忘却〜第2話〜 - 惨護 様
「へ?どういうことだ?」
淳平の間の抜けた声が外村を呆れさした
「すいませんが真中のお母さん、こいつの体借ります」
「外村君、お願いね。私は退院の準備するから」
外村はむりやり淳平の腕を引っ張って中庭につれてきた
そして、ベンチに腰を下ろした
「何でここにつれてくる必要があるんだよ」
「おばさんにばれると厄介だからな」
「何が?」
一瞬、外村がふらついたが記憶喪失であることを思い出し建て直し
「お前の現状」
「どういうことだ?」
どういうことかまったく理解できない淳平に外村は完全に呆れたが
記憶喪失なんだと改めて再確認し、話を続けた
「はぁ〜、もういい・・・・真中、お前がこんな状態になったのはどうしてかわかるか?」
「そりゃあ・・・・デートしてて俺が船から落ちて、頭打って・・・・」
「誰とデート中にだ?」
「それは・・・・」
淳平は下を向いて黙り込んでしまった
(手を握ってくれてた女の子?いや、もしかしたら飛びついてきた女の子?それとも、おとなしそうだったあの子か?まさか唯?)
淳平が考え込んでいる横で
(・・・・こいつまじで、記憶喪失か?嘘じゃないのか?しかし、反応が無いしな〜)
外村も考え込み、両方が考えて黙り込んでしまったが、沈黙を破ったのは外村だった
「・・・・お前は西野とデート中になった」
「そうか、なんか悪い事したな」
気楽に言ったが、その顔は暗く無機質なものだった
「・・・だから、デートに誘わなかったらとか自己嫌悪になる可能性が高い」
「そんな必要ないだろ!?俺が悪いんだから!!」
淳平は立ち上がり外村の肩を掴んでいつもより熱を入れて言った
(こいつ、他の女の子のこと考えてない分、気合が違うな・・・・)
すこし淳平に圧倒されつつ肩の手を払いのけ、落ち着いていった
「お前が考えてるほど女の心はがさつじゃない」
淳平は外村にそういわれるとまた外村の隣に座った
そして、ふと気付いた事を外村に聞いた
「・・・ところで、西野ってさっき手を握ってくれてた金髪の女の子?」
「そうだ・・・・こっちから見たら、かなり羨ましい光景だったがな」
「そうか?」
「そうだよ!!可愛かっただろうが!!」
今度はさっきと逆の状況になり、外村が立ち上がり、順平の肩を掴み熱を入れて話した
「たしかにめちゃくちゃ可愛かったな〜、周りの子も」
顔がにやつく淳平にすこし引きながらも冷静になりベンチに腰を下ろした
「どうすんだ?これから」
「どうするって言われてもな〜」
すこし考え込むと頭にさっきの光景が浮かんだ
(・・・そういや、みんな泣いてたよな・・・・・捜したほうがいいよな・・・・・・)
「・・・・・とりあえず、さっきの女の子たち捜してくる」
淳平は立ち上がり走り出した
「頑張ってこいよ〜」
「おう」
外村に手を振り、病院内に再び入っていった
「面白いことになりそうだ♪・・・こうしてはおれん!真中を追いかけなければ!」
外村はデジカメを手に取り淳平を追いかけ始めた
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「・・・・・・」
病院の屋上、夕日でオレンジ色に染まっている
そこに金色の髪をなびかせ柵にもたれかかる女の子がいた
《つかさちゃんに迷惑をかけるな!!》
あの言葉が脳裏をよぎる
(やっぱりあたし・・・・迷惑かけてばっかりだね)
遠くを見つめるその目には悲哀と切望が入り混じっていた
(気分転換のつもりで誘ったのに・・・・こんなことになって・・・・・)
「あれ?なんで涙が流れるのかな?淳平くんのせいだからね・・・・・」
涙を拭っていると屋上のドアが派手に開いた
「西野さん早まっちゃだめ!!」
さつきが走ってつかさに抱きついた
「西野さん!あんな馬鹿じゅんぺーのことなんか気にしなくても大丈夫だか・・・・・ら?」
唯は初めはかなり焦っていたが、状況を判断し止った
「え?どうかしたのみんな?」
「あ、あれ・・・・もしかして勘違い?」
抱きついていたさつきも慌てて離れて顔を赤くした
「・・・・・ふふ・・・大丈夫だよ、みんな」
強がっているようにしか見えないぎこちない笑顔が三人には痛かった
「ちょっと風に当たってみたかっただけ」
「・・・本当に・・・大丈夫なの?」
綾の目にはどうしても大丈夫には見えなかった
「東城さんこそだいじょうぶ?目、真っ赤だよ」
「え?」
慌てて顔を俯けると、みんなから笑顔がこぼれた
「そういう西野さんこそ」
唯はつかさに近寄りながら茶化すように言った
「あれ?変だよね、勝手に目が赤くなるなんて・・・」
「泣いてたんだろ?」
聞き覚えのある優しい声、いつも語りかけてくれたあの声
「真中くん・・・」
「真中!?動いて大丈夫なの!?」
「そうだよ、じゅんぺー!」
「大丈夫、退院できるって言われたし」
すこし笑いながら言ったが、まわりから笑顔は見受けられなかった
「・・・・・・・」
淳平はひとり黙り込むつかさに向かって
「西野!・・・・・だよな?」
つかさは淳平のいつもどおりの呼び方に一瞬明るくなったが、確認する一言で未だ回復していない事を悟った
「そうだよ・・・・・」
「ごめん!」
「え・・・・」
淳平はいきなり頭を下げた、その姿につかさはすこし拍子抜けした
「俺がどじ踏んだから・・・・なんていうか・・・・・とにかくごめん!」
「それと唯に北大路に東城、ごめん!心配させちゃったみたいだし、ごめん!」
皆に向かって謝る姿は前と変わらない淳平を見せた
「真中!」
「な、なに?」
(つーか、胸が当たっているんですけど・・・・・)
さつきは頭を下げている淳平にだきついた
いつもと同じように顔を赤くするが、やっぱり何かが違う
「あたしは北大路じゃなくてさつきって呼んでね♪」
「あ、ああ」
いつもならすぐに離れようとするのに何もしない淳平
さつきにとってそれはあまりに変わった感じがした
「じゃあ、あたしはバイトあるし、じゃあね〜」
「じゃあな、さつき」
いつも通りに見えたがさつきの後ろ姿には心細いものがあった
「あ、もうこんな時間・・・・あたしは塾があるから・・・・」
携帯で時間を見て、すこし焦りながら淳平に言った
「ところで東城は東城でいいんだよな?」
「う、うん・・・・」
「塾、頑張れよ」
記憶を失った不安を感じさせない笑顔と優しさは綾を辛くさせた
「うん、じゃあ・・・・」
屋上から去っていくその姿は何かぎこちない感じがした
それは淳平も気が付いていたが敢えて何も言わなかった
「唯もおばさんの手伝いに行ってくるね」
「たのむぞ、唯」
「任しといて!」
唯は元気よく笑って屋上から姿を消したが、空元気にしか見えなかった
淳平とつかさの二人だけになったが、何も会話のしないままあたりが暗くなった
(やっぱり可愛いな〜、でも東城もさつきも可愛いし・・・・でも今そんな事考えてる場合じゃないよな)
つかさは何も喋らないで暗くなった景色を見つめている
それは暗闇の先に何かを見出そうとするようにも見えた
(なんでだろう、とても切ない・・・・だけど、言わなきゃな・・・・・)
淳平は決心し、つかさに近寄った
「・・・・怒ってる?どじ踏んでデート台無しにしちゃったこと」
「・・・・・・・」
つかさは何も言わないで淳平の方へ向いた、その目はまだ赤かった
「ごめん、謝り尽くせないと思うけど・・・・・ほんとにごめん」
俯きながら話す淳平の勘違いがつかさの胸に痛いくらい響いた
「顔上げなよ」
「へ?」
「もういいよ、そんなに頭下げてると前とは大違いだぞ!」
すこし説教じみて話すつかさの顔にまだ不安の色はとれていなかった
「そうかな・・・・」
すこし照れ気味で頬をかく淳平の姿は前と変わらない
「もう日が暮れちゃったし、お母さんが心配してたら困るから帰るね」
いつもつかさの親はかなり遅くに帰ってくるのだが、心配かけさせない為にわざと言った
「あ、西野!聞きたかったんだけど」
「何?淳平くん?」
「俺って西野って呼んでた?それとも・・・・つかさ?」
「・・・・どっちでもいいよ」
ちいさくぼそっと言った
「へ?なんて?」
当然の如くまったく聞こえなかった淳平は恥ずかしがりながら聞きなおした
「西野って呼んでたよ」
「分かった。西野、またな」
「うん、じゃあね淳平くん」
笑顔で手を振り屋上から出て行くその姿は淳平にとって辛いものだった
つかさが屋上から出た時、踊場にデジカメを持った外村がいた
「西野・・・いいのか?」
「なにが、外村くん?」
「わかってるだろ?」
「謝りたいのはこっちなのにね・・・・・やっぱり淳平くんは淳平くんだった」
「・・・・・・・」
その言葉をそっくり淳平に聞かせてやりたいくらい切ない声だった
「じゃあね、外村くん」
「ああ・・・・・」
外村は屋上から聞こえてくる足音に気付き、隠れた
「なんかみんなおかしかったな・・・・」
そんな一言を言っている淳平を隠れていた外村が思いっきり押した
「美味しいところを逃したな、この女たらし!」
その瞬間、淳平は会談から転げ落ちた
「っ痛〜!なにすんだよ!」
「やっぱただのショックじゃ、戻らないか・・・・」
すぐに起き上がり掴みかかった淳平だったが外村の一言で離した
「本当に記憶なくしてんだよな?」
「お前の事もよく知らないし、なんで優しくしてくれるのかも分からない」
「西野もさつきも東城も唯もなんで泣いてるのかも分からない、俺が悪いのに」
淳平の一言一言が外村にとっても、痛かった
「真中、とりあえずお前は家に戻ってこのビデオでも見てろ」
「なに入ってんの?」
「見たら分かる、そのかわり・・・・・いや、やっぱやめとく」
(いまのこいつに言っても何がなんだか分からないわな・・・・・)
外村の顔が一瞬にやついたがすぐに元に戻った
「どうしたんだよ?」
「なんでもねえよ!さっさと帰って見てろ!きっと何か思い出すはずだ!」
「ありがとな、外村。お前っていいやつだな」
(本当のことに気づいたらどうなるだろうな〜・・・・・)
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「とりあえず、見てみるか・・・・・」
ビデオデッキにビデオを入れて中身を見だした
中に映っていたのは夏に撮った映画だった
編集前のビデオだからNGや外村が撮ったと見られる変なシーンも残っていた
「・・・・・・・・・」
ビデオから流れてくる自分を呼ぶ声やみんなの演技に魅せられて
映画が終わるころには一筋の涙が頬を伝っていた
「・・・・・俺はいったいどうすりゃいいんだよ!!!」
思いっきり叫んで壁を殴った、拳には血が滲んでいた
そして涙を拭い、ベッドに寝転んだ
「わかんねえな・・・・何がしたいんだろ・・・・・」
目を閉じても思い出せない、あの夏の撮影も合宿もビデオを中の事しか
「ぺー・・・んぺー・・・じゅんぺー!」
「うわあ!??」
目を開けると唯の顔が目に入ったのでかなり驚いて退いた
「寝ながら泣くなんて変だね」
「寝てたのか・・・・つーか、なんで唯がいるんだよ!?ここ俺んちの俺の部屋だろ!?」
「あ〜、一緒に住んでることも忘れたんだ〜」
「へ?・・・・・待て、まさかここにお前寝てるんじゃ・・・・・・」
「そうだよ〜、別に気にする必要ないけどね」
すこしへんな妄想をしたのか顔が赤くなる淳平だが、理性を働かせすぐに冷静になった
「・・・で、なんか用か?」
「ご飯できたから呼びにきただけだよ〜だ、食べないならあたしが全部食べよっかな」
「それはやめろ!!」
「じゃあ、早く降りてきなよ」
「いつの間にか成長したんだよな、唯も・・・・」
幼馴染にすこし妙な感情も感情を抱きつつも淳平は下に降りていった
その次の日の朝、淳平のうれしい悲鳴が部屋からこぼれた
つづく・・・・
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