忘却〜第8話〜 - 惨護  様


淳平の部屋は物凄い雰囲気に包まれていた
なぜか殺気が部屋に満ちていたからだったが


「・・・・・・・」


だれも何も言わないまま数分が経過した
寝ている淳平は寝ようにも寝れない状況でかなり焦っていた


(なんでこうなるんだ・・・・)


そう思っていると沈黙を破るようにつかさが声をかけてきた


「淳平くん、なにかほしいものある?」


「いや、別に無いよ・・・・ゴホ・・」


「まだ咳してるね・・・・」


その言葉にさつきが敏感に反応した


「あたしがマスクとってくるね」


「・・・・別にいいから」


「本当?」


「あ、ああ・・・・・・」


さつきはしゅんとなり元の位置に座った


(こんな中にいるのはかなり辛いな・・・・・)


また沈黙が続いたが、今度は綾が淳平に声をかけた


「真中くん、熱は今どうなの?」


「体温計無いと分からないな・・・・・・」


そういうと綾が淳平の額に手をやった


「まだ、熱いみたいだね・・・・」


「と、東城!?」


「あ、ごめん驚かせちゃった?」


かなり顔を赤くしながら焦る淳平を見て、綾はすこし謝った


「いや、別に・・・・・・」


また沈黙、だが綾のさっきの行動でさつきの目が変わった
淳平はそんなことよりもこの四人の雰囲気に焦っていた


(うわ〜、ものすごく険悪なムードだな・・・・・)


淳平はちらっと辺りを見渡した
完全にみんなが牽制しあって、話そうともしない


(ここは逃げるが勝ちだな・・・・・)


そう思った淳平はベッドから起き上がった


「俺、氷取ってくるよ・・・・」


淳平がベッドから出ようとした時、つかさに止められた


「淳平くんは寝てて、病人なんだから」


「真中、あたしが取ってきてあげるね」


さつきが明らかに違うのは風邪をひいている淳平にも分かった


「さつき・・・・・・」


「なに?」


さつきの顔は笑っているが、目は笑っていない


「いや、なんでもないです・・・・・」


淳平はまたベッドに横になった


(でも、この状態は続けるべきじゃないな・・・・・・)


そう思い立った淳平はまた起き上がった


「もういいよ、さつき・・・・」


そう言って部屋の外に出ようとしているさつきを止めた


「自分で取ってくるから・・・・・・」


「でも、寝てなきゃ・・・・」


さつきはさっきまでとは違う顔で言った


「いいんだ、女の子には世話になりっぱなしじゃ嫌だし・・・・」


「・・・・・・・」


淳平の一言でさつきはまたしゅんとなりもとの位置に座った


「じゃ、取ってくる」


淳平が出て行った後、綾がさつきに声をかけた


「・・・・・あの、さつきさん・・・・」


「なに?」


さつきはすこしキレ気味で返答した


「東城さん、ちょっと待って・・・・・」


つかさはゆっくり窓に近づいて、開けた


「お〜い、なに見てんの?」


外にはデジカメを持ったまま固まっている外村と目がハートになっている小宮山がいた


「小宮山くんがあれだけ窓叩いてたら誰でも気付くよ」


今も小宮山は窓を叩いて綾やさつきにこっちを向いてもらおうとしている


「おい・・・・・・」


外村がやめさせようとしたが時すでに遅し、思いっきり窓を閉められカーテンまで閉められた


「・・・・・・・・」


呆れた顔の外村は小宮山を見た、ものすごく悔しがっているのをみて、かなり腹が立った


「畜生〜!もうすこしばれないようにすればよかった」


「いっぺん死んでこい!!」


外村は小宮山を蹴り落とした


「もういいよ」


つかさはすこし怒り気味で元の位置に座った


「真中くんは病人なんだから、すこしは・・・・」


「言われなくても分かってるわよ!!」


綾の言葉でキレかけだったさつきが一気にキレた


「さつきさん・・・」


「さつきちゃん?」


「西野さんや東城さんのことはすこしでも思い出してもらってるのに、あたしのことは何も思い出してもらってないのよ!!!」


本音をいうさつきにみんな驚いていた


「え・・・・・・」


「焦っちゃだめ?すこしでも思い出してもらおうとしちゃだめ?」


「・・・・・・さつきちゃん・・・・」


つかさがさつきに声をかけようとした瞬間、唯がさつきの頬をひっぱたいた


「何すんのよ!!!」


「あなたなんにもじゅんぺーの気持ち分かってない!!」


さつきは頬をさすりながら、キレたが逆にキレ返された


「じゅんぺーはいつもみんなの事を忘れたことを悔やんでた」


淳平は今までそんなことを一度も言っていなかったから、みんなの顔色が暗くなった


「なんども寝言で愚痴をこぼしたり、夜、寝ずに思い出そうとしてた」


淳平がどれだけ辛い状態かは聞いただけでも分かった


「その度に涙を流してた・・・・あなたも東城さんも西野さんも分かるでしょ?」


唯が涙目でみんなに問い詰めた瞬間、淳平が入ってきた


「唯!」


淳平の顔からは怒っているよりも悲しんでいる感情が読み取れた


「お前はちょっと出て行ってくれ」


淳平は唯が言っていた話をすべてドア越しに聞いていた


「でも!」


「いいから出て行け!!!」


「・・・・・・・・」


淳平が普段見せない顔で唯を怒鳴ると唯は黙って部屋から出て行った


「大体のことは聞いたみたいだな・・・・・」


淳平は作り笑いをしたが、みんなは暗い顔のままだった


「そんな暗い顔するなよ・・・・」


淳平の声が消え入りそうなくらい低くなっていく


「俺・・・・どんな顔をすればいいか分からないだろ?」


淳平は無理して笑ってるのが誰でもわかるくらいの作り笑いを見せた、するとさつきが淳平の手を掴んだ


「真中・・・・あんたは不安じゃないの・・・・・」


そういうさつきの目にはうっすら涙がたまっていた


「自分が忘れられていたら、自分が思い出せなかったら・・・・・」


「・・・・・・・・」


淳平は黙ったまま作り笑いを続けていたが、だんだんその笑いも薄れていった


「答えて・・・・・お願いだから・・・・・」


「不安さ!!押しつぶされそうになるくらい不安なときもある!!!」


淳平は作り笑いがなくなり無表情で俯いたまま叫んだ


「でも、みんなの笑顔を見たら、不安じゃなくなるんだ・・・・・」


淳平の悲痛の叫びは部屋に居たみんなの心を痛めた


「だから・・・笑ってくれよ・・・・・・」


「真中・・・・・・」


さつきが手をしっかり握ろうとすると淳平はそれを振り払った


「ごめん、ちょっと頭冷やしてくる」


「淳平くん!」


「ほっといてくれ!!!」


つかさが部屋から出て行こうとした淳平をとめようとしたが、淳平の叫びに圧倒され止めることができなかった


「・・・・・・・」


淳平が部屋の外に出ると、唯がこぶしを握って待っていた


「唯・・・・・」


唯は何も言わず殴りかかったが、淳平はしっかりと受け止めた


「唯、お前だって分かってるはずだろ・・・・・」


「じゅんぺーのばか・・・・・」


「馬鹿でいい・・・・」


そういって淳平は唯を離し、コートを持って家から出て行った


「・・・・・・・・」


部屋にいたみんなが黙って俯いたままいると


「おい・・・・さっさと捜すぞ」


すこし呆れている外村がみんなに声をかけた



          ・




          ・




          ・




          ・



泉坂中学の鉄棒の近くで淳平は蹲っていた
制服にコートを着ているから周りから見ただけではまったく見えない


「・・・・・・・」


蹲って数分経つと淳平は近づいてくる足跡に気付いた


「真中」


その一言を聞いたとき、淳平の体がすこしビクッとした


「俺を一人にさしてくれ・・・・・」


蹲ったまま話す淳平は外村にはとても惨めに見えた


「みんなお前を捜してるぞ」


その一言は淳平にとって痛い一言だった


「お前、いつからそんなに一人で背負い込むようになったんだ?」


淳平は外村の一言一言で追い詰められていくような気がしたから、反応し始めた


「もう帰ってくれ・・・・・俺の場所も言わないでほしい・・・・・」


その声はさっきまでの淳平の声より切なく小さなものだった


「・・・・分かった、俺はお前の居場所は誰にも言わない、だがな・・・・・」


外村は淳平の頭を掴んで無理やり顔を上げさした


「無理やりでも連れて帰らしてもらう!!」


外村の目には怒りと悲しみが渦巻いていた
その目を見た淳平はすこし圧倒されていた


「もう俺に構うな!!!」


そう言って頭を掴んでいる外村の手を振り払った


「馬鹿野郎!!!!」


また頭を掴み顔を上げさし、今度は思いっきり殴った


「構うなだと!?人ってのは誰かの支えなしに生きていけない、一人じゃ何もできない弱い生き物なんだ!!」


淳平は殴られて倒れたまま外村の叫びを聞いた


「それが一人で何とかなると思うな!!!」


外村は倒れている淳平に近づき、今度は胸倉を掴んで無理やり起こした


「お前のようなやつでも、支えとして必要としてる人物がいるってことを分かれ!!!」


「・・・・・・・・」


何も言わないで淳平は顔を背けた、外村は足音に気付き後ろを振り向いた


「・・・・お迎えがもう一人来た、一緒に帰るんだな・・・・・」


外村は胸倉から手を離し、淳平はまた倒れた


「・・・・・・・」


迎えに来た一人は黙ったまま淳平の姿を見ていた


「まかせた・・・・」


外村は淳平を迎えに来た人物の肩を叩いて淳平たちの前から姿を消した


「淳平くん、やっぱりここにいた・・・・・」


「西野・・・・・・」


倒れたまま淳平は顔を上げた、淳平の顔には涙が何本も流れていた


「もしかしたらと思ったけど、あたしの勘ってやっぱりすごいね」


さっきまでの顔にはない、とびっきりの笑顔でそういった


「なんて顔してるの?」


「・・・・・・」


淳平は顔を上げるのをやめ、俯いた


「淳平くんさっき言ったけど、みんなの笑顔を見たら、不安じゃなくなるって」


笑顔を絶やさないつかさの健気さが淳平の心に響いていた


「あたしだってそうなんだから・・・・・」


黙って聞いている淳平の体が少しずつ震え始めた


「淳平くんが笑ってると、あたしも不安じゃなくなるし・・・・」


不安な顔をみせないつかさは淳平の震えに気付いたが、そのまま続けた


「なにより、元気になったよ」


「・・・・・・・」


「笑ってよ、ね?」


さっきよりもっといい笑顔で淳平に笑い掛けた、すると淳平は顔を上げた


「・・・・・・・西野」


淳平は立ち上がりつかさを抱き寄せた、その瞬間いっきにつかさは赤くなった


「淳平くん・・・・・顔が赤いよ」


つかさは横目で淳平を見た、耳まで赤く染まっている


「・・・風邪の所為だよ・・・・・」


「淳平くん・・・・・」


つかさもゆっくりと淳平の背中に手を回した


「ごめん、西野・・・・・もうすこしこのままでいさしてくれ・・・・・」


「・・・・・・・」


二人は数分間無言のまま、抱き合っていた。二人の口から漏れる息が辺りを白くしていた


(・・・・東城にも抱きついたけど・・・・・・)


淳平は目を閉じて、校舎裏で綾に抱きついたことを思い出した


「淳平くん、星が綺麗だよ」


気を紛らわすために言ったつかさの声が淳平の想いを強くする


(西野・・・・なぜか君の方が暖かい・・・・・・・)


「・・・・・・・」


淳平は黙ったまま、つかさに顔を見せないように下を向いている


「顔上げたら?」


「・・・・・・・・・」


淳平は何も言わず、首を横に振った


(・・・・今上げたら・・・・俺は完全に君の事を・・・・・・)


「・・・・ごめん・・・・」


「いいよ、無理に上げなくても」


淳平とつかさはまた数分無言のまま抱き合った


「なんでかな・・・・目の前が滲んじゃうのは・・・」


「・・・・・・・・」


淳平はつかさから離れて、つかさの涙を拭った


「泣く必要はないよ・・・・・・」


さっきの表情とは一変した優しい笑顔でそう言った
だが、その顔には風邪の苦しみは消えていなかった


「ありがとう・・・・落ち着いたよ・・・・・」


優しい笑顔で言い続ける淳平によってつかさは顔をすこし伏せた


「・・・・こっちこそありがと」


「え?」


淳平は雰囲気に似合わない間抜けな声を出した


「あたしも不安だったんだ」


淳平に背を向けて、すこし俯きながら言った


「怒って出て行ったとき、あたしがちゃんとしてたら・・・・・」


つかさの声がだんだん暗くなっていく


「淳平くんのことを・・・・理解できてたら・・・・・」


つかさの声に泣き声が混じってきた


「あの時・・・・デートに・・・・誘わなかったら・・・・・・」


つかさはそう言った瞬間、暖かいものに包まれた


「もういいよ・・・・そこまで、気にして欲しくない」


淳平はうしろからつかさに抱きついていった
さっきの寂しい抱き方ではなく、力強い抱き方だった


「自分の所為でなったとかそう思わないで欲しいから・・・・」


淳平の優しい声がつかさの耳元で聞こえていた


「記憶が戻ったとき、そのはなしをちゃんと聞くよ」


そういって淳平はつかさからはなれた


「・・・・そうだね」


「帰るか・・・・・・・・・」


帰ろうと校門に歩いていった瞬間、急に倒れた


「淳平くん!!???」


「あ〜あ、とうとう倒れたか」


デジカメ片手に外村が近くの木の陰から姿を現した


「外村くん!!???どうして・・・・」


「今は気にするべきなのはこいつの状態だろ?」


倒れた淳平の脈を計りながら言った


「とりあえず、救急車を・・・・」


急いで携帯を出そうとしたが、外村に止められた


「いや、大丈夫だ」


「え?」


つかさが近寄ってみると顔は赤いが小さな寝息をたてて静かに眠っていた


「寝てるだけだよ、こいつほとんど寝てなかったみたいだしな」


「でも、さっき家で寝てたんじゃ・・・・」


「不安なときは寝てても疲れるもんだからな・・・・・」


外村はため息をついて淳平の頬をつついて言った


「一気に不安がなくなったから安心して寝たんだろうよ、いい顔してやがる・・・・」


つかさは淳平の寝顔をみて少し笑った
どんな夢を見ているのか、すこし笑いながら眠っている


「さあて、帰るか」


外村は淳平をおんぶした、起きる気配など微塵もしなかった


「こいつの手持っててやれよ」


つかさは外村の言葉にちょっと驚いた


「それがこいつにとって一番喜ぶことだと思うしな」


「・・・・・うん・・・」


つかさはしっかりと淳平の手を握り締めた
曇った空が急に晴れて月が見え始めた





つづく・・・・

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