忘却〜第3話〜 - 惨護  様 



泉坂高校のあるクラスに7日ぶりの声が響いた


「おはよう〜」


淳平のこの行動にクラスの皆はあっけをとられていた
淳平が席についてすぐ外村が近づいてきた


「よう真中、もう学校来ても大丈夫なのか?」


「まあな、それよりおまえには返さなきゃいけないものがあるからな」


淳平は力強くビデオを机の上に置いた、その目は怒りで燃えている


「あ、あっれ〜?握ってる拳は一体何かな〜?」


「分かってるだろ?外村〜・・・・」


淳平の顔は笑っているが目は笑っていない


「いや、あれは出来心で・・・・・・・」


「問答無用!!!」


「ぎゃあああああああ・・・・・・」


外村は一時間目の授業を保健室で過ごす羽目になった
その間、クラスからこんな声が上がっていた


                             「いつもの真中と違うくねえか?」


          「そうだよな、なんか妙に明るいよな」


「お前も!?じつは俺もなんだけど」
                              「真中くん、なんか雰囲気変わったね」

             「なんか休んでた前より真剣っていうか」


                             「私もそう思う」



クラスの声が淳平を追い詰めていってる感じがした
そんな中、淳平はなにもかわらず授業をうけ、放課後を迎えた


「・・・・とりあえず覚えろって言われても無理だぞ、この量」


外村から渡された今まで会ったことのある人物の写真と名簿を机の上に置いた


「クラスのやつらくらいは覚えとけよ、ばれると同情かわれるからな・・・・ところで・・・・」


「ん?なに?」


外村は大体の事情が分かっていたので、誰にも淳平の事は話していなかった
外村は淳平と世間話をしながら、部室で待っていると部室のドアが開いた


「真中〜!」


部室に入ってきた小宮山が淳平に急に抱きついてきた


「ええい、気色悪い!よるな、小宮山!」


「お前、あやちゃんになんかしただろ!!」


「へ?」


話の内容がいまいち読み取れない淳平はつい間抜けな声を出した


「さっき話しかけようとしたら、完全に無視されたんだよ〜」


「いつも通りだろそれ?」


「い〜や、完全に無視する事はなかった!!!」


「・・・・・」


外村がツッコミを入れるたが完全に受け流された


(あの時、なんかぎこちなかったしな・・・・・聞いてみるか・・・)


ちょうどいい時に綾が入ってきた、だがその顔には明るさなど見受けられない


「・・・・・・・」


何もいわないで淳平たちと離れた位置に座った


「ちょっと聞いてくる」


そういって立ち上がり綾の方へ近づいた


「東城!ちょっと話があるんだけど」


「え?何、真中くん?」


「ここじゃ話しにくいし、ちょっと来てくれ」


「う、うん・・・・」


淳平は綾の腕を掴んで部室から出た。それはいつもならするはずの無いことだった


「あいつ変わったな、外村」


「不安なんだろ?」


「は?」


小宮山は外村の一言がまったく理解の出来なかった


「さ〜て、美玲が来ないうちに見るか・・・・いいものが手に入ったぞ!」


「おお!!もちろん、見る見る!!」


机に写真を広げて、すこし外を眺めた
日がだんだん雲に隠れて見えなくなった


(・・・・・あいつ、だいじょうぶだろうか・・・・・・・・)


そんな事を考えながら小宮山といつもの大人の会話を始めた


        ・




        ・




        ・




        ・


淳平は人の気配がまったくない校舎裏まで綾を連れ出した


「真中くん・・・・話って何?」


「あのさ、東城・・・・・」


淳平は振り返り、綾の肩をつかんだ。その瞬間綾がすこしビクついた


「なんで、そんな顔してるんだ?」


「え・・・・・・」


「さっきから笑顔一つ見せないで、なんか暗くて」


「そうかな・・・・・気のせいじゃない?」


そういって笑顔を見せた、だがその笑顔から明るい感情など読み取れなかった


「笑い方が全然映画のときとは違うな」


「え・・・・・」


「外村から借りたビデオに映ってた東城はもっと自然な笑顔だった」


淳平が映画の話をした時、綾の沈んだ顔がすこし明るくなった
しかし、思い出していったことではないと分かるとまた沈んだ


「・・・・・・・・」


「俺のせいだよな・・・・そんな顔になったの」


「違うよ!」


淳平が自分をまた追い込もうとすると綾が叫んだ


「真中くんのせいじゃない!!あたしがこんな・・・こんな・・・・・」


綾が涙目になり黙り込んだ、その瞬間淳平がとうとうキレた


「俺のせいじゃなかったら、誰のせいだ!!!」


「え・・・・・・」


「俺が記憶をなくしたから!俺がみんなのことを忘れたから!そんな顔をしてるんじゃないのか!?」


さっきまでの声の調とはまるで違う、目の前で見ている綾ですら目を疑うほど淳平が変わっていた


「忘れたのは何だ!?それすら分からないんだ・・・・・・教えてくれよ・・・・こんな時は昔の俺はなんていうんだ・・・」


「真中くん・・・・・」


(辛いんだよね・・・・恐いんだよね・・・・・・・・・)


綾は何かを決心し、座り込んでいる淳平の後ろに回りこんだ


「もうわからねえよ・・・・・・」


俯いて嘆く淳平は誰も見たことが無いくらい弱かった、綾はその淳平をやさしく後ろから抱いた


「東城・・・・・」


「たまには泣いてみるのもいいんじゃないかな・・・・・あたしはそう思うけど・・・・・・・」


「・・・・・・・ありがとう、なんか落ち着いた」


淳平は泣くことなく平常心に戻り立ち上がった


「もう大丈夫だよね・・・・・」


「ああ・・・・でも東城・・・・さっき言ってたけど、それは東城にも言えるんじゃないのか?」


「え・・・・?」


「泣きたいときは泣いた方がいい────」


東城は淳平の背中に抱きつき、泣き出した


「東城・・・・・」


「・・・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・・・」


淳平は振り返らず綾の手を握った


「辛いときや悲しいとき・・・・・こんな俺でよかったら相談に乗るから・・・・」


それから少しの間、綾の泣き声だけが校舎裏に響いた
その泣き声は切なく心にも響いた、泣き止むと綾は淳平の背中から離れた


「大丈夫か?」


「もう、大丈夫だよ・・・・・ありがとう」


「じゃあ、部活行くか!」


「うん!」


綾の自然な笑顔が淳平の顔をすこし赤く染めた


「そうやって笑ってる方が俺は好きかな」


「え?」


「あ、変な意味じゃなくて・・・・」


「・・・・みんな待ってるし行こう」


綾の顔が少し曇ったが淳平はそんなことにまったく気が付かなかった


「そうだな」


(東城、君の笑顔が不安を少し取ってくれたみたいだ・・・・・・)


「ありがとう」


「真中くん、何か言った?」


小さく呟くように言った感謝の言葉は綾の耳には入らなかったが淳平は十分満足していた


「なんでもない、早く行こう」


手を引いて部室に戻ってくると、さつき、美玲、ちなみも部室に来ていた


「お〜帰ってきたか」


「待ってたよ〜、あやちゃぁ〜ん」


「待たせちゃってごめんね、みんな」


小宮山は真中に押さえつけられていたが、ちゃんと反応した


「ところで・・・・外村・・・・あの子たち誰?」


外村に耳打ちしながら美玲とちなみを指差した


「あ〜、あいつらはまだお前の状態知らないんだったな」


「美玲、ちなみちゃんちょっと来て」


「なに?」
「なんですか〜?」


「ちょっと面倒なことになっててな・・・・・」


外村は二人に淳平のことを耳打ちした


「「えええええええええええええ!!!!?????」」


案の定、二人の声が部室に響いた


「本当に!?あいついつもと変わらないように見えるけど・・・・」


「今はな・・・・・・だけど」


「じゃあちょっと遊んでみ〜よう」


外村の話を良く聞こうとせずにちなみは淳平に近づいた


「先輩、先輩」


「なに?」


ちなみはスカートをめくりパンツを見せた
その瞬間、以前見せなかった鼻血と行動を見せた


「・・・・・・」


「あ〜本当だ〜、前と反応が全然違う」


「いいな〜・・・・・」


「なに言ってんのよ!!」


外村がついこぼした一言に美玲が激しく反応し、外村は思いっきり殴られた


「ところで、君誰?」


「端本ちなみっていいま〜す・・・・本当に覚えてないんですか〜?」


「あ・・・・うん・・・・」


「彼女だったって事も覚えてないんですか〜?」


「へ?」


このことには部室にいたちなみ以外の人間が驚いた


「ま〜な〜か〜・・・いつの間に抜け駆けしてんだよ〜!!」


「嘘ですよ〜・・・本当におもしろいですね〜」


笑いながら冗談を言ったちなみだったが、真中の顔は笑っていない


「端本さん、からかうもんじゃないと思うよ」


「東城先輩・・・・・」


真剣な表情の綾、こんな姿誰も見たことが無かった


「すいませんでした」


「いや、いいって端本が疑うのも無理ないし・・・・」


口でそんなことを言ってはいるが心の中はズタズタに切り裂かれた気分だった


「あんた本当に大丈夫なの?」


美玲が淳平の表情の変化を見て声をかけてきた


「大丈夫だって、ところで名前は?」


「外村美玲・・・・・」


美玲は名前を聞いてくる淳平を見て、記憶を失っていることを確信した、だが同時に寂しさすら感じた


「OK、外村・・・・じゃ、かぶるしな・・・・・」


「かぶってもいいって、俺は間違えねえし」


「そうか、外村?」


「「ああ(ええ)」」


淳平は美玲に言ったつもりだったが、外村もつい反応してしまった


「やっぱ間違えてんじゃん・・・・・」


頭を抑えながらため息をつく姿はまったくいままでの淳平には無かったしぐさだった


「じゃあ美玲でいいよな?」


「かまわないけど・・・・」


「んじゃ、改めてよろしく美玲」


「うん・・・・・」


淳平の一連の行動を前髪の下からずっと見ていた外村はすこし暗い顔になった


「真中、今日は帰ってくれ」


「へ?」


「いろいろと説明しなきゃならんしな、お前もあんまり聞きたくないだろ?」


「わかった」


部室から出て行く淳平の姿は生きる希望をなくした人ほど心細かった


「真中先輩を帰らしたのは何でですか〜?」


「みんな・・・・じつはな」


淳平には話していない事を部室にいたみんなに話した


「うそでしょ・・・・・」


さつきは驚きの表情を隠せなかった
それは、小宮山以外の部員にとってもそうだった


「推測でしかないが、本当だ」


少しの間の沈黙、淳平の容態の悪さがみんなの気分を悪くさせていた
だが、綾が沈黙を破いた


「外村くん、西野さんは元気にしてる?」


「分からない・・・・さっぱり連絡も無いし」


外村は携帯をとりだしてチェックをしたが何の連絡も入っていない
また沈黙。だがこんどは美玲が破った

「兄貴」


「なんだ?美玲」


「さつきさんがいないんだけど・・・・・」


「え?」


         ・



         ・



         ・



         ・


日が西に傾き始めた頃、淳平は学校の校門付近にいた


「部室で何を話してたんだろ?」


そんなことを呟いていると背中にきもちいい物が当たった


「真中!」


「さつき!?やめろって!!」


顔をかなり赤くしながらさつきに言った。淳平はすこし名残惜しそうな笑みを浮かべていたが、その顔は以前とは違うものだった


「・・・・なんで暗い顔してんの?」


「いや、そんなつもりは・・・・・」


「ふ〜ん、励ましてやろうとおもったけど、東城さんに先を越されたかな?」


「・・・・・・・・」


淳平は顔を赤くしながら下を向いた


「当たってるみたいね」


すこしにやつきながら言ったが、けっこうイラついていた
だが、気分を一転させ笑顔で


「一緒にかえろっか!」


「でも、部活は?」


「いいの、いいの」


腕を引っ張って家路に向かう二人
日がすこし北にも傾いたように見えた







つづく


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