忘却〜第7話〜 - 惨護  様


金曜日の授業は登校するのが足取りが重くなる人もいるのだが淳平はその重さが違った


「・・・・ゴホ・・・ゴホ・・」


足を引きずるように歩き登校した、教室に入ると倒れるように机にうつぶせた


「おい、真中・・・・」


外村がすこしキレかけで笑いながら淳平に近づいてきた


「外村・・・なんだ?」


淳平の声がいつもより低くかすれている


「昨日、後で折り返すって言っておきながらまったく来なかったんだが・・・・」


「あ゛〜・・・・すまん、外村・・・・事情が・・ゴホ・・・あってな・・・・・」


昨日、唯が怪我したことを外村に話すと外村がすこしにやついた


「ほ〜う・・・・それなら仕方ないがお前はシスコンか?」


外村のその言葉に反応し、淳平は顔を上げた


「なに言ってんだ?・・ゴホ・・・・普通心配するだろうが・・・・」


「そのこと自体がシスコンなんだって」


笑いながら言う外村がよりいっそう淳平をむかつかせた


「おまえはしないのか・・・・・」


「しますが、それがどうかしましたか?」


外村のこの開き直りが淳平を怒りにおいやったが、頭が痛いのでやる気にならなかった


「・・・・ところで、電話で何が言いたかったんだ・・・・・」


「昨日さつきと一緒だっただろ?なんかしたのかな〜って思ってな」


淳平は他の人物が知っているはずの無いことを聞かれてかなり驚いた


「何で知ってるんだ・・・ゴホゴホ・・」


「昨日の朝にお前の家の前を通りかかった時、さつきが出てくるのを見てな」


淳平にはさっきから笑いながら話している外村が悪魔に見えてきた


「なんで朝早くから俺の家の前を通るんだ・・・・・」


「まあいろいろと情報収集をしてて朝帰りだったもんでな」


(いろいろと情報収集・・・しかも朝帰り・・・・・なにしてやがんだ・・・・・)


淳平は深く考えようにも頭がボーっとして考えることができなかった


「で、どうだったんだ?」


「看病してただけだ・・・・」


「なんで看病してるんだ?」


さつきとの事情もすべて話すと外村の笑いがさらに増した


「ふ〜ん・・・・ところで真中、今日は元気ねえな、どうした?」


「体がだるい・・・ゴッホ・・・」


声が低く、体がだるい完全に風邪だった


「風邪か?しかし、馬鹿は風邪をひかないはずだが?」


「知るか・・・・・・」


そういって机にまたうつぶせになると外村が淳平の肩を叩いた


「・・・・とりあえず、保健部いくぞ」


そういって外村は淳平を立ち上がらせ、肩を持って一緒に教室から出た


「もうすぐ1限目始まるぞ・・・ゴホ・・」


「あ〜構わん構わん、どうせ遅れても成績は変わらん」


「・・・・・・・・・」


今回ばかりは外村の言動にむかつきつつも感謝した
保健部につくとすぐに熱を測らせられた


「38度7分・・・・・」


「ご両親は?」


「今日、両親が結婚記念日で旅行に行ってます・・・・・・」


淳平は先生がさっきからうざそうな顔をしているのをみて、すこし頭に来ていた


「早退さしたいがこんな状態で帰らしたら事故にあうかもしれないから、すこしベッドで休んでから帰りなさい」


「わかりました・・・・・」


先生の言われるがままに淳平はベッドに入った


「外村君だったね?担任に真中君のことを言っといてくれ」


「わかりました」


外村はにやつきながらゆっくりと寝ている淳平に近づいてきた


「外村、すまん・・・・」


「いいから寝てろ、また後でさつきやら東城やら連れてきてやるから」


「・・・・・・・・」


「じゃあな、修羅場がお前を待ってるぞ〜・・・・」


淳平は外村にすこし感謝したがいっきに失望に変わった


(・・・・すこしでも感謝した俺が間違いだった・・・さっさとチャイム鳴ってくれ・・・)


淳平がそう思っていると1限目のチャイムが鳴った


(・・・・・・寝よ・・・・)


布団をしっかりとかけて完全に寝る体勢に入った


(ほんとにここ3日寝てなかったしな・・・・)


(やっぱり、無理が祟ったか・・・・・さつきの風邪がうつったんだろうな・・・・)


(自分が体を弱らしてたのが悪いんだし、仕方ないか・・・・・)


淳平は考える事をやめて目を閉じた


        ・




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「・・・か・・・・なか・・・真中!」


誰かに呼びかけられる声がしたので淳平は目を開けた


「ん・・・・・うわあ!!??」


目を開けるとそこにあったのは小宮山の顔だった、淳平はかなり驚いて布団を小宮山の顔に投げつけた


「せっかく見舞いに来てやったのに、普通そんなことするか・・・・」


「目を開けてお前がいたら、誰でもそうなるぞ」


外村の一言で小宮山は鬱に入った


「おはよ!真中」


挨拶をしてから淳平に抱きついた


「よう、さつき・・・・つーか、離れてくれ」


最近は急に抱きつく事はなくなったが淳平はまださつきの抱きつきに慣れていなかった


「気分の方は大丈夫?」


綾の優しい言葉がなんだか淳平にとって天使の声に聞こえていた


「真中くん?」


「あ、大丈夫・・・・大丈夫・・・・・」


「はい、体温計」


すこし妄想に入りかけていたが熱のお蔭で入らなかった
体温計を脇に挟み、すこしぼーっとしているとすぐ鳴った


「何度だ?」


「38度5分・・・・下がってきてはいるな・・・・」


「あ〜あ、確実早退だな・・・寝れば何とかなると思ったんだが・・・・」


ため息を漏らしながらもその顔はにやついていた


「え〜、真中もう帰っちゃうの〜!」


「大丈夫だよ、さつきちゃん、真中の代わりならここに・・・・・・」


「うざい!」


小宮山がさつきに抱きつこうとしたが、思いっきり殴られて返り討ちにあった


「今、昼休みだしな〜・・・送ってやろうか?」


「大丈夫だってそれくらい・・・・」


外村にさっき失望したので淳平はさりげなく断った


「そうか・・・・とりあえず荷物はここに置いとくから、さっさと治せよ」


「わかってるって・・・・」


外村はさっさと保健部から出て行った


「お大事にね・・・・」


「ありがと、東城」


綾は淳平に優しく声をかけて保健部から出て行った


「一生治らなくてもいいぞ────」


「死ね!」


小宮山はさつきの蹴りのつっこみで二つの意味で昇天した


「後でね、真中」


「あ、ああ・・・・へ?」


さつきは小宮山の服の襟を持って小宮山を引きずって出て行った


(今、後でねって言わなかったか・・・・・?)


そんな事を考えているとさっきから無愛想な先生がやってきた


「おい、真中君さっさと帰るんならかえりたまえ」


「はいはい・・・・・」


すこしイラつきながらも保健部を出て行った


「か、鞄が重い・・・・・・」


(朝はかなりだるかったから感覚が薄かったけど、寝た後なだけなって・・・・・・)


校門を出たもののその足取りは朝より重く、家まで遠く感じる


(・・・・だれか、助けてくれ・・・・・)


そう思いながら歩いていると急に鞄が軽くなった


(あ、れ・・・・急に鞄が軽くなったぞ・・・・)


鞄の方を見ると誰かの手が鞄の紐を握っていた。淳平は恐る恐る目線を上に上げると


「さつき!!???お前授業まだあるんだろ!?」


淳平は驚いてはいたが実のところ嬉しかった


「いいのいいの・・・それにほっておけないしね」


(え・・・・・・・もしかして・・・・)


「これだけ軽い鞄を重そうに持って歩く人をさ」


淳平の軽々持ち上げるさつきを見てすこしがっくりしていた
すこしでも期待した分暗くなった


(このパターンにはもう飽きたよ・・・・)


「どうかした?」


暗くなった淳平を見てさつきは声をかけてきた


「いいや、なんでもない・・・・それより、ごめん」


淳平は深々と頭を下げようとしたが、さつきに止められた


「謝る必要なんて無いわよ、昨日のお礼まだちゃんとしてなかったしね」


「・・・・いいって・・・・・」


「いいの、女の子がするっていってるんだから素直に受け取りなさいよ」


「俺・・・・いつもさつきからもらってるから・・・・元気っていうものをさ・・・だから、べつにいいよ」


「・・・・・・・」


柄にも無い淳平の言葉がさつきの心音をすこし速めた


「・・・・ところで、最近どうなの?」


「なにが・・・・・」


「記憶よ、あんまり考えたくないかもしれないけどさ・・・・」


淳平はすこし黙ったがさつきが考えて言ってくれている事を嬉しく思って口を開いた


「・・・・少しずつだけど・・・・思い出してはいる・・・・」


「どんなこと思い出した?」


「・・・・・・・・・」


その質問には答えにくかった、なぜならさつきのことはまだ思い出してもいなかったから


「言いたくないなら別にいいよ」


「・・・・西野の家の位置と東城の小説のこと・・・・・」


「へぇ〜、よかったじゃん!少しでも思い出せてさ!」


さつきは淳平がすこし暗くなっていたのでそれを晴らす為におもいっきり背中を叩いたが
勢いが強過ぎて淳平は倒れてしまった


「あ、ごめん!病人ってこと忘れてて・・・・」


「・・・・・・なにすんだよ・・・・・」


手を合わせて謝るさつきをすこしキレ気味で睨むとさつきはすこしわらった


「何で笑ってるんだ・・・・・」


「風邪ひいても真中がそのままだったから、かな・・・」


そういったさつきの顔はなぜか寂しいものがあった


「・・・・・・・・」


(まだ不安なのか・・・・・俺も・・・さつきも・・・・)


それから二人とも何も話さずに歩いた


「ほら、着いたよ」


「ありがと・・・・・・」


「おじゃましま────」


「おい・・・・・」


さつきは一気に家に入ろうとしたが、淳平の尋常じゃない速さで止められた


「さっさともどって授業うけろよ」


「いいじゃん、あたしは大丈夫だって・・・・・」


「東城や西野、外村みたいに頭がよければいいけどな・・・・・」


思いっきりため息をつきながらいう淳平は非常におっさん臭かった


「小宮山並みの頭脳のお前が大丈夫なわけ無いだろ・・・・・」


「・・・・・じゃあ学校の終わった後に来るね」


「ああ・・・・・」


さつきは大きく手を振り、走って学校に戻っていった


「ようやく、帰って来れたか・・・・」


淳平はふらつきながらも自分の部屋に入っていった


「今日は母さんも父さんもいないし・・・・」


ふらふらとしながら自分のベッドの上に倒れこんだ


「さっさと寝よう・・・・・・」


布団を被り何も考えずに目を閉じた


        ・




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        ・


インターホンの音で淳平は目を覚ました
外は既にオレンジ色に紫色がかかったような色になっていた


「・・・・・ん?・・・・・誰だ・・・」


淳平が玄関のドアを開けると


「よっす!」


「大丈夫、真中くん?」


「やっほ〜、さっきより顔色はましみたいね」


「外村様がわざわざプリントをもってきてやったぞ〜」


そこには映像部の同級生全員があつまっていた


「外村に東城、さつき、ついでに小宮山」


淳平はすこし驚いていたが、小宮山と外村がいたので嬉しいような哀しいような奇妙な感覚にも襲われていた


「とりあえず、上がれよ・・・・でも極力、俺に近づくなよ。うつるかもしれないから」


「最初に挨拶したのに・・・・・中学からの親友なのに・・・ついでって・・・・」


そんな小宮山を全員が無視して淳平の家に入っていった


「真中!大丈夫だった?」


さつきは淳平の風邪がうつることを躊躇することなく抱きついた
その姿を見た綾は哀しい表情を浮かべた


「だから近づくなって・・・・」


「頭が悪いと風邪をひかないってよく言うじゃん」


「お前、昨日までひいてただろ?」


淳平はそういってさつきを離した、みんなリビングのソファーに腰掛けると淳平は話を切り出した


「で、何でみんなはここに集まったんだ?」


「心配だったから・・・・・」


淳平は本音を言ってくれた綾にすこしどきっとした


「お前んち、今日はおばさんいないんだろ?」


「ああ、そうだけど・・・」


「だから、お前の看病に来てやったんだ、どうせ今日は金曜日だからな」


笑いながら言う外村はデジカメをしっかり手に持っていた
別の理由できたのは明白だが、淳平は記憶をなくしているからあまり気にかけていない


「あのな・・・・病人食なんか作れんのか?」


「あ〜その点なら心配いらん」


「お前な〜・・・おかゆなら俺でも作れるぞ・・・・・」


「そろそろくるはずだが・・・・」


そういっていると玄関のドアが開いた


「たっだいま〜、じゅんぺー」


「たっだいま〜、淳平くん」


「お帰り、唯、つかさ・・・・じゃなくて、西野・・・・へ?」


淳平はすこしノリで名前を呼んだが恥ずかしいのか俯いた


「おおつかさちゃん・・・ナイスだ!外村!」


親指を立てて合図をする小宮山と外村はみんなからすこしひかれていた


「こんにちは、淳平くん、みんな」


「お〜い、二人とも顔が赤いよ」


つかさは淳平に普通に名前を呼ばれた影響が残っているのかまだ顔が赤かったが
唯が煽るように言ったので余計に赤くなった


「寝てなくていいの?」


だが、淳平の赤さはそれだけから来るものじゃなかった
つかさは淳平の額に手をやった、淳平の額はかなり熱かった


「大丈夫じゃなさそうだね・・・・」


綾とさつきはその姿を見て哀しい表情をみせた、唯は逆に楽しそうな顔をした


「まだしんどいし、俺は部屋で寝てくるから・・・・ゆっくり話しててくれ」


「心配だからついてくね」


「あたしもね」


「あんたたち抜け駆けはよくないわよ」


「あたしも行く〜」


東西南北全員が淳平の後を追って部屋に入っていった


「いいな〜・・・・・」


「面白い修羅場になりそうだな」


デジカメ片手に淳平の部屋の窓にむかう外村のその目は光り輝いていた
小宮山も覗くべく外村の後を付いていった




つづく・・・・・

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