「ONE LINE」 - 明日(めいび)様 


その1


 ――――――プロローグ――――――








12月22日。




聖夜クリスマスまで、あと僅かとなったその日。



東城とさつき、そして西野にクリスマスプレゼントを贈るためにバイトしているハンバーガーショップで、俺は偶然、西野と会った。



クッキングスクールで作ったロールケーキを味見してほしい、と西野に言われ、俺は西野の家に行くことにした。






俺は当然、年頃の健康な一男子として微かな甘い期待を抱いていた。



でも、いつもの様にいつものごとく、結局は大した進展もなく西野宅を去ることになるであろうことも、分かっていた。



ケーキを食べるだけなんだ。

家には西野の両親もいるだろう。

西野もそんなつもりじゃないだろうし。





漫画や小説じゃないんだから、そう都合よく甘い展開なんて・・・



ありえるはずもないと思っていた。






知らなかった。






これが、「小説」で、「夜の部」だなんて・・・・・・








知らなかったんだ。


その2


西野宅、2階、西野の部屋。





ケーキを食べ終えた俺に西野は、

「部屋で待ってて」

と言って、ケーキの皿を下の階に持っていった。






部屋に、俺1人。


―――ケーキはもう食べたのに、なんでまだ部屋に・・・?





健全な青少年として、期待。 淡い、甘い期待。




     妄想。 







落ち着かない。


ココロも、カラダも、・・・色々と。




きょろきょろと部屋中を見回す。



この部屋に入るのは2度目だけど、西野の部屋にいると思うと、やっぱり緊張する。





部屋の隅にベッド。

ベッド。寝台。



―――寝台は何のために存在するのか・・・?


脳裏に浮かぶ、いきなりな哲学的命題。 答えは簡単だ。 







――寝るために。 ・・・いや、寝る、ために?


別に、独りで寝る、のも自由だけれど。





立ち上がり、ベッドの傍に寄る。



「あっ、と・・・」


わざとらしい声を出し、






―――――ぼふっ。






ベッドの上に倒れこむ。


ごろごろ転がる。

あたたかい。






――――今の俺、かなりヤバイことしてるんじゃ・・・・・・。







でもやはり、ごろごろ転がる。

そしてやはり、あたたかい。






西野に抱きしめられているかのような心地よさに、俺がまどろみかけた頃。




   カタッ、ギイィー・・・トットットッ、トッ・・・・・・。




階段をのぼる音がする。


俺は一瞬で跳ね起き、部屋の中央に正座する。





一時の気の迷いで、「これまで」と「これから」にサヨナラするところだった・・・。









部屋の入り口、ノブが回った。


その3


ドアを開け、西野が部屋に戻って来た。



「やだなぁー、もっと楽にしてよ」


言って西野はベッドに腰掛ける。


「う、うん・・・・・・」




楽にしろと言われても・・・・・・。



他に誰もいない、この家、この部屋。

目の前には無防備なミニスカートの少女が1人――――――




しかもベッドに座ってるから、正座している俺の目の高さから丁度、スカートの中が・・・!!!





をあっ!? その暗闇に浮かぶ白い影っ!!






この状況じゃ、いろんなトコが楽にできないです、つかさちゃん・・・・・・。










・・・・・・あれ?



「そういえば、西野の両親は? 家にいないみたいだけど・・・・・・」


「ん? そのうち帰ってくるよ」


「あ、そうなんだ・・・・・・」




ガッカリしたような、ホッとしたような・・・・・・。









いや、正直ガッカリしました。 はい。 


真中淳平、16才。 若いもので。








「―――――でも・・・・・・帰ってくるのは10時過ぎって言ってたかなぁ・・・」


「え・・・・・・!!」


なに?

その「でも」は・・・何?!



もしかして西野、誘ってる!?




・・・えーっと、10時まではあと4時間あるな・・・・・・。







い、いや、西野がまさか、そんなこと・・・・・・。






「―――俺、そろそろ帰ろっかな」


正座をくずし、しびれる足で立ち上がって言う。



「なんで?」


「へ? だ、だって、もう外暗いし・・・・・・。

 ロールケーキありがとう。すげーうまかった」



西野はそんなつもりじゃないと思うけど、でも・・・・・・。


「それじゃあ・・・」


このままの雰囲気だと、俺は――――――














「待って・・・―――」




声、背後から。



―――俺の背中に西野は上半身を密着させていた。


















俺は考えていた。








この都合のいい展開の仕方は・・・・・・これは――――――




















もしかして、「小説」なの、か・・・・・・?


NEXT