「喪失」 1 - お〜ちゃん   様


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「あはは、そうなの?淳平くん、そんな事してたんだ〜」

「そうなんですよ〜、それでその頃の淳平ったら本当に泣き虫で・・・」


学校の帰り道。駅まで続く商店街をつかさは唯と二人で歩いていた。
淳平とケーキ屋を訪れて以来、唯はすっかりつかさに夢中になっている。
今日も、わざわざつかさの教室まで出向いて一緒に帰る約束を取り付けたくらいだ。


「でも、唯ちゃんと淳平くんって本当に兄妹みたいだね♪」

「え?ちょ、ちょっと待ってくださいよ〜唯、淳平と兄妹なんて嫌だ〜」

「ふふふ・・」

「もう、笑わないで下さいよ〜〜つかさ先輩!」


ピロピロピロ〜〜♪


仲の良い会話を遮るように、つかさの携帯が鳴った

「あ、ママからだ。ごめんね、唯ちゃん!」

『もしもし?つかさちゃん??』

「うん、どうしたの?」

『ちょっと夕ご飯の材料で足りないものがあったの。お願い、買ってきてくれない?』

「うん、わかった!で、何を買って帰ればいいの?」

『えっとね・・・』


つかさは母親の言った材料を手帳に書き記した


ピッ!!


「唯ちゃん、ごめんね!ちょっと夕飯の買い物頼まれちゃって・・・」

「あ、いいですよ!じゃ、じゃあ唯はここで失礼します!!」

「本当にごめんね!あ、そうだ!今度またうちの店に来てよ。唯ちゃんだけ、特別にサービスしちゃうから♪」

「ほ、本当ですか〜!!やったーーーー!!」


大はしゃぎをする唯に、つかさは優しい微笑を向けた。

「じゃあね、唯ちゃん!!」

「はい、つかさ先輩!」


唯が駅のほうへ歩き出すのを確認すると、つかさは通り過ぎた大きなスーパーへと足を向けた。






「はあ・・・やっぱつかさ先輩、素敵・・・」

ぽぉ〜っとした表情のまま、ゆっくりとマンションのオートロックの前に立つ。



ピピピ


自動ドアがゆっくりと開き、唯が足を進めたその時。


「んぐっ!!??」
不意に背後から口元に何か手ぬぐいのようなものをあてがわれた

「んーーーー!!んーーーーー!!!!???」

「おっと、暴れるんじゃないぞ!そのまま部屋に向かうんだ。大人しくしないと、コイツでブスッと突き刺すぞ!!!」

頬に冷たいナイフを当てられ、一気に今の状況が危険であることを知らされる

「いいか!泣いたり喚いたりしたら顔にキズをつけるからな!大人しくすれば、何もしない!!」

「そうそう、いい子だからね。君は大事なゲストなんだから」

手に持っていた部屋のカギが音を立てて地面に落ちる

「お?これがカギか。さて、それじゃあ部屋まで歩いてもらおうかな」

「ほら、さっさと行けって!!」


男二人に囲まれ、恐怖のあまり声を失いかけていた唯は、涙を流しながら震える足を一歩、また一歩と自分の部屋に向かって歩き出した











「ただいまーーー!」

「あ、お帰りなさい!ありがとうね、つかさちゃん!」

「もう、お母さんしっかりしてよ〜!片栗粉とミリンがないなんて、主婦失格だよ〜!」

「そ、そんなこと言ったって〜。といいつつもしっかりつかさちゃんに手伝ってもらう気満々なんだけどね」

「・・・・はいはい。で、どこからやればいいの?」

「・・・・・・最初から?」

「・・・・・・・・・・」



夕食の準備も終わり、つかさと母親はテーブルに並んだ料理に手を伸ばしていた


ピンポ〜〜〜〜〜〜ン♪


「あら?誰かしら??」

母親が玄関に向かった

「あれ?誰もいないわ・・・ん?これ、何かしら?」

玄関のドアの前に、一枚の封筒が置いてあった

「西野・・・つかさ様・・・つかさちゃん宛だわ」


「ん?ママ、どうしたの?」

「これ、つかさちゃん宛みたい。ラブレターかしらね?」

「ちょっと、こんな茶封筒に入ったラブレター?勘弁してよ〜」

つかさは笑いながら封筒をテーブルの横に置き、夕飯を済ませてから部屋に戻った


「ふ〜、おいしかった♪さて、さっきの封筒の中身は何かな?淳平くんからだったりして♪」

フフフと微笑みながら封筒の中を覗くと、一枚の便箋と、更に一通の小さな封筒が入っていた

「なんだろ?これ・・・」

便箋に書かれた文章を読んでいくにつれ、つかさの表情が徐々に険しくなっていく。

「ま、まさか!!」

急いでもう一通の小さな封筒の中身を確認する

「?!・・・・そ、そんな・・・・・・」

全身から一気に血の気が引く


クシャッ


手に持った封筒を強く握り締めた


ダダダダダダ!!


「あら、ちょっとつかさちゃん!こんな時間に何処へ行くの?」

「あ、ちょっと、友達の所!トモ子の家!大丈夫、先に寝てて!!」

「またトモ子ちゃん?あんまりご迷惑かけないようにね」

「うん、わかってる!行って来ます!!」


母親の声はほとんど耳に届いてない

もう何も考えられなくなっていた


慌ててるためか、なかなかクツが履けない

「もう、何?何でよ!!もう!!!」

焦りと不安が一気に押し寄せる

バンッ!

ドアを思いっきり開け、仄暗い道路を一気に走りだす

「急がなきゃ・・・あたしが行けば・・・」

封筒を握った手に力が篭る


「あたしが行けば・・・・・・」


小さな唇をキュっとかみ締める


周りの人など見えていない


行き交う人々の視線など気にしない



「大丈夫だよ・・・待っててね・・・」




先程まで、目の前にあったあのかわいらしい笑顔が脳裏をよぎる












「唯ちゃん・・・・・」













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