TAKE2 『回想 映研部室(前編)』 - そーす 様


(数日前)

ミーンミンミンミン・・・・・・・
夏を象徴するせみの声も遠くのように聞こえる

かっち・・・・こっち・・・・かっち・・・・こっち

泉坂高校映像研究部 部室

時計が刻む規則正しいリズム音が妙に大きく聞こえる

集まっているのは学生服に身を包んだ男女合わせて計6名の生徒達

すっ

目に見えない圧迫感に気おされたのか
真中が外村にそっと耳打ちする

(・・・・・・そろそろ・・・・いいかな?)
(・・・・・)
(がたっ)

腕時計を一瞥した外村・・・・・

おもむろに立ち上がる

『ふぅ〜〜〜〜』
最初に息を吐いたのはさつき

場の緊張が多少やわらいだ
安堵の表情を浮かべたまま、全員外村の方を向く

『皆・・・・・今日集まってもらったのは他でもない』

(ごくりっ)

ホワイトボードに文字を書きながら語る外村

ダンッ

『夏休みの合宿場所について』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・』全員

皆一様に言葉を失った
あまりにも突拍子もないテーマだったからだ
緊張の糸が切れてしまった
あるものは頭をかかえ、あるものは顔をしかめ、あるものは脱力しかけて椅子にもたれかかっている

『はいは〜い』
さつきはやれやれといった感じで手を上げる
『ん・・・・・なんだ?北大路』
外村・・・・手を動かしながら問い返す

『いや・・・・・だってさぁ・・・・まだ何をするかも決めてないのに どこに行こうかっていうのには無理があると思うけど』

そうなのだ・・・・・・

彼ら泉坂映像研究部は夏休みまであと一週間しかないにもかかわらず、
次の文化祭およびコンクールに出展するための作品が・・・・・全然出来ていない
非常事態なのである

『いや・・・・・題材はすでに決まっている。真中』
外村は『監督』の方を一瞥する
『ああ・・・・・・』

(がたっ)

ホワイトボード前に進み出る真中

『昨年俺たち映研がコンクールに出展した作品だけど、学園祭で好評を得たにもかかわらず思っていたほど評価はされなかったのは皆も知っていると思う』

『上位に入賞したのはすべてノンフィクションの作品だった』

『その点を考慮し、オレと外村が協議した結果一つの結論が出たので、発表する』

『単刀直入に言う』

『・・・・・・・・・・』全員が息をのむ

『今年の・・・・・・我が2004年度泉坂高校映画研究部(映研)のコンクール出展作品の内容は!!!!』

(『な、内容は!?』)

全員息を呑む・・・・・・

『未定だっっっ!!!!!!(キッパリ)』

ドンガラガッシャーン・・・・・・・・・・・

『ちょ、ちょっと・・・・さっき決まっているって(汗』

声をぷるぷる震わせながらさつき

『いや・・・・正確には未定だが、決まっていることは決まっている』外村

『ど、どういう意味よ・・・・・監督!!!説明しなさい!!』

珍しく閉口を保っていた美鈴までも声を荒げて言う。

『わ、私も聞いてみたい・・・・・と思う』綾

『ああ・・・・・・』だがあくまで冷静な真中

『さっきも言ったけど、昨年のウチの作品は他校の『西野』が参加してくれ俺たちが『会心の出来』だと信じて疑わなかった『大傑作』であったにもかかわらずコンクールでは大した評価はされなかった』

『うっ・・・・やっぱり・・・・私のせい』

綾が思わず口元を押さえる

『違うよ・・・・東城のせいじゃないんだ』真中

『真中くん・・・・・』綾

『俺自身一時はすごく落ち込んだんだけど』

『何度見直してみても・・・・贔屓目なしにやっぱり出来は良いと思うんだよ』

『????』

言い返せない 
いや正確には真中の余裕のある態度と発している言葉の意図が理解できない
どう返していいのか全くわからない

『でも9位ってあまり評価されなかったのは確かじゃない?』

『頭の固い審査員連中にはね・・・・
そこで考えた。コンクールの成績は悪かったんだけど、いい映画はやっぱりいい映画。思い出してみろよ、文化祭で俺たちの作品に満足してくれたお客さんの笑顔・・・・オレはすごく感動した』

『(だからそれが?)』全員

『それに・・・・美鈴もあの映画が駄作だと言われて信じれるか?』

『うぐっ』

痛いところをつかれた
自分の信じていたものが正当に評価されない 否定される
それは美鈴のように理詰めな人間にとっては自己存在そのものを脅かされる行為に等しい
だがその件についてはノンフィクション作品に重きをおく学生映画の体質のせいだと納得したはずだった

(まだ未練があるのかしら・・・・・私)

『・・・・・・確かに、そう言われると納得はいかないかもね』

真中の言葉にさつきも同意する

『(でも・・・・・・今更そんなこと悩んだってどうしようもないじゃない・・・・・)』

『話戻るけど、オレ映画とか作品に宿る本質ってそういう所にあると思うんだ。
 見てくれる人の心にいつまでも残る・・・・・そんな感動させる映画を作りたい』

『別にノンフィクションが悪いと言うわけじゃない。ただオレが作りたいものはそれとは違うから
だから・・・・・今回の映画もあえてフィクション作品それも「ファンタジー」に挑戦していきたいと思う』

『でも・・・・・このままコンクールに出してもまた去年・・・・みたいな結果に・・・・』

(ちょっとまてぇい!問題はそこなのか?違うだろ何か重要な事を聞き逃しているぞ)軽く全員に突っ込みを入れる美鈴

『ああ・・・・・・確かにこのままじゃあな。なぁ外村・・・』

その答えを予測していたかのように外村の方を向く真中

『ああ・・・・・』

『今の学生映画の選定基準じゃあどう転んでも、フィクションがグランプリをとれるとは思えない。
・・・・ノンフィクション・フィクション作品問わず、公平に評価されるようになりさえすれば、可能性は・・・・あるんじゃないだろうか?』

『だからそれが一番のネックなんでしょう?それにそれもただの可能性なんじゃないの?一位を取りたいのなら私たちもノンフィクションで挑戦すればいいじゃない』

何か変えてくれる

そんな期待をはらませながら、美鈴は真中に鋭い質問を浴びせかける

『美鈴・・・・お前自身作品で何を伝えたい?』

『な、何言ってるのよ・・・』

少し声が上ずってしまう

『作品とは魂をこめるものだ。納得のいかない映画を納得のいかないまま製作したって出来なんてたかが知れている。たとえグランプリでいい賞をとろうが、俺たち自身が満足しなければ意味がない。』

多少矛盾はしているが、
真中の強気な態度が美鈴に反論を認めさせない

『っぐ・・・そりゃあ・・・私だって他人を感動させたい作品を作りたいって思うけどさ・・・・』

『それに・・・・お前これだけ個性が揃ったメンバーがいるのにそんな映画作って楽しいのか?』

楽しければ出来などどうでもいいのか・・・・?

『阿呆かっ!ただの自己満足でいいんならグランプリなんて狙う必要ないでしょうがっ!』

(まったく自分たちの満足する映画が撮りたいだの、一位に入賞したいだの・・・・結局の所何が言いたいのよっ!)

『真中〜〜もうはじめちゃっていいか?』

今にも真中×美鈴論争が始まろうとしていた矢先 (過去の対戦成績200戦全勝で美鈴)
一人冷静にその状況を見守っていた・・・・・
いや痺れを切らしたなのか外村が少しイライラした様子で口を挟む

『ああ・・・・・美鈴も案外頭固いのな・・・・このままだとどんどん話が脱線しそうだし』

『ふんっ(プイッ)』

キュッ・・・キュルゥ・・・キュッ・・・・・きゅっ

静かな部室内にリズミカルな音が鳴り響く

『結局さ〜美鈴もその評価の偏りさえなんとかなれば映画制作に専念できそうだろう?』

世間話でもするように外村はとんでもないことを口にする

『あ〜そ〜今まで一体何人がそういう問題を抱えて来たんでしょうかねぇ?
そんなことが簡単に出来るんなら誰も苦労しないわよ・・・まったく』

(あ〜あ、今年のうちの部はダメだなぁ・・・・せっかく東城さんと映画を作れる最後の年だったのに)

(端本さんもいるけど、いやいやあんな幽霊部員に頼っているあたりすでに終わっているとしか・・・)

はぁ〜

(やっぱり新入部員の入り次第かしら)

『まぁぶっちゃけた話・・・世論を味方につけようというわけ』

待ってましたといわんばかりに自分の考えを口にする真中

『全国単位の支持があればさすがの審査員連中も頭を上げざるを得ないと思う』

『具体的にはどうやって?』

もうこの男の空想癖にはついていけまい
あとはこのまま延々と時間の無駄ともいえる演説が繰り返されるだけだ
すでに来年の映研部活動のビジョンをたてていた美鈴は半ば投げやりな格好で問い返す



『今年の学園祭 僕たちの作品は映画館で一般公開されることに決定しました』




どんがらがっしゃーん ごろごろ ばきっ どごっ

『そ、そんな簡単に・・・・・』

『だ、第一さ・・・・映画館で上映するったってどこでするの?それに肝心の資金はどうするのよ?』
『世の中結局コレでしょコレ?』人差し指と親指でわっかを作って

(とうとう来るとこまで来ちゃった感じじゃない・・・・真中先輩)
真中に半ば哀れみの視線を投げかける美鈴
(暑さのせいで頭の回路がどっかとんだんじゃないの?
そういえば受験勉強であまり寝てないって聞いてるし、そのせいなのかしら?)

『・・・・・美鈴・・・結構荒んでるな、オマエ(汗)』

自分より劣っていると思っている人間に同情されるとかえって腹が立つ

『なっっ!現実問題を言っただけよ!アンタみたいな妄想癖よりはるかにましよ!』

『・・・・それなら有志で貸してくれる所を見付けた』

手を動かしたままの外村が事もなげに口にした

『はい?』

思わぬ方向から飛んできた答えに

(アニキが一枚噛んでいる?)

一瞬悪寒のようなものが走った

『美鈴も知っているだろう?テアトル泉坂』
『この話をしたら快くOKしてくれたよ』

(どうせ裏で何か取引でもしたんでしょうがっ!)

外村ヒロシ

頭が切れる・・・という点では美鈴も兄を慕ってはいる

一見飄々としてるも、過去一度口にしたことは必ず実現させてきた

そう・・・・・・どんな手をつかってでも

『じゃ、じゃあ・・・・』

とりあえず考えられうるマイナス要因は全て確認しよう

『学校の方は今黒川先生が話をつけてる・・・・文化祭の範囲では前代未聞なことらしいが、
多分大丈夫だろう。この学校にはお祭り好きな教師も多いみたいだし いざとなったら切り札もあるし』

まるで美鈴の疑問に思っていることがわかっているのか、最後まで外村が話し始める

『で、でも・・・・・』

いささか現実味
いや・・・・確信めいた口調で話す兄の言葉に制止の声をかけようとした美鈴は思いとどまる

『ああそうそう全国ってのは物理的にはさすがに無理があるから、ネットで「全世界に配信する」ことにしたんだよ』『オレのHPでその話題をとりあげたら、協力してくれる連中が結構いたんでね』

あまりの荒唐無稽さ・・・・
自分の常識のはるか斜め上を光速で走り去っていく
真中と兄の思考に・・・・美鈴は言葉を失う

(ま、真中先輩の妄想癖と兄貴の実行力・・・・・この二人がやる気になったら)

美鈴の心を得体のしれない不安が占めはじめていた


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