R[ever free]4 - takaci  様


第4話      突発


『女子高生 青酸カリ中毒死』


『無差別殺人か?放課後の高校で起こった悲劇!』


外村の持つ大きな見出しが描かれた新聞を淳平は覗き込んでいた。


他にも小宮山、天地、さつき、綾たちも記事に目を通している。





『缶ジュースの口に青酸カリが塗られていた』


これが警察の見解であり、報道もそう伝えている。


青酸カリはちなみの唇と右手親指、そして缶ジュースの口の3箇所からしか検出されなかった。


『缶を開けるときに親指が口に付いた青酸カリに触れた』という認識である。


世間は『企業テロ』だの『大量殺人予告』だの大騒ぎになっている。





「あたしもあのジュース好きだし、あの自販機でも良く買ってる。もしあたしが当たってたら・・・」


震えるさつき。


「うう・・・なんでちなみちゃんが・・・」


涙を流す小宮山。


「でもあのちなみちゃんがもう居ないなんて・・・俺まだ信じらんねえよ」


(そうだよな・・・あの端本が死んだなんて・・・)


外村の言葉で、淳平はにわかに信じられない現実を改めて思い知った。





「他の場所からも毒は出てこなかったのかな?」


綾がぼそっと口を開いた。


「どういうことだよ?」


「たとえば靴とか、鞄とか・・・」


「缶の上に毒が塗ってあったんだぞ!何でそんなとこに付くんだよ!?」


「そ、そうだよね・・・」


「おい東城、お前大丈夫か?」


外村は呆れ顔で綾の目をじっと見つめると、


「ご、ごめんなさい。あ、あたしお手洗い行って来る・・・」


気まずい雰囲気から逃げ出すように教室から出て行った。





「綾ちゃんどうしたんだろ?」


「そうだね。頭のいい東城さんらしくないわね」


小宮山とさつきは揃って首をひねっている。


「天地、お前がしっかりしないと東城はずっとあのままだぞ!」


「分かっている。僕は僕なりのペースでゆっくりと綾さんの心を癒していく!この馬鹿に付けられた深い心の傷をな!」


外村の突っ込みを受けた天地はそう言いながら淳平を睨みつけた。


(俺だって出来るものなら何とかしたい。でも・・・もう何も出来ないんだ・・・)


返す言葉のない淳平は、悔しそうにただ教室の床の一点をじっと見つめるしかなかった。










(こんな男が居るから、僕も綾さんも苦しむんだ・・・)





(やはり・・・やるしかない・・・)


そんな淳平に対し天地は怒りの視線で睨みながら、ある決意を固めていた。


























(端本さんはあたしの居ない間に部室に入ってきて、その時あの机に触れた)


(その青酸カリの付いた手で缶ジュースの蓋を開けたから、それで口に毒が付いて・・・)


(でも毒が親指からしか検出されなかったのは変。靴だって履いただろうし、自販機のボタンやジュースを買った小銭は?)


(警察も一通り調べただろうけど、でもまだ校内までは調べてない)


(証拠を消さなきゃ!ばれちゃいけないのもそうだけど、これ以上被害者は出せない!)










その日の夜。


すっかり暗くなって人がほとんど居なくなった夜の泉坂高校に、綾は一人でやって来た。


鍵を開ける策をいろいろ用意してきたが、なぜか扉に鍵は掛かってなく簡単に進入出来た。


そして部室に向かったのだが、





「びっくりしたあ。東城先輩じゃないですか。こんな時間にどうしたんですか?」





部室にはまだ美鈴が残っていた。


乱泉祭に向けて今の時期からいろいろ準備をしていた為である。


「北大路先輩や小宮山先輩も手伝ってくれています。今年は飾り付けに凝るんで今からいろいろやってるんですけど、これだけ散らかってるとさすがにまずいんで片付けてるんです。鍵は黒川先生から借りて持ってますよ」


美鈴の言うとおり、部室内は飾付けや看板の材料や道具で溢れてかなり散らかっている。


この状態で放ったまま小宮山とさつきはつい先ほど帰ってしまい、その後やって来た黒川の逆鱗に触れて美鈴一人で片付けをしているところに綾がやってきたのだ。


「ついでだからあたしも手伝うよ」


「すみません。受験で忙しいのに・・・」


「気にしなくっていいよ。あたしも文芸部の方でまだいろいろやってるし、今日もそっちに忘れ物して取りに来たところだったんだから」


申し訳なさそうな美鈴に笑顔を向け、そしてふたりで片付けを始めた。


(片付けながらいろいろチェックしよう。これならそんなに怪しまれないし、それにチェックする場所も大体決まってるし・・・)


綾は片付けをしながら例の机の周りに目を向け、周辺をさりげなく拭いて行く。


片付けも終盤になると、初めは緊張していた綾の心も次第に穏やかに変化していった。










だが・・・










「あれ・・・」


美鈴は部室の隅に埃をかぶって汚れていた10円玉を拾い上げた。


「変なの。こんな10円玉はじめて・・・」


「ん?」


美鈴の言葉が気になり、綾も後ろからその10円玉に目をやると、










(!!!!!)





穏やかだった表情が一気に引きつる。










全体的にくすんだ10円玉だが、一部が本来の銅の輝きを取り戻している。


一目見て、それがどういうものであるかをすぐに悟った。


(間違いない!あれは青酸カリによる酸化還元反応!)


(あれからは端本さんの指紋が出る。端本さんがここに来て、ここで青酸カリに触れた証拠!)


(しかもそれを今は美鈴ちゃんが持っている。美鈴ちゃんは不審に思ってる)










(今ならまだ間に合う!)





一瞬の決断だった。














ガッ!!!










「うっ・・・」





ドサッ・・・










「はあ・・・はあ・・・」










綾は右手に角材を持ちながら、荒い息を整える。


そして美鈴の手からこぼれた10円玉を拾い上げ、それを財布の中に忍ばせた。


(美鈴ちゃんゴメンね。今のは見なかったことにして)


(でもあたし凄い事しちゃった。美鈴ちゃんを殴って気絶させるなんて・・・)


(災い雑巾越しで掴んだからこの角材にあたしの指紋は付いてない。鍵も開いてるし、うまくやれば外部犯に見せかける事も・・・)


殴りつけた角材を静かに置き、綾はそっと美鈴に近づいていく。


(まだ気を失ってるよね?出来ればもう少しこのまま・・・)










「美鈴ちゃん?」










美鈴は目を開けたまま、うつ伏せになって倒れていた。







しかも自販機前で倒れたちなみと同じ目・・・







生命の鼓動が止まり、光を失っている。















「あ・・・     あ・・・     あ・・・    」





驚きと恐怖で顔が大きく引きつる。


それはちなみの時とは比べ物にならない。












あの時は『間接』だが、今回は『直接』手を下したのだ。















考えるより先に身体が動いた。


すっと立ち上がり、鞄を取り、明かりを消して部室から駆け出して行く。





真っ暗の部屋の中で、変わり果てた美鈴が目を開けたままで残されていた。






















































「おーいさつきちゃん待ってくれえ〜〜〜。夜道で一人じゃ危ないよお〜〜〜〜」


「お前と一緒のほうがずっと危ないっつうの!!」


「そんな事ないってばあ〜〜〜だからとまってよお〜〜〜」


「しつこい!!諦めてさっさと帰れーーー!!!」


「いやだあ〜〜〜!!!デートの約束してくれるまで地の果てまで追いかけてやる〜〜〜〜!!!!」


「だからあ!!お願いだから諦めてってばあ!!!」




小宮山とさつきは学校を出てからずっとこんな調子で追いかけっこをしていた。


話の流れでさつきが『小宮山と一緒に居ると楽しいね』みたいな事を言ってしまい、それが小宮山の暴走に繋がってしまった。


もともと体力、運動神経に定評のあるさつきと、


デートという最高の餌を目の前にして実力以上の力を発揮する小宮山。


ふたりの追いかけっこはそう簡単に終わる気配はない・・・










「あれ?」


と思ったら、急停止するさつき。


「さつきちゃ〜〜ん!!」


当然のごとく飛びかかる小宮山だが、





バキッ!!


ものの見事にカウンターを食らった。


「静かにしろ!ちょっとほらあそこ見て!!」


「ん?」


小宮山は起き上がりながら、さつきの指差すほうに視線をやる。





「あれ?天地じゃん」


「なんか、やばそうな雰囲気じゃない?」


「そういわれれば・・・」


廃ビルの手前で、夜にもかかわらずサングラスをする明らかに不審な男と天地が何やら話をしている。


そして二人の影は廃ビルの中へと消えていった。





「追いかけるよ。小宮山も来な」


「ちょっ・・・さつきちゃんマジやばいって!」


小宮山はすっかりビビっている。


「いいから黙って付いて来い!それに女の子一人危険にさらすつもりなの!?」


「ちょっ・・・待ってよお〜〜〜」


勇敢なさつきの後を小宮山は半分泣きながら仕方なく付いていった。










さつきと小宮山の二人は音を立てないように息を潜め、慎重に中へと足を進める。


そして物陰に隠れながら、天地ともう一人の男の様子を捉えた。


「いたいた。あそこ」


「天地の奴、なんか渡してるな」


「静かにして。小さいけど会話もなんとか聞こえる・・・」


息を潜め、聞き耳を立てる二人
















「前金、確かに受け取った。残りは成功後に振り込んでくれ」


事務的かつ無機質な男の声。


「で、どちらからだ?」


天地の声も感情がない。







「先に西野つかさだ。そのあと真中淳平をやる。調査も含めて1週間くらいだな」







「前にも言ったとおりやり方は任せる。足が付かないように確実に葬ってくれればそれでいい」







「それは俺たちプロとしての最低条件だぞ。高校生のガキにまで舐められるとはな・・・」


苦笑いをする男。







「プロといっても新興だろうが。それにお前らは親父から甘い汁をずっと吸い続けてきたんだ。きちんと金を出してやるだけでもありがたいと思え」







「ははっ。天地の坊ちゃまにはかないませんな・・・」



















「お前ら!なにやってんだ!?」


「きゃっ!?」


「うわっ!?」











「どうした。何があった?」


「付けてる奴らがいました。こいつらです」


部下らしき二人の男たちがさつきと小宮山を捕まえて、天地らの前にやって来た。


「北大路くん、それに・・・」


驚く天地。


「天地!真中と西野さんをどうするつもりなの!?『葬る』って何よ!?」


「あ、天地さん助けてください。どうか命だけは・・・」


威勢のいいさつきに対し、小宮山は恐怖で慄いている。










「坊ちゃまの友人か?」


男は再び事務的な口調で天地に尋ねる。









「ああ。だがこうなっては仕方ない。いい機会だ、あんたらの腕前を見せてくれ」


天地も事務的な口調でそう告げた。









「本当にいいのか?」









「ああ。ちゃんと追加の金は出す。その代わり僕の友人なんだ。苦しませずに送ってくれ」









「わかった。おい・・・」


男は部下に目で指示を送った。















「ちょっと天地!あんたいったいなに考えてんのよ!?」







「こ、殺さないでくれ・・・お、俺まだ死にたくない・・・」













ドカッ!!












「「うっ・・・」」


二人の部下はそれぞれ、さつきと小宮山の後頭部を殴って気絶させた。















そして天地は気絶して倒れているさつきの前に立つ。







「北大路くん、君は僕にとっても魅力的な女性だったよ」







「もし綾さんがいなかったら、僕は君に惚れていたかもしれない・・・」







「こんな形で別れるのは少し寂しいだろうが、安心したまえ。すぐに真中も送ってやるからね・・・」







さつきに最期の別れを告げ、ゆっくりと廃ビルを後にする天地。












その数分後には、さつきと小宮山は男たちと共に姿を消していた。




































翌朝、







美鈴は泉坂高校の指導室で、







さつきと小宮山は泉坂市内を流れる川原で、















遺体となって発見された。


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