忘却〜第6話〜 - 惨護  様


淳平は悩んだがすぐに結論を出した


「・・・・やめとくよ」


「・・・なんで?」


「男と一緒に寝るなんて嫌だろ?」


「・・・・真中なら大丈夫・・・・・」


さつきの声が震えていた、寒さからなのか恐怖からなのかは分からなかった


「でも・・・・・襲うかも・・・・」


「真中ならいいよ・・・・」


「・・・・・やっぱり、やめとく」


淳平は表情を見せないように俯いて言った


「なんで?」


「愛せない・・・・俺には・・・・・・」


俯いたまま本音を言ったが、さつきからの返答がまったく無かった


「・・・・・・・」


「さつき?」


淳平が顔を上げると、小さな寝息をたてて眠るさつきがいた


「寝ちまったか・・・・」


ずれていた布団を直しながら、淳平はすこし笑った


「これでよかったんだよな・・・・・・でも、まだ苦しそうだな・・・」


さつきの顔は赤く、熱を持っていた、淳平は濡らしたタオルをさつきの額に置いた


「眠いけど・・・・看とかないとな・・・・・」




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「・・・・ん・・・んん・・・・・朝か・・」


差し込んでくる朝の日差しでさつきは目を覚ました


「・・・・あの後、すぐに寝ちゃったっけ・・・・」


起き上がってベッドの上に座った


「なんて言ったんだろ・・・・・」


横目でベッドにもたれかかって眠る淳平を見た


「・・・気持ちよさそうに寝てるな・・・真中」


音を立てずに眠る淳平の顔はすこし笑っていた


「あれ、まだタオルが冷たい・・・・」


額に引っ付いていたタオルを触った、まだ濡れていて冷たかった


「寝ずに看ててくれたんだ・・・・」


さつきは必要以上の優しさに心を打たれた


「優しすぎるよ・・・・かっこよすぎるよ・・・・」


溢れてくる想いのように涙が頬を伝った


「あたしなんかのために・・・・・・」


さつきは涙を拭い、淳平の頭に唇を近づけた


「ありがと・・・」


「さつき・・・・・・・」


唇が頭に触れた瞬間、淳平が名前を呼んだ。さつきはかなりどきどきしていた


「・・・はやくよくなれよ・・・・・zzzz」


「寝言か・・・・・・」


さつきは何か書いた後、ゆっくりと部屋から出て行った


「じゃあね・・・」


さつきが出てから数分後淳平は目を覚ました


「ん?もう朝か・・・・」


すこし背伸びをして、床に寝転がった


「そういや、さつきは・・・」


さつきの事を思い出し、ベッドを見たら手紙が置いてあった





《真中へ

今日まで看てくれてありがと

熱も下がったし帰るね

唯ちゃんにもお礼言っといて

        さつきより》


「あいつらしいな・・・・」


手紙を読んですこし笑うと、ベッドに寝転がった


「ふぁ〜あ・・・眠いし・・・・もっかい寝るか・・・・・」


さつきがさっきまでいたためか甘い香りがした



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「・・・い・・・・ぺい・・・・・淳平!!」


「う〜ん・・・・何だ母さんか・・・・」


目を擦りながら眠そうに母のほうに顔を向けた


「何だ母さんかじゃないわよ!女の子が来てるわよ」


「母さん・・・事情知ってるだろ?だからもう一眠りさせてくれよ」


必死で起こすものの徹夜続きで眠い淳平にとっては無意味だった


「淳平!もう・・・・ごめんね、昨日寝ずに看病してたから疲れてるみたいで」


「そうですか・・・・じゃあ、また寄らせていただきます」


部屋まできていた少女は丁寧に挨拶し部屋から出て行こうとした


(・・・・この聞き覚えのある声は・・・・・)


淳平は少女の声に反応し起き上がった


「東城!?」


「お、おはよう真中くん」


かなり驚いていた淳平にすこし圧倒されつつも綾は笑顔で挨拶した


「なんでこんなとこに来たんだ!?」


「ちょっと、次の台本で聞きたいことがあって・・・」


前に淳平に見せた本を鞄から取り出し、ベッドの上に座る淳平に本を手渡した


「あらあら、お邪魔みたいね・・・・ごゆっくりね」


「さっさと出てってくれよ!!」


母は笑いながら茶化すように言って出て行った、その所為か綾の顔は赤い


「ごめん、東城・・・気悪くした?」


「ううん、ぜんぜん大丈夫・・・・・ところで、さっき聞いたことだけど」


恥ずかしそうにそう答えた綾にすこし淳平は見惚れていたが、すぐに冷静になった


「・・・・今の俺に答えることができるかは分からないけど、言ってみて」


「P102のヒロインの台詞だけど」


本を開き、淳平はそのページに目を通した
そのページのヒロインの行動は人殺しを目の当たりにし、完全に人に失望した青年に対して告白するところだった


「・・・・完全に人を嫌いになったってことはあたしも嫌いなの?≠チてところ?」


「ううん、その次のところ」


「そんな君をあたしは好きなの≠チてところ?」


淳平はヒロインの台詞よりも主人公の青年の台詞が気になっていた


(そうだ、だからもう忘れてくれていい・・・・俺はだれも好きにはなれない≠ゥ・・・・)


(俺も一言でいいからこんなかっこつけたこと言ってみてえな・・・・・・)


すこし半笑いの淳平を気にしつつも綾は続けた


「うん、そこなんだけど・・・・愛してるの≠フほうがいいかなって思ったんだけど・・・・変えるべきかな?」


「どっちでもいいんじゃないかな・・・・つーか東城が決めなきゃだめじゃないかな?おれそういう才能ないしさ」


最近考える事の連続で疲れている淳平はあいまいな答え方をした


「でも、あたしが決めるよりも男の人がどっちのほうが男の人の心に響くか聞いたほうがいいと思ったの」


真剣な表情で言う綾に淳平はすこしどきっとした


「弟は聞いてくれそうもないし、外村くんは電話しても出ないし、小宮山くんの家は知らないし・・・・」


綾の声はだんだん小さくなっていった、その姿を見て淳平は


(・・・・・初めに来てくれたんだろうな・・・・まじめに答えなきゃ・・・・)


さっきのあいまいな返事を悔やみ、ちゃんと考えた


「・・・・やっぱり愛してるの≠フほうがいいかな・・・・」


その表情は記憶を無くす前に映画の事を語っていた淳平に似ていた


「好きって言ってくれるより愛してるの方がいいよ、言われる方にとってはさ・・・だって嬉しいし」


「・・・じゃあ、そうするね」


「俺は女の人からいわれたことなんかないけどね・・・・」


淳平は自分自身の一言ですこし鬱に入ったが


「聞きたい?」


「へ・・・」


綾の一言で一気に顔が赤くなった


「こんども主演に真中くんにしたら言われるでしょ?女の人から」


「あ〜・・・・そうだな・・・・」


淳平はすこし期待したが、映画の話と分かるとがっかりした


「用事も済んだし・・・じゃあね、また学校でね」


「またな・・・」


綾が帰った後、すぐにベッドに寝転んだが眠る事はできなかった


(一昨日くらいからほとんど寝てねえな・・・・)


(でも、すこしずつ戻ってきてる・・・)


手を上に上げ、何かを掴むように手を握った


(東城の小説・・・・西野の家の位置・・・・・なんの接点があるんだ・・・・)


そうしているうちに目蓋が重くなってきたが、最悪のタイミングで電話が鳴った


「もしもし、真中ですが・・・」


<よう、真中!>


電話の主は外村だった、睡眠の邪魔をした相手が小宮山だったら電話をすぐに切っていただろう


「なに用だ?」


<よう、記憶はどうだ?>


「ぜんぜんだな・・・・つーか寝かけの時に電話するな!一昨日からほとんど寝てねえんだ・・・・」


<それはすまなかったな・・・・・・ところで>


外村が何か話そうとした時、キャッチホンが来た


「ん?キャッチホン来てるから、後で折り返す」


<・・・・わかった、後でな〜>


すぐに外村からの電話を切り、キャッチホンの電話を取った


「もしもし、真中です」


<淳平くん!たいへんなの!!>


今度の声の主はつかさだった、そのお蔭か一気に眠気が吹っ飛んだ


「どうしたんだ、西野?」


<唯ちゃんが、階段で足を滑らして・・・・>


「え!!!????唯は今どこだ!!!」


つかさの声のトーンの低さが淳平を余計に焦らせた


<桜学だけど・・・・>


「わかった!!すぐ行く!!!」


淳平はそういって電話を一方的に切り、外へ飛び出していった


「どうしたのかしら、淳平?血相変えて出て行って」


何も知らない母はゆっくりと家事をこなしていた




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淳平はどれだけ必死になって走ったのか目に見えて分かるぐらいの早さで桜海学園についた


「はあ・・・はあ・・・・・・」


中に入ろうとしたが、案の定警備員に止められた


「ここから先は立ち入り禁止だ!」


「どけ!!唯が!!!」


何十人もの血気盛んな高校生を止めてきているだけあって淳平じゃ歯が立たなかった


「どいてあげてください!怪我した子のお兄さんなんです!!」


「西野!?」


「そうなのか?」


「そうだ!とにかく、どいてくれ!!」


西野のフォローのお陰でなんとか桜海学園に入ることができた


「西野!唯は!?」


「校舎の一階の右端に保健部があるからそこに・・・」


「分かった!」


つかさが指差した校舎に走って入った


「右端・・・・・ここか!」


保健部のドアを壊すぐらいの勢いで開けた


「唯!!」


「やっほ〜、じゅんぺー」


淳平は椅子に座って元気に笑う唯を見て思いっきりずっこけた


「え・・・・・・重症じゃないのか?」


「別にちょっと階段から滑らして足ひねっただけだけど」


「・・・はぁはぁ・・・淳平くん・・・・話も何も聞かずに電話を切っちゃうんだもん」


後から来たつかさに事情を聞いた淳平は唯に抱きついた


「じゅんぺー・・・・」


「心配したんだぞ・・・・馬鹿やろう・・・」


「ごめん・・・・」


淳平は頬を伝った雫を拭い、唯から離れた


「謝る必要ねえよ・・・・俺が勝手に心配したんだし」


「じゅんぺー・・・・・」


「さ〜て、何でそうなったか話してもらうぞ」


唯と淳平が楽しそうに話しているのをつかさと保健部の先生が見て笑っていた


「ふふ・・・西野さん、彼はいいお兄さんね・・・・」


「あたしもそう思いますよ、近藤先生」


「西野さんが悩む理由、分かる気がするわね」


「・・・・・・」


すこし恥ずかしいのかつかさは顔をほのかに赤く染めた


「学園一といっても過言じゃない美少女が男の事で相談してきたときは正直びっくりしたわよ」


言われるたびにつかさの顔の赤さが増す


「あなたを悩ます男なんてどこまでかっこいいんだろうって思ってたけど・・・」


近藤先生は笑いながら横目で淳平を見た


「とにかくどうやって帰るんだ?」


「う〜ん・・・・じゅんぺー、おんぶして」


「・・・・しかたねえな・・・わかったよ」


「じゅんぺー、他の人より非力だけど大丈夫なの?」


「うるさい!けが人は黙ってろ!!」


淳平と唯のやり取りを見て近藤先生の笑いが増す


「顔はともかく、いろんな意味でかっこいいわね・・・・・」


近藤先生の前ではつかさは下手なことがいえなかった


「あなたを守った時といい、やさしいのね・・・」


つかさは顔を赤くしながら大きく頷いた


「あたしには何もできないけど、がんばってね」


「はい・・・・」


「西野!」


「な、なに?」


つかさは顔が赤いので俯いたまま淳平の方を向いた


「唯が一緒に帰ろうってさ」


「じゃあ、正門で待ってて」


「わかった」


淳平はすこしにらむように見ている近藤先生に気がついた


「あ、先生、唯がお世話になりました」


「気にしないで、これも仕事だから」


「いえ、仕事でもしっかりしていただいたので・・・本当にありがとうございました」


しっかり頭を下げると近藤先生は笑いながら


「面白い人ね・・・・とりあえず、唯ちゃんには早退届だしとくから連れて帰ってね」


「はい」


「じゅんぺー、はやくおんぶして〜」


「わかったって・・・・」


淳平は唯をおんぶして保健部から出て行った


「西野さん、あなたも早退ね」


「え!?」


「あなた、約束破る人じゃないでしょ?」


つかさは静かに頷いた


「早退届だしといてあげるから、そのかわりがんばりなさいよ」


「はい!」


飛び切りの笑顔をして保健部から出て行った




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つかさにとってありえなかった淳平との帰り道
楽しそうに笑いながら歩く二人


「西野、こいつのわがままに付き合わせてごめん」


淳平のせなかで寝ている唯の方を見ながら言った


「いいよ、どうせ後の授業でても無駄だったし」


「え、まだ授業あったんだ・・・・ほんとにごめん」


淳平はすこし首をさげて謝った


「大丈夫だって、単位もしっかりとれてるし、何より・・・・・」


つかさはすこし顔を赤くした、それを見て淳平はすこし期待した


(もしかして・・・・俺と帰りたかったとか?・・・・)


「唯ちゃんが心配だったし」


淳平はすこし期待していた分、一気に暗くなった


「どうかしたの?」


「いや別に・・・・・」


楽しく話していると時間が過ぎるのも早く、もうつかさの家に着いた


「またね、淳平くん」


「またな、西野」


淳平はそういって振り返ったがまた向きなおした


「あ、そうそう・・・」


「なに?」


「この間のケーキうまかった、ありがとな!!」


淳平は思いっきり手を振って帰っていった


「・・・・・」


淳平の優しさがいつまでもつかさの胸に残っていた




つづく・・・・・・

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