R[ever free]11 - takaci 様
第11話 拍手の中で・・・
(!!!!!!!!!????????)
つかさの言葉は淳平に強烈なショックを与えた。
「あ・・・あう・・・ ああああ!! ああ・・・ うううう!? はっ!? ああ・・・」
虚ろな目でよろよろと立ち上がり、頭を抱えたり天を見上げたりとおろおろしながらベンチの前をさまよい始めru
。
「じゅ、淳平くん!落ち着いて!!」
「あ、ああ・・・その・・・」
つかさの声で我に帰る。
「深呼吸して、それで心を落ち着かせて・・・」
淳平はただつかさの言われる通りに深呼吸する。
すると次第に落ち着きを取り戻し、真っ白だった頭が再び動き始めた。
「ご、ゴメン・・・思わず取り乱しちゃって・・・」
再びベンチに腰掛け、つかさに謝る。
「ううん。驚いて当然だと思うから・・・」
「で、その・・・いつ気付いたの?」
「2,3週間前から『おかしいな?』って思ってて・・・で、先週お医者さんに行ったら『7週目』って言われたの・・・」
「7週目ってことは・・・」
(あの日か!!)
全国模試の前夜
多くの命を奪ったテロの前夜
最も熱く、激しく絡み合った夜を思い出した。
(3発・・・いや4発中出しだもんなあ・・・つかさ何も言わなかったからつい勢いで・・・)
淳平は己の甘さを痛感した。
「あたし、あの日はまだ大丈夫かなって思ったんだけど・・・その、見事にどーんと当たっちゃって・・・」
「どーんって・・・」
(そ、そんな軽い調子で言われても・・・)
あまり深刻さが感じられないつかさの口調は淳平をさらに落ち込ませた。
「はあ・・・」
思わずため息が出てしまった。
(でも、マジでどうしよう・・・)
(受験、つかさの夢・・・)
(俺の夢、これからの事・・・)
淳平は真剣に悩み、必死になって答えを探る。
長い沈黙が二人の間に流れた。
「・・・やっぱり・・・墜ろしたほうがいいよね・・・」
つかさは暗い表情でぽつんとつぶやく。
「えっ!?墜ろすって・・・」
「だって・・・やっぱり・・・あたしたちにはまだ・・・」
「だ、だめだ!!墜ろすなんて絶対ダメだ!!それじゃあつかさの身体が!!」
淳平はつかさの両肩を掴み、戸惑いながらも強い眼差しをつかさに送る。
「でも・・・現実は厳しいよ。淳平くんは受験控えてるし・・・」
「俺は・・・生んで欲しい。つかさに、俺の子を生んで欲しいんだ」
「えっ?」
つかさは驚きの表情で淳平をじっと見つめる。
「俺は、ずっとふらふらしてて好きな女の子を一人に決められずにいた」
「もちろん本気で迷ってたんだけど、でも、周りの事も少しは考えていたんだ。その・・・『振った後の女の子はどうなるんだろう』とか・・・他にもいろいろ」
「そんな事が、決断を遅らせてもいたんだと思う」
つかさは真剣に語る淳平の表情をじっと見つめ続ける。
「でも、一番大事なのは自分の本心なんだ。『自分が本当はどうしたいのか?』 それを考えたら・・・答えは簡単に出てきた」
「俺は・・・つかさが好きだ」
「一番大事な事が決まれば、あとはそれを基に自然とまとまっていくんだよ」
「今回も一緒さ。一番大事な事・・・それは、『お腹の中の子をどうするのか』じゃないかな?」
「俺は、つかさに生んで欲しい・・・」
迷いの無い視線
迷いの無い口調で
淳平は目の前のつかさに『本心』を伝えた。
「淳平くん・・・」
「それとも、つかさは子供を生みたくない? つかさが要らないって言うんなら・・・俺も反対はしないけど・・・」
「あたしは・・・」
しばらく考えるつかさ。
そして・・・
「・・・生みたい・・・淳平くんの・・・子供生みたい!」
淳平と同じ
視線、口調に迷いは無かった。
「それなら・・・もう決まりだよ!」
「えっ・・・」
「俺、卒業したらすぐ働くよ」
「でもそれじゃあ淳平くんの夢が・・・」
「大学に行かなくっても映画は作れる!いずれチャンスは来る!」
「つかさも、子育てとかいろいろ大変になるけど、パティシエの夢は諦めていないだろ?パリには行けなくなるけど・・・だからってパティシエになれないわけじゃないだろ?」
「うん・・・あたしもそう思ってるけど・・・」
「それに俺には新たな夢が出来たんだ」
「新たな夢?」
「ああ。つかさと、お腹の子と、幸せな家庭を築いていくっていう・・・映画監督の夢なんて霞んでしまうようなすばらしい夢だよ!」
「淳平くん、それって・・・」
「ああ、俺とけ・・・ あっ! ちょ、ちょっとまって!!」
淳平はつかさに背を向け、大きく深呼吸をする。
「ど、どうしたの?」
淳平の態度を見て急に不安になるつかさ。
「い、いやその・・・俺ってとても大切な事を・・・あまりにもさらっと言おうとしたから・・・」
「えっ?」
「だ、だから・・・ちゃんと考えて・・・きちんと言いたいんだ」
淳平は背を向けたまま、緊張した声でそう伝える。
「もう言えないかもよ?」
「えっ?」
「だってなんかさあ、淳平くんがそんなに緊張してたらまず言えないような気がするもん。さっき勢いで言っちゃったほうが良かったかもね!」
つかさは微笑みながら、淳平に向けて軽く舌を出す。
「バッ・・・バカにするなよ!それくらいちゃんと言える!」
ムキになる淳平。
「じゃあ言ってよ。あたし待ってるから」
「ああ!」
ふたりは姿勢を正して、やや距離を置いて正面を向き合った。
(やべ・・・すげえ緊張してきた・・・)
淳平の鼓動がどんどん高鳴っていく。
(かっこいい言葉で伝えようと思ったけど・・・だ、ダメだ。もうそんな余裕ない・・・)
どんどん高鳴る鼓動。
(こ、このままじゃつかさの言うとおりマジで言えなくなっちまう・・・)
さらに高鳴る。
(く、口から心臓が飛び出そうだ・・・も、もう言葉なんて出ない・・・)
(あ・・・)
ふと顔を上げるとつかさと目が合った。
澄み切った目で、じっと見つめている。
淳平を信じ、言葉を待っている。
(何やってんだ俺は!つかさは俺を信じて待っててくれてるじゃないか!!)
(何でビビる必要があるんだよ!!答えはもう分かってる!!あとは・・・)
(俺が腹をくくるだけだ!!)
淳平は再び大きく深呼吸をする。
(・・・よし!)
「つかさ・・・いや、西野つかささん!」
「はい・・・」
「俺と・・・ 結婚してください・・・」
(言えた・・・)
声も震えず、思っていたよりきちんと言えた事に満足する。
(あとは・・・)
じっとつかさを見つめる・・・
「・・・はい!」
つかさは涙で声を詰まらせながら、笑顔で頷いた。
「つかさ!!」
「淳平くん!!」
緊張が解け、弾けるように飛び出した二人は、
互いの身体を強く抱きしめあう。
「ずっと・・・ずっと二人で生きていこうな・・・」
「うん・・・」
最高の幸せが二人を包む。
パチパチパチパチパチ・・・
「ん・・・わっ!?」
「えっ・・・きゃっ!?」
知らない間に多くの人が二人を取り囲み、温かい微笑と共に拍手を送っていた。
「おめでとう!!本当におめでとう!!」
「出来ちゃった結婚でも、こういうのはいいよねえ!!」
「こんなときに授かった命だ!大事にしろよ!!」
「末永くお幸せに!!二人ともとても輝いてますよ!!」
あのテロで人々の心はすさみ、刺々しい空気が流れていたが、
ふたりはそんな人々の心を温かくした。
あたりは皆見知らぬ人ばかりだが、心から祝福していた。
最初は戸惑っていた二人も次第に笑顔になっていく。
「こんなに祝福されて・・・あたしすごい幸せだよ・・・」
つかさは感涙に咽ぶ。
「つかさ・・・」
淳平は笑顔でつかさを見つめる。
「うん・・・」
「おおおおおおおっ!!!!」
「ヒューヒュー!!二人ともやるねえ!!!!」
「おめでとーーーーー!!!!!ホントにおめでとーーーーー!!!!!」
さらに大きくなった拍手と喝采の中で、
軽いキスを交わすふたりだった。
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