のどん底に突き落とすなんて・・・」


「不幸じゃねえよ!!俺たちは幸せなんだ!!いいからよく聞け!!」





淳平は外村に公園でのプロポーズの様子を話した。










「・・・なるほど。で、そのあとは?」


とりあえず落ち着きを取り戻した外村。


「つかさの叔父さん夫婦に会いに行って報告したんだけどさ、向こうはこっちがびっくりするくらい無関心で『自由にしろ』って感じだったんだよ」


「おいマジかよ?」


「ああ。露骨に態度では示さないけど、つかさの事を結構迷惑に感じてたみたいなんだ」


淳平の顔が歪む。


「まあ・・・いろんな理由があるんだろうな。それでお前ん家は?」


「ウチの親は・・・まあ最初は驚いたけど賛成してくれて、つかさを迎え入れてくれたんだ」


「む、迎え入れた?」


「ああ。つかさはもう俺の家で暮らしてんだ」


「な、何い!?」











つかさはプロポーズの翌日から淳平の部屋で生活を始めていた。


淳平の両親が温かく迎え入れてくれた事もあるが、それ以上に叔父の家の居心地が悪く、つかさの心にはかなりの負担になっていた。


叔父夫婦もまた、つかさが出て行くことに反対はせず、むしろ歓迎しているようだった。





つかさの命を狙う犯人は、まだ捕まっていない。


この件がが叔父夫婦にとってつかさを煙たがる大きな理由になっていた。





淳平の両親にもこの件は伝えたが、さほど気にせずつかさを歓迎した。


もちろん『息子が妊娠させた』という責任感もあるだろうが、それ以上に『かわいい嫁が来た』事を手放しで喜ぶお気楽な両親であった。










「・・・で、肝心のつかさちゃんはどうなんだ?お前の親と上手く馴染んでいるのか?」


「ああ。上手いどころか、馴染みすぎて困ってるよ・・・」


やや肩を落とす淳平。


(???)


さすがの外村でも淳平の落ち込む理由は分からない。










男二人に対し、女一人の真中家だが、それでも女の方が強い力を持つものである。


そこにつかさが加わった。


この二人はあっという間に馴染んでしまい、『嫁と姑の対立』の気配などは全く見られない。





こうなってしまえば真中家における女性陣の勢力は絶大なものになるのは日を見るより明らか。





いくらお互いの事を良く知っている恋人同士でも、一つ屋根の下で暮らし始めれば今まで見えなかった事、知らなかった事が沢山出てくる。


それでお互いをより深く理解して愛情を高めていくのだが、ケンカになることもしばしば・・・いや大半がケンカになるだろう。


この二人も例外ではなく、ほぼ毎日大なり小なりのケンカが起きていた。


そういった時に仲裁に入るのが両親なのだが、ここで勢力の差が大きな影響を及ぼしていた。





ほぼ全て淳平側が折れる形となり、いつの間にか真中家男性陣の権限はとても小さなものになっていた。













「・・・まあ、仕方ないんじゃないか?」


「俺もそう思ってるけど、でもオヤジがだらしないんだよ。毎日つかさの姿見ながらデレデレしてて・・・」


「そりゃあつかさちゃんみたいなかわいい子が嫁に来たら大概のオヤジはそうなるだろ」


「でも情けなさ過ぎるんだよ。料理の味付けやテレビの番組なんか前はどうしても譲らなかったものでもつかさに言われたらコロッと態度変えて・・・」


「それは・・・凄いな」


「だから俺とつかさで・・・まあケンカまでは行かないけどちょっとした意見の食い違いが起きたら
、つかさ側におふくろとオヤジが付くんだ。もう俺は孤立無援さ・・・」


「そ、そんなに落ち込むなよ。それに・・・つかさちゃんが元気ならそれでいいじゃないか!」


「ああ・・・そうだな・・・」


外村の励ましは淳平にはあまり効いていない。





(いくらつかさちゃんみたいなかわいい子でも、まだ結婚はしたくないな・・・)


落ち込む淳平を見ながら、外村はそう思っていた。





























12月も中旬を過ぎ、街はクリスマスムード一色で彩られている。


そんなある日、淳平の両親から二人にささやかなプレゼントが贈られた。










3月に高校を卒業後すぐに入籍をする予定だが、結婚式や披露宴の予定は無い。


つかさの両親が死んでからさほど時間が経っていないうえに、まだ若すぎる二人にはそんな資金は無かった。


そんな二人に対し贈られたものは・・・















「ぎゃはははは!!すげえ似合わねえ!!」


「外村の言うとおりマジで似合ってねえ!!真中って足短いから紋付袴のほうが良かったんじゃないか?」


大笑いする外村と大草。





「うるせえ!!仕方ねえだろうが!!」


そんな二人に対し顔を真っ赤にして怒る淳平はグレーのタキシードに身を包んでいる。





街の小さな写真館が行っている『結婚写真撮影』


これが淳平とつかさに贈られたプレゼントである。





「仕方ないってことは、これは西野のリクエストか?」


大草が淳平に尋ねる。


「ああ。『どうしてもウェディングドレスが着たい』って言ってさ。まあ俺もどちらかというと白無垢よりドレスのほうがつかさには似合ってるかなって思ってたし」


「ってことは、要するにお腹が大きくなる前に写真を撮っておこうと?」


今度は外村。


「ああ。ドレスだと結構目立つからな」


「それ賢明な考えだな。でもお前にタキシードは絶対に似合わない!!」


「分かってるっつうの!!つかさにも『似合わないだろうけどゴメンね』って謝られたよ!」


「「ぎゃはははは!!!」」


「そんなに笑うんじゃねえええ!!!!」


小さな写真館に二人の男の笑い声と一人の男の怒鳴り声が鳴り響いた。















「はいはい静かに!花嫁さんの登場ですよ!」


淳平の母が部屋から出てきて、騒ぐ真中らを静める。





そして皆が注目する中、










こずえに付き添われ、










純白のウェディングドレスに身を包んだつかさが姿を現した。















「はぁ〜〜〜〜・・・」





あまりの美しさにため息しか出ない。





心を奪われ、ただ見とれている。










「あれ、みんなどうしたの?」


じっと見つめられて戸惑うつかさ。





「いや・・・その・・・めちゃめちゃ綺麗だからつい見とれて・・・」


まず外村が口を開いた。





「つかさ・・・とても綺麗だよ」


「うん・・・ありがとう・・・」


やや硬かったつかさの表情が、淳平の一言で穏やかになった。





「あーあ、マジ勿体ねえな。こんなに綺麗な西野に対してこんなに似合わない真中が相手なんてさ!」


大草は思わず毒付く。


「おい大草!」


さすがに怒る淳平。





「そ、そんな事無いです!!真中さんのタキシード姿とっても素敵ですぅ!!」


そこにすかさずフォローを入れたのはこずえ。


淳平を見る目は怪しいほどに輝いている。





「おいおいこずえちゃん、そんな目してたってもう真中はつかさちゃんのものなんだぜ!」


「そうそう、真中は諦めて別の男見つけないと。そんなんじゃまたこいつはフラフラして女を悲しませちまう」


危ない目の輝きを見せるこずえに忠告する男性陣だが、





「真中さん・・・素敵ですぅ・・・」


こずえには声が届いていないようだ・・・





「は・・・ははは・・・」


(こ、困るけど・・・なんかうれしいな・・・)


でれっとした顔で照れ笑いする淳平。





「なんて顔してんのよ!」





ぎゅぅっ!!





「あだだだだ!!!」


さすがに怒ったつかさに思いっきりつねられた淳平が叫び声をあげると、


「あはははは!!!!」


皆の明るい笑い声が鳴り響いた。

















さて、気を取り直して・・・










パシャッ





「お二人とも、もう少しにこやかに・・・」





パシャッ





「そんな感じ、いい表情ですよ・・・」





パシャッ





「お二人とも、輝いていますよ」





パシャッ





順調に撮影は進んでいった。











そして撮影は無事終了。





「はい向井さん、これ・・・あなたに」


つかさは花嫁のブーケをこずえに差し出した。


「えっ!?い、いいの!?」


「うん!」


「あ、ありがとう!!わあ・・・」


ブーケを受け取ったこずえは最高の笑顔を見せている。





「やったなこずえちゃん!!」


「これでこずえちゃんにも幸せが来るな!俺なんかどう?」


「外村じゃ彼女を幸せに出来ないって・・・」


こずえを中心に大草、外村が集まる。










「みんなの居る中に投げ込みたかったんだけど、もう・・・」


つかさは淳平にしか聞こえないような小さな声でぼそっとつぶやいた。


とても寂しそうな表情で・・・





(そうだよな、あんなにたくさんいた友達も・・・)










(もう・・・これだけしかいないんだ・・・)










小宮山





右島





左竹





さつき











ちなみ





美鈴





トモコ
















賑やかで楽しい友人たちの顔が浮かび・・・










・・・消えていった・・・















「つかさちゃん・・・これ・・・」


淳平の母はつかさに大きめの写真立てを差し出した。





やや古い写真に写っているのは、





今の淳平とつかさと同じ姿の二人・・・





「おとうさん・・・おかあさん・・・」





つかさの両親の結婚写真である。















写真の中の二人は、とても幸せそうな表情を浮かべている。





そしてその顔の上に





ぽたぽたと雫が滴り落ちた。














「おとうさんと・・・おかあさんに・・・今の・・・あたしの姿・・・見て欲しかった・・・」





つかさは写真の中の両親に涙声でそう伝える。










「大丈夫だよ。今の姿はご両親にきっと・・・いや絶対見えてるよ!」





淳平はつかさをそっと抱き寄せ、笑顔を向ける。





「うん・・・そうだね・・・」















「お父さん、お母さん、俺、絶対に幸せにします!つかさと、お腹の中にいる子供・・・絶対に幸せにして見せます!」





写真に向けて淳平は真顔で伝えた。










「おとうさん・・・おかあさん・・・あたし、この人と幸せな家庭を築きます。おとうさんとおかあさんみたいな幸せな家庭を・・・だから安心して見守っててね」




















「真中さん・・・西野さん・・・」





「ちくしょう・・・久々にマジで泣けてきたけど・・・美鈴の時と違って嬉し涙だからいいよな・・・」





「真中・・・西野・・・本当におめでとう・・・」





親友のささやかな門出を涙ながらに見つめる3人の親友だった。



































そしてこの数日後















『テロ実行犯逮捕』















大きな見出しが全ての新聞の一面を飾った。


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