R[ever free]8 - takaci  様


第8話          SEX


綾の死から約半月が過ぎた。


大きな悲しみも時の経過と共に次第に薄れ、周りの空気は通常に戻りつつあった。


だが、なかなか戻れない者もいる。





[ごめん。やっぱりまだ会えない・・・]


「何でだよ?俺たち恋人だろ?」


[もし前みたいに・・・あたしが狙われてる時に淳平くんが側にいたら・・・]


「俺はつかさの恋人だ!どんな事があってもつかさを守って見せる!」


[・・・ありがとう。でも・・・あたしも淳平くんを危険な目に遭わせたくないの。だから・・・分かって・・・]


「つかさ・・・」





綾の葬儀以降、淳平はつかさと顔を合わせていない。


あれからつかさは自宅から一歩も出ておらず、学校も休み続けている。


しかも部屋はカーテンを閉めたままで、日中は暗い部屋でずっとうずくまっているらしい。


『狙撃』という恐怖はつかさを心底震い上がらせてしまっていた。





そんなつかさを励ますべく、淳平は毎日携帯でつかさと話をしていた。


だがなかなか会ってくれない。


以前予告なしで自宅を尋ねたりたりもしたが、扉越しに『ゴメン、帰って・・・』と言われてしまった。





(何が恋人だ。大好きな彼女に何もしてやれないなんて・・・)





つかさに会えない事で、淳平の落ち込みと焦りは日に日に増して強くなっていく。















土曜日の午後、


淳平は翌日に控えた全国模試の勉強を塾の自習室で行っている。





悲しい事件が立て続けに起こっても、受験は待ってくれない。


事件に気を取られた淳平の受験勉強はかなり遅れており、こちらでもかなり焦っていた。










ブーッ  ブーッ  





マナーモードの携帯が机の上で振動する。





(・・・ったく誰だよ?)


勉強を中断された淳平は不機嫌そうな顔で携帯を手に取った。


「はい真中です」


[あ、真中くん?つかさの母です・・・]


「ええっ!!  あっ!?」


不意に大きな声が出てしまい、慌てて周りを見回す。





自習室にいるほかの生徒全員から冷たい視線が送られていた。










父の仕事の関係で急遽つかさの両親は今日から明日の夕方まで家を離れる事になり、その間つかさは一人になる。


今夜一晩つかさの側にいてあげて欲しいという母からの依頼だった。


「ひ、一晩って・・・でも・・・」


[あなたたちの関係はもう知ってるから。別に気にしなくてもいいわよ]


(そう言われるとますます気にしちまうよ・・・)


とは思ったものの『エッチ公認の夜』となった以上、否が応でも気分は高まる。


翌日の模試のことなど淳平の頭にはなく、大事な授業も全く耳に入っていなかった。


そして授業が終わると、淳平は急ぎ足でつかさの家に向かった。










(そういえば、つかさは俺に会ってくれる気になったのかな?)


玄関の前に立ち、淳平はようやくその事を思い出した。


若い淳平はエッチのことで頭がいっぱいですっかり忘れてしまっていた。


(まあいいや、とにかく・・・)


深く考えずに、淳平はチャイムを押す。





[はい・・・]


インターフォンから緊張したつかさの声。


「俺だよ」


[えっ・・・]


(あれ、お母さんから知らされていないのか?)


インターフォンでもつかさが驚いていることは分かる。


「あの・・・お母さんから聞いたんだ。今夜はつかさ一人だって。だから・・・」





[あたしは・・・大丈夫だから・・・だから・・・ゴメンねわざわざ・・・]










(やっぱりぃ〜〜〜)


扉の前で激しくうなだれる淳平。


(そんな上手い話あるわけ無いよなあ・・・)










(でもつかさの声・・・やっぱり不安がってる)


(それに、そもそも俺はつかさを守るために来たんじゃないか!)


(たとえ拒否されても・・・今日は引き下がれないぞ!)


煩悩に加え、恋人の自覚が淳平の心に火をつけた。





「じゃあ俺、今夜はここで見張ってるから」


[えっ、ちょっと・・・]


今度はやや困った声だ。


「俺はつかさの恋人だ。今夜は何が何でもつかさを守る。つかさのためならこれくらいへっちゃらだよ!」





とは言ったものの、10月の夜となるとかなり冷え込む。


(ああ・・・模試はおろか、しばらく風邪で苦しむなあ・・・)


言った側から鬱になる淳平。










カチャン





(えっ?)


鍵が開けられた音に驚く。





「10秒経ったら入ってきて。あたしキッチンにいるから」


扉越しに聞くつかさの声。


スピーカー越しではない『生声』はやはり温かい。


「えっ、なんで・・・」


「いいからそうして!絶対に早く入ってきちゃダメだぞ!!」


「は、はいっ!!」


こうやって怒られると、ただ従うしかない。





(何ですぐ入っちゃいけないんだ?やっぱ防犯対策なのかな?)


淳平は辺りを見回し、人の気配が無いことを確認した。










(10秒・・・経ったな・・・)


淳平はゆっくりと扉を開け、つかさの家に入る。





玄関につかさの姿はない。





「あ、あがっていい?」


「どうぞ〜〜。こっち来て〜〜」


奥からつかさの比較的明るい声が届いた。





(機嫌、そんなに悪くないみたいだな)


靴を脱ぎ、軽い足取りでキッチンに向かう。










「うわっ!?」


「・・・だから10秒待ってって言ったの・・・」


「で、でもその格好は・・・」


「・・・お風呂上りだもん、仕方ないじゃない。それにもう隠す仲でもないでしょ?」


「ま、まあそうだけど・・・」


つかさはTシャツにショーツ1枚という大胆な姿だった。


しかも両胸の頂には小さな突起が窺える。


煩悩が一気に呼び覚ました。





「はい、あったかいカフェオレだよ」


「あ、ありがとう・・・」


(こ、この格好のままで俺を入れたってことは・・・つかさもその気なんだよな?)


(い、いや先走るのはまずい。ここは心を落ち着かせて・・・)


湧き上がる欲望を必死に抑えながら、淳平はマグカップのカフェオレに口を付ける。










二人はテーブルで向かい合い、他愛のない会話を楽しんだ。


毎日電話で話をしたが、やはり直接会って話すのとは違う。





淳平はしばしば、つかさの笑顔をじーっと見つめていた。


それだけでも幸せな気分になれる。


「なによお、さっきから何見つめてるの?」


つかさもまた笑顔で尋ねてくる。


「いや、しばらく会えなかったからさ。やっぱりつかさの笑顔はかわいいよ」


淳平には珍しく気の効いた言葉が出た。


「あたしも・・・ずっと淳平くんに会いたかった」


「えっ・・・じゃあなんで?」


「うん・・・」


つかさは席を立ち、淳平に背を向ける。





(つかさ?)


温かい気分から一転、淳平の心に不安がよぎる。










「東城さんが亡くなって、苦しんでる淳平くんの姿、見たくなかったの」


「えっ?」


「東城さんが目の前で息を引き取ったとき、淳平くん心の底から泣いてた。淳平くんのとてつもない悲しみ、あたしにも伝わってきて・・・悔しかった」


「悔しい?」


「あの時分かった。まだ淳平くんの中には東城さんが居た。淳平くんはあたしを見てなかった。あの時は、東城さんが淳平くんを独占してた・・・」


「つかさ・・・」


「淳平くんは・・・東城さんを失った悲しみに包まれる・・・そんな淳平くん・・・見たくなかったし・・・あたしも・・・嫌なあたしを・・・淳平くんに・・・見せたく・・・なかった・・・」


つかさの声が詰まり、涙交じりになる。





だが淳平はそれよりも、たった今発せられた言葉が気になっていた。


「つかさ、『嫌なあたし』って・・・」










「あたし・・・東城さんの死は・・・もちろん悲しかったけど・・・でも・・・心のどこかで・・・嬉しがってた・・・」





「これで・・・淳平くんを独占・・・出来るって・・・思った・・・」





「淳平くんの・・・腕の中で・・・死んだ・・・東城さん・・・・憎かった・・・」





「淳平くんの・・・悲しませる・・・うっ・・・東城さん・・・恨んだ・・・」





「えっ・・・こんな・・・あた・・・し・・・ひっく・・・淳平・・・くんに・・・えう・・・見せたく・・・な・・・かった・・・」





「ごめん・・・な・・・さい・・・」










涙ながらのつかさの『告白』





両手で顔を覆い、溢れ出た雫が足元を濡らす。










(つかさ・・・そんな風に思ってたなんて・・・)





(俺の知らないところで・・・またつかさを苦しめて・・・)





(こんな俺・・・ホント恋人失格だな・・・)





淳平も激しく落ち込んだ。










だが、










いつもならこのまましおれるところだが、今日は違っていた。





(・・・でも、俺が恋人なんだ・・・)





(つかさは俺に嫌われたくなかったから会ってくれなかったんだ)





(つかさの言葉・・・確かにショックだけど、でも・・・)





(でも・・・俺は・・・つかさが・・・)















淳平はすっと席を立ち、後ろからつかさを優しく抱きしめる。





「淳平くん・・・無理・・・しなくっていいよ・・・」





「無理じゃない!俺はつかさが好きだ!好きなんだ!!」





つかさの身体を返し、やや強引に唇を重ね合わせる。





「んん・・・   あっ、だめ・・・そんな気分じゃ・・・」


つかさは身体を離し、拒否の姿勢を見せる。


だが淳平は諦めずに迫る。


そしてつかさの腰がシンクに当たり、それ以上下がれなくなった。





「つかさ!!」


再びキス。





「んっ・・・   ふっ・・・   」


唇の中で舌が絡み合う。


強ばっていたつかさの腕もやがて力なく垂れ下がり、全身から力が抜けていく。










「ん・・・   ん・・・    んぅ!?    」


ぴくんと跳ねるつかさの身体。


淳平の指が下着越しにつかさの秘所を優しく撫で始める。


唇を離すと、つかさは押し寄せる快感で既に息が荒く、身体を淳平に預ける形になっていた。





「つかさゴメン。確かに俺は東城の事を考えていた。東城の死で一杯になって、つかさのことを忘れた事もあった。本当にごめん」





「でも俺はつかさが好きなんだ。つかさは俺にとって無くてはならない人なんだ」





「そんなつかさを苦しめたくない。つかさが苦しむんであれば、俺は東城を忘れる」





「つかさに俺から東城を忘れさせてほしい。俺をもっとつかさに夢中にさせてほしい」





「だから・・・つかさの全てが・・・欲しい・・・」










今までは『やらせて』とか『エッチしよう』といった軽い感じの言葉だったが、


今回はやや重みのある言葉を使った。


いや、自然と言葉が出てしまった。










「あたしも・・・淳平くんが欲しい・・・淳平くんに抱かれたい・・・」





「淳平くんが夢中になってくれるなら・・・あたし何されたってかまわない・・・」





「あたしの事は気にしないで・・・淳平くんの思うがままに・・・」





潤んだ瞳で淳平を見つめる。





その輝きは少女のものではなく、本能が求める『雌』の輝きを見せる。










想いはひとつ。





確かめ合うかのように、三度唇を重ね合わせた。
























激しい夜となった。





「あっ・・・   はうっ・・・    ふあっ・・・    あっ・・・    あふっ・・・   」


つかさからは絶えず声が漏れ続ける。


音量こそさほど大きくないが、訪れる快感は今までで最高のものとなっていた。





互いを求め合う想いはかつて無いほど強く、それが更なる快感を引き起こす。


軽い愛撫でもつかさの身体は大きく跳ね上がり、何度も何度も昇りつめた。





最近の淳平は、多少ではあるが自らを抑えていた。


何度と肌を合わせ、その度に悦びの声をあげ昇りつめてくれるつかさの姿を見ながら、


(もっと激しくしてみたいけど、つかさって結構イキやすいからなあ・・・ひょっとしたら持たないんじゃ・・・)


そんな気遣いが自らの欲望をセーブするきっかけになっていた。





だが今夜はそれは無い。


淳平も自身の快感を貪欲に求め、激しくつかさを攻めあげる。





二人の行為はもはや『エッチ』ではなく、大人の『SEX』となっていた。










二人は朝まで互いを求め合うつもりでいたが、それは叶わなかった。


淳平が危惧していたことが当たり、つかさに限界が訪れる。


かつて無い激しい行為と押し寄せる大きな快感で、つかさは数え切れないほどの絶頂が訪れた。


終盤になると数度の絶頂が立て続けに押し寄せ、呼吸も不規則でかなり荒くなる。





「だ、大丈夫・・・  もっと・・・  もっと   激しく突いて・・・」


いつもならセーブする淳平も、今夜は容赦しない。


リクエスト通り激しく突き上げた。










もはや数え切れないほどの絶頂を迎えるつかさの中に、淳平は今夜の3発目を奥深くに打ち込むと、





「あ・・・    あ・・・    あっ・・・     はあ・・・  はあ・・・  はあ・・・」





それを最後に、つかさは絶頂と同時に気を失ってしまった。



























コトン・・・    コトコト・・・


「ん・・・んん・・・」


うっすらと目を開けるつかさ。


まだ暗い部屋で服を着る淳平の姿を捉えた。


「淳平くん?」


「あ、ごめん起こしちゃった?」


「こんな時間に・・・どうしたの?」


時計はまだ5時半を指している。


「今日、全国模試なんだ。いったん帰って準備しないと・・・」


「ご、ごめんなさい。そんな大事な日だったなんて・・・」


「いいっていいって。俺も・・・あんな夜が過ごせてメッチャ満足したんだからさ。模試だって何とかなるよ」


「でも・・・淳平くんは物足りなかったんじゃない?」


「えっ?」


「だってあたし・・・気持ちよくなりすぎて意識・・・飛んじゃったんだから・・・」


恥ずかしさで顔を赤くするつかさ。


「そんなの気にしなくっていいって。それにまだ寝てろよ。足腰まともに動かないんじゃないか?」


淳平の指摘どおり、つかさの下半身は本人の意思で動かせる状況ではない。





「じゃあ・・・せめてものお詫び!」


つかさは淳平の腕を引っ張り、ベッドの上に呼び戻した。


「うわっ!?な、何だよお詫びって?」


「目覚めの一発、どう?見たところやる気みたいだし・・・」


「い、いやこれは・・・男の朝の生理現象で・・・」


『朝勃ち』した欲望を手で隠す淳平。


「それに『模試』ってことはこずえちゃんと会うんでしょ。こんな元気な淳平くんのまま彼女に合わせたくないもん」


「大丈夫だって!こずえちゃんとは絶対そんな事にはならない。俺はつかさ一筋だよ!」





そうは言っても、欲情したつかさはもう収まらない。


「淳平くぅん・・・おねがぁい・・・」


潤んだ目に加え、鼻に掛かった甘い囁き。





淳平の抵抗はあっさり屈した。










そして・・・










「じゃあ言ってくるよ。鍵はポストの中に入れておくから」


つかさにそう伝えて部屋を出て行く淳平。










つかさはベッドの上で全身をひくつかせていた。









(あたし・・・もう・・・大好きなんてもんじゃない・・・)





(あたし・・・淳平くんを・・・愛してる・・・)





絶頂の余韻が残るつかさの女芯からはつい先ほど放たれた淳平の白い欲塊が流れ出していた。






























「ふわああ・・・」


(やっぱ昨夜はきつかったのかな?目覚めの一発も時間が経つとそれほどでも・・・)





「真中さん、大丈夫ですか?なんか凄く眠そう・・・」


「ああ。大丈夫大丈夫!模試頑張らないとね!!」


目の前のこずえに対し元気に振舞って見せる。





二人は早めに合流し、朝のファーストフード店で朝食を摂っていた。


こずえから誘ったのだが、目的は『ささやかなデート気分』である。


だが目の前の眠そうな淳平の姿はこずえを心配させていた。





「本当に眠そうですね。夜遅くまで勉強してたんですか?」


「いやそうじゃなくって・・・ちょっと大事な事があってね・・・」


睡魔が強く淳平はややボーっとしている。





「大事な事って・・・ひょっとして西野さんと熱い夜を過ごしたとか・・・」


半分冗談、からかうつもりで言ったこずえだが、










「うん・・・」





「えっ!?」





「あっ・・・いやそのっ!?」


淳平が気付いたときにはもう遅い。





こずえは顔を真っ赤にして固まっていた。





















(うわあどうしよっかなあ・・・朝っぱらからこずえちゃん驚かせちゃって・・・いやひょっとしたら落ち込んでるかも?)


(ああ・・・まともに顔合わせらんねえよお・・・)


朝食を済ませファーストフード店を出た淳平らはやや離れた試験会場へと足を進めだした。


だが先ほどの気まずい空気があり、淳平はこずえのやや先を歩く。












そしてこずえは・・・





(真中さん・・・西野さんと熱い夜を・・・)





(でももし・・・あたしが真中さんと過ごしたら・・・)





(ああっ真中さん!そんなトコ舐めないで・・・)





驚きはしたが落ち込んではいない。





それどころか朝っぱらからエロ妄想モード突入。










これが向井こずえである。










だが歩行中のエロ妄想モードは危険である。


周辺に対する注意力が散漫になるのだ。















パッパーーーッ!!





派手なクラクションに振り向くこずえ。





気が付くと路地から出てきた車が目の前に来ていた。





「ひいっ!?」


恐怖で身体が硬直する。















キキーーーッ!!















ドンッ!!




















「ん?」


派手なスキール音の後に鈍い音がして、淳平が振り向くと、










車の目の前で倒れるこずえの姿が目に飛び込んできた。










「こずえちゃん!?」


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