R[ever free]9 - takaci  様


第9話      悲劇の日





10時57分





(もうそろそろだな・・・)


天地は机の上に置いたブランド品の高級時計で時間を確かめる。





試験問題と答案用紙にも目を向けるが、あまり集中出来ない。


(僕の予想では、試験は中止になる。ならこんな問題やっても意味は無い・・・)





10時59分





(あと1分・・・)


(いや一応念のため、とりあえずはやった振りをしておかないと・・・)


(くだらない事で疑われるわけにはいかないからな・・・)





11時00分





(時間だ・・・)





だが、何も変化は無い。





(さあ何分後に起こるかな?5分、いや10分か・・・)


天地は再び試験問題に手をつけた。










5分経過。





10分経過。





何も変化は起きない。










そして11時14分、





ピーンポーンパーンポーン・・・





会場が軽くざわつく。





『受験生の皆さんに連絡します。本日の試験はただ今を持って中止します。忘れ物の無いよう注意し速やかに帰宅してください。繰り返します。本日の試験はただ今を・・・』





ざわめきがどよめきに変わる。


受験生はしばらく困惑した表情で戸惑っていたが、やがて片付けをし、席を立ち始めた。





(ふん、14分も掛かるとは・・・対応が遅いな・・・)


天地も周りに合わせるかのように片付け、席を立った。










「なんだなんだ?何が起こったんだ?」


外村もまた困惑しながら片付け、席を立つ。


「おい外村!」


声を掛けられ振り向くと、同じように困惑した大草の顔があった。


「どういう事か、お前ならなんか知ってるか?」


「おいおい大草くん、いくら俺でもそれは分かんねえって!」


「他の会場はどうなのかな?」


「今から真中に掛けてみるよ。けどあいつ今朝からずっと繋がんねえんだよなあ・・・」


外村は携帯を取り出した。


「えっ、真中って携帯買ったの?」


「あれ知らなかった?つかさちゃんといちゃつくために買ったんだよ」


「ふうん・・・」


あからさまに不機嫌になる大草。


(はは・・・やっぱ大草はまだつかさちゃんの事が・・・)


そうは思ったものの、外村はあえて口にはしない。





(あれ、天地・・・何にやついてんだ?)


ふと目をやると、不気味な笑みを浮かべながら教室を去る天地の姿が目に留まった。


(変な奴だなあ。まあ東城が死んだショックがまだ抜け切れてないのかもな・・・)





[おかけになった電話番号は電波の入らない場所におられるか電源が・・・]


淳平に掛けた携帯に対するメッセージを聞きながら、外村は不気味な天地の笑みが気になっていた。





























そしてその頃淳平は、こずえに付き添って試験会場からかなり離れた総合病院にいた。


「真中さん・・・本当にごめんなさい・・・」


「本当にありがとうございます!この子ったら迷惑掛けてばかりで・・・」


こずえに続き、知らせを聞いて駆け付けたこずえの母親にまで謝られる。


淳平はすっかり恐縮してしまった。


「い、いやそんな、そもそも俺が悪かったんです。俺がこずえちゃんにちゃんと付いてればこんな目に遭わせる事も・・・」


逆にこずえらに向かって頭を下げる。


「まっ!『こずえちゃん』なんて・・・あんた男の人にそんな風に呼ばれたこと無いでしょ?」


「お、お母さん!!ちょっと・・・あっ痛・・・」


「だ、大丈夫!?」


淳平は慌ててベッドに駆け寄る。


「だ、大丈夫です。心配掛けてすみません・・・」


「まあ!本当にいい男の人だねえ!!こずえ、この人あんたの彼氏にしちゃいなさい!!」





「「なっ!?」」


淳平とこずえ両人揃ってこずえ母の発言に慌てる。





「お、お母さん!真中さんにはもう素敵な恋人がいるんだからね!!」


「あらそうなの・・・」


残念そうな表情で淳平を見るこずえ母。


(そ、そんな顔で見られてもなあ・・・)


突き刺さるような視線がとても痛い。





「まあいいじゃない。じゃあその彼女からあんたが奪えばいいのよ!」


よほど淳平が気に入ったのか、こずえ母はますますエスカレート。


「ちょ、ちょっとお母さん!!」


ずっと蒼かったこずえの顔も今は真っ赤だ。





「ねえねえ、この子ちょっとおっちょこちょいだけど根はいい子だからさ、ためしに付き合ってみてくれない?」


ついには我が娘を売り込む母。





「す、すんません・・・俺ちょっと電話してきます!!」


もはや逃げるしかない淳平だった。



















(はあ・・・こずえちゃんのお母さん強烈過ぎるよ。もっと自分の娘を心配しろよな)


(でもまあ、こずえちゃんが大したこと無くてよかったよ・・・)


車に轢かれたこずえだが、スピードが出ていなかった事もあり身体のダメージは少なかった。


それでも事故直後は起き上がれず、美しい顔は苦痛で歪んでいた。


淳平はそんなこずえの手を握り締め、励ましながら救急車でこの病院まで付き添ってきた。


こずえは脳震盪と軽い打撲のみで、念のため一晩入院し明日には退院できる見込みだ。





(この病院って試験会場からかなり離れてるんだよなあ。今更行ってもしょうがないか・・・)


(まあいいや。とりあえずつかさに電話しておこう)


携帯使用可能エリアに来た淳平は電源を入れ、つかさの携帯に掛けた。










[もしもし、淳平くん?]


やや、いやかなり緊迫した口調のつかさの声が届く。


「ああ。あれどうしたの?なんかあったのか!?」


(まさかつかさにまた殺し屋が!?)


一気に緊張が走る。


[あたしは何も無い。それより淳平くんホントに大丈夫?ひどい怪我してない?どこも痛くない?]


つかさの声はかなり切羽詰っており、涙声にも聞こえる。


「お、おい・・・いったいどういう事?ひょっとして今朝こずえちゃんが轢かれたの知ってるの?」


[ひ、轢かれた?向井さんが?]


「ああ、実は・・・」


淳平は今朝こずえが車に轢かれた事、こずえに付き添って病院に来て、今その病院にいる事、結局試験会場には行かなかった事を話した。





[よかったあ・・・]


心底ほっとした声が淳平の耳に届く。


「おいおい、こずえちゃんは怪我してるんだ。[よかった]じゃないよ・・・」


さすがに呆れる淳平。










だが、





[淳平くんの試験会場って、確か○×ゼミのビルだったよね?]


「ああ、そうだけど・・・」


[そこ・・・ついさっき・・・11時ごろに爆発したの・・・]


「爆発!?」


[他にも・・・もうひとつの試験会場と・・・あと△■百貨店・・・ほぼ同じ時刻に爆発して・・・一瞬で崩れ去ったって・・・]


「う、うそだろ?」


つかさの言葉に我が耳を疑う。


[本当だよ・・・もうテレビはどこもそのニュースばかりだよ。『同時多発テロ』って騒いでる・・・]





(テロってマジかよ・・・ここ日本だぜ?)


(それに崩れたって・・・じゃあ中に居た生徒は? 友達は!?)


親しい友人の顔が浮かんでは消えてゆく。





[淳平くんお願い・・・側にいて・・・あたし怖い・・・]


泣きながら訴えるつかさ。


「わかった!すぐに行くから少し待っててくれ!じゃあ一旦切るから!!」


淳平は携帯を切り、こずえらに手短に挨拶を済ませると一目散につかさの家へと向かった。










つかさの家に向かう途中、淳平は自宅にだけは連絡を入れておいた。


だが淳平の親は事件をまだ知らず、話を聴いて驚いていたほどだ。


(ウチの親は呑気だなあ・・・)


呆れながら、つかさの許へと急ぐ。





そしてつかさの家に着くと、泣きながら抱き付かれた。


「淳平くん・・・怖かったよお・・・」


子供のように泣きじゃくるつかさ。


「もう大丈夫、俺が側に付いてるから、だから落ち着いて・・・」


「うん・・・」


淳平はつかさをなだめ、とりあえずテレビのスイッチを押す。





(うわっ・・・ 何だよこれ・・・)


非現実的な映像が映し出され、一気に顔が歪む。





想像以上の被害だった。


2箇所の試験会場、そして大きな百貨店の建物は跡形も無く崩れ去っていた。


偶然撮影された映像も報道され、それを見ると爆破とほぼ同時に一気に崩れ去ったようだ。


まるで欧米でよく行われるビル発破そのもの。










ただ、異なるのは・・・


中に人がたくさん居たという事・・・










時間が経つにつれ、被害者の名前が続々と報道されていく・・・


まず受験者名簿のある2箇所の試験会場の被害者から明らかになっていった。


その中には泉坂高校や桜海学園の生徒も居る。


淳平、つかさのクラスメートや友人らの名前も。





綾の親友だった真紀。





さつきの親友だった涼子。





唯に好意を抱いていたサッカー部の高木。










それに・・・










「右島・・・   左竹・・・   浦澤さん・・・  そ、そんな・・・」





淳平が通う『泉進ゼミナール』の生徒は、ほぼ全員が犠牲になっていた。





「くそ・・・なんでこんな・・・」





友人を失った悲しみ。





この凶行を行った犯人に対する怒り。





一気に溢れ出した。










「うっ・・・ぐうううっ・・・うぅあっああああ・・・」





淳平は泣いた。





声をあげ、激しく泣いた・・・















そして夜になると、百貨店での犠牲者も次第に明らかになっていった。





テレビに次々と映し出される被害者の名前。




















「なっ!?」





「そ、そんな・・・」





映し出された名前を見て、





二人とも声を失った・・・


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