忘却〜第5話〜 - 惨護 様
6限目とはいえ、授業中にもかかわらず完全に寝ている淳平
「・・・・・・」
淳平は昨日の事を考えていたら眠れなかった
その所為でいま熟睡している
「真中!!」
数学の授業、文系の淳平にとっては苦手な授業だった
しかも寝ていたのが先生にばれ、当てられてしまった
「は、はい!」
「この練習問題35の(1)を解いてみろ」
小宮山ならすぐにねを上げるような問題だったが
「え〜っと・・・・・」
淳平は問題を少し読んでから
「log10 6=log10(2×3)=log10 2+log10 3=0.310+0.4771=0.7781です」
淳平が完璧に答えたため先生はすこし呆然としている
「座ってもいいですか?」
「よ、よろしい!次の問題は大和!」
淳平はまた眠りに入ったが起こされる事なく、授業は終わった
それと同時に外村が驚きながら近づいてきた
「今日はどうしたんだ、苦手のはずの数学を完璧に答えて」
「昨日いろいろあって眠れなくて暇だったから、予習してただけだって」
「ほ〜う、あのときの岡持(数学教師)の顔は面白かったぜ。口をあけて驚いてやがったし」
外村は笑いながら言うものの淳平の顔は笑っていなかった
「ところで、昨日さつきになんかしただろ?」
「え?・・・・なんで?」
淳平は気にはしていたが外村にばれていたのでかなり動揺した
「今日はめずらしく学校を休んでるぞ、さつきのやつ。たてまえは風邪で休んでいるがな」
「・・・・・・」
「心当たりはあるみたいだな」
淳平の顔色の変化を見ていた外村はすこし呆れて言った
「家の場所分かるわけないよな・・・・」
「えっと、たしかだな」
淳平がすこし呟いただけだったが外村はすぐに地図を出し、淳平の机の上に広げた
「この3−1の大川さんの家を右に曲がって、すこし行ってこの1−6の如月さんの家を・・・・・」
淳平はかなり驚いていたがいろんな意味で外村が恐くなった
(なんでここまで女の家を知ってるんだ・・・・・)
そうこうしているうちに外村の説明が終わった
「そう行ったらさつきの家だ」
「あ、ありがとな、外村・・・・でも、行ってもいいのか?」
「部の方なら任せておけ、まだ脚本も出来てないからな」
「そうか・・・・じゃあ行ってくる」
「頑張ってこいよ〜・・・・」
走って教室を出て行った、校舎を出る途中、天池と綾が楽しそうに会話をしていたが
何も気にしないまま通り過ぎた
そして、急いでさつきの家に向かった
「ここがさつきの家だな」
つかさの家のインターホンを押した時のようにすこし緊張しながら押した
<だれですか?>
インターホンに出たのはさつきじゃなく、弟の方だった
家族構成の事などまったく知らない淳平は年下とも知らず敬語で話した
「あの泉坂高校2年の映像部の真中って言いますけど、さつきさんいますか?」
<さつきねえちゃん?ちょっとまってて>
さつきの弟はどたばたと音をさせながらさつきの部屋に向かった
「ねえちゃん、真中っていう人がきてるよ」
「!・・・・・会いたくない」
すこし体をビクつかせたが布団に包まって弟に背中を向けた
「彼氏?けんかした?」
「どうでもいいでしょ!!とにかく、会いたくないの!!!」
背中を向けたまま話すさつきの姿は弟にとっても強がりにしか見えなかった
<会いたくないって言ってる>
インターホンから聞こえてきた返答ですこし暗くなった
「・・・・じゃあ、昨日の公園で待ってるって伝えてください」
<うん、わかったじゃあね>
またどたばたという音を立ててさつきの部屋に戻ってきた
「ねえちゃん、真中って人が公園で待ってるって」
「・・・・・・・あたしは風邪なんだから向こうに行ってなさい!」
そういって今度は顔を隠すほど布団に包まった
「わかったよ・・・・風邪なら風邪らしく寝ててよ、俺ともだちと遊んでくるから」
弟が出て行った後、さつきは起き上がり洗面台の鏡の前に立った
「真中・・・・・」
・
・
・
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(俺が悪いんだよな・・・・・・)
昨日と同じベンチに腰を下ろして考え込む淳平
(逃げてたんだよな・・・・・きっとどこかで)
空を見上げると、もう空はオレンジ色になり始めていた
(俺はこのままでも生きていけるそう思ってたのかもな・・・・・)
今度は下を向いた、影が伸びていくのが目に見えて分かった
(もう俺は・・・・・)
「!!??」
決心して顔を上げると目の前に飛びついてくる人影が見えた
「真中!」
「さつき!?お前・・・・いいのか?というより先に離れてくれ・・・」
さつきはゆっくりと淳平から離れた
「本当は会いたくないけど、勝手にね・・・・で、なんか用なの?」
いつものように笑顔を振りまくさつき、だがその顔は妙に赤い
「・・・・・き、昨日はなんていうか・・・自分でも意味が分からない状況だったっていうか・・・・・」
淳平はえがおにすこし見惚れていたが、目的を思い出し顔を赤くしながら恥ずかしそうに話し出した
「とにかく、嫌な気分にさしてほんとうにごめん」
淳平が頭を下げようとするとさつきがそれを止めた
「・・・・あたしの方こそごめん」
逆に頭を下げられて淳平はかなり焦っていた
「つい手が出ちゃって・・・・」
「か、顔を上げろって、俺が馬鹿なこと言わなきゃさつきも怒らなかっただろうし」
さつきが顔を上げるとはにかむ笑顔の淳平がいた
「何より俺の事を考えていってくれてたんだし、悪いのは俺の方だ」
「・・・・優しいね」
「へ?」
「そこだけは変わってない・・・・真中がどんなに変わってもきっと・・・・・」
そういわれて恥ずかしくなったのか頭をかきながら顔を赤くした
「じゃあね、真中・・・・」
さつきはそう言って公園の出口に向かったがその足はふらついていた
「さつき?」
淳平が声をかけようとしたらさつきは地面に倒れた
「おい、さつき!しっかり・・・・」
・
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・
さつきが目を開けると見慣れない部屋のベッドに寝ていた
「ここは・・・・?」
「ここは俺の部屋、でもまだ寝とけよ・・・・あの後急に倒れたんだから」
淳平が優しい笑顔で起き上がろうとしたさつきの額をおして、また寝さした
「風邪ひいてるんなら来なくてもよかったのに・・・・・」
「・・・・迷惑かけてごめん」
「気にすんなって・・・・・」
「そうだよ〜、さつきさんは気にする事ないよ〜」
「真中・・・・唯ちゃん・・・・」
涙ぐんだが涙を見せないように顔をうつぶせた
「とりあえずこれで体温計っとけよ」
「ありがと」
淳平に背中を向けたまま体温計を受け取り口に含んだ
「俺、台所から氷持ってくるから少しの間看ててくれ」
「うん、わかった」
淳平が部屋から出た瞬間、唯はさつきに近づいた
「さつきさん、じゅんぺーになんかいわれたでしょ?」
「べつに・・・・」
さつきはすこし唯が苦手だったので無愛想な対応をした
「ふ〜ん・・・でもじゅんぺーは昨日、寝ずにいろいろ考えてたみたいだったよ、みんなに悪いことしたって嘆いてたし」
「・・・・・・・・」
さつきは唯の話をきいてすこし気分が楽になった
「体温どうですか?」
さつきはくちから体温計を取り出し、体温計を見た
「38度5分・・・・」
「・・・・今日泊まっていったら?じゅんペーも事情はなしたら大丈夫だと思うし」
「でも・・・・・」
「大丈夫、大丈夫、なんとかなるよ」
うまいタイミングで淳平が氷を持って部屋に戻ってきた
「さつき、氷もって来たぞ」
「じゅんぺー、さつきさん泊まってもらおうよ。熱下がんないみたいだし、もうおそいし」
淳平は外を見た、もう日が暮れてあたりはすっかり暗くなっていた
「でも、さつきの家もさつきがいないと心配だろうしな・・・・」
「大丈夫、親はいないし、弟たちもなんとかできると思うし」
淳平はすこし考えたが
「・・・・・わかった、しっかり休めよ」
「うん、分かってる」
「俺はちょっと外村の家に行くから、唯、あと頼むな」
「わかった、おばさんにも言っとくね」
・
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(外村を理由に抜け出してきたけど、ばれないよな・・・・)
淳平は思い出すためにうそをついて公園のベンチにまた座っていた
(考えなきゃな、自分の記憶の事・・・・・・・)
あの部屋にいたくないわけではなかったが思い出すために考える姿を見て寝ているさつきが心配しそうで怖かった
(あ〜駄目だ、何にも思い出せない!!)
(でも、不思議だな・・・・・西野の家を覚えてただなんて)
昨日のことを思い出しながら下を向いた
(偶然にしては出来すぎてるし・・・・・なぜ?)
「・・・ん・・・・くん・・・・・」
下を向きながら考えていると自分を呼ぶ声が聞こえたので顔を上げた
「・・・・ん?」
「真中くん、だいじょうぶ?」
「下向いたまま何かうなってたから、おなかいたいのかなって思ったんだけど・・・・」
「あ・・・・ぜんぜん大丈夫だから」
淳平は顔を赤くして恥ずかしそうに笑った
「よかった!」
胸をなでおろしながら笑う綾を見て、淳平の顔がさらに赤くなった
(可愛いよな〜・・・・彼女だったらどれだけ嬉しいだろうか・・・・・)
淳平はいつの間にか横にいた綾の顔を見惚れていると
「真中くん、聞いてた?」
「あ、ごめん・・・・・」
「だからね、今日近くに来たのはこれ見て欲しかったの」
淳平は見たことの無いような本を手渡された
「読んでみて」
内容は人の闇を見すぎて人間不審になった青年に
愛情をもって接していく女性の姿を描いた作品だった
「・・・・すげえ、東城って作家の才能あるよ!」
「前も言ったよ、そのことば」
綾はすこし冷たい声で淳平に言った
「え、それはごめん・・・・」
「ふふ・・・・仕方ないよ、忘れてるんだから」
その言葉に淳平はすこし暗くなった
「・・・・でも、前に見たノートの小説の方が好きだな」
「え・・・・」
「だってさ・・・・・」
綾は淳平が記憶を失くした後は誰にも一度も見せた事が無かった
「真中くん、覚えてるんだね」
「・・・・覚えてる?」
「あたし、真中くんに病院に運ばれた後一回もノート見せてなかった・・・・」
淳平ははっとした、内容は覚えているがいつどこで覚えたのかは覚えていなかった
「・・・・・なんでだろ?」
(完全に忘れたわけじゃないのか?)
また黙り込んで下を向き考え始めると綾が淳平の肩をたたいた
「悩んでいても何も始まらない」
「動く事から始めよう」
「・・・・・・・・」
その台詞はさっきの小説の中の女性が青年に告白するときにいった言葉だった
「東城・・・・ごめん」
「謝る必要はないよ」
その言葉は淳平にとって救われるような気がした
「・・・・・俺、帰んなきゃ・・・・・・唯も心配してるだろうし」
「うん、またね」
笑顔で手を振って公園から出て行く綾の姿はなぜか淳平の頭からいつまでも離れなかった
淳平はいい気分のまま帰宅すると起こった唯が玄関で待っていた
「ただいま」
「おそいよ〜、もうご飯できてるんだから」
「ごめん、唯」
いつもなら平謝りなのにしっかり謝ったので唯は仕方なく許した
「ごちそうさま・・・・」
すぐに夕飯を済ました淳平は気分よく部屋に帰るとさつきがすやすやとねていた
(あ〜そういえば、さつきが寝てたんだよな・・・・)
「・・・・・」
寝ているさつきはいつもの活発な姿を思い浮かばせないほどおしとやかなものだった
(う〜ん妙に色っぽいな・・・・・)
淳平はまじかで見ながら顔を赤くした
(・・・・いかんいかん、自主規制をかけないとな・・・・)
妄想モードにはいりかけたとき、さつきに急に腕をつかまれた
「・・・・・・真中」
「ん?どうした?」
「!!!!!」
さつきは淳平に抱きついてきた
「寒いよ・・・・」
身を震わせながらいうさつきに離れろとは言えなかった
「いっしょに寝よ?」
(おいおいおいおいおい・・・・・こんな展開ありか?
A.いっしょに寝る
B.断る
C.おs(ry
Cはだめだな・・・・・やっぱ、Bしかないよな・・・・・・・いや、Aでも・・・・・)
淳平が考えているなかも夜は更けていく
つづく
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