Life is ...Scene 2: masterpiece - EVE  様



『立ち入り禁止』



それがどうした。そんなもんじゃ、この真中淳平はとまらない。

「あと、18段…」

ほこりっぽいこの18段の階段を飛び越せば、

「この町で、最高の景色が!」


授業が終わり、部活にいそしむ生徒達の声もだいぶ静かになったころ、


まさにこの時間。その日の太陽が燃え尽きるその瞬間に、


ここ泉坂市は、『最高潮:Climax』を迎える。


金を払ってでも是が非でも見たい。


日ごろの運動不足か、くじけそうになる足腰を叱咤激励し、酸素を求め異常伸縮する肺をなだめすかして、足元の階段を2段抜かしで駆け上がる。


なぜならそれは、真中淳平にとってそれほどの価値を持つものだから。『映画監督』を夢見る少年にとり、『魅せるもの』は何にも代えがたく貴重で、丸ごと財産だった。

立ちふさがる最後の扉をたたきつけるように押し開ける。


視界が開ける…


そして目の前には




「ぱんつ?」


目の前にはぱんちゅ。しかもイチゴ。誰もいないはずの屋上へ、楽しみにしていた景色を見ようと長い階段駆け上がってきたら女の子が降ってきた。はっきりいってどうしたらいいかわからない。(突っ込むところか??)告白します、真中淳平はパニック状態です。





「え…あの、いいおしりだね?」




とりあえず、はっちゃけた。


確かに、誰だっていきなりパンツは困るだろう。(作者だって困る。)人は真剣にびっくりしたときに萌え血などださないし、それは彼、真中淳平も例外ではない。逆にここまではっちゃける彼にあっぱれといいたい。

そのとき『いいおしり』が急に体を起こす。そして何も言わずに彼を見つめた。



時が止まる ――――――――――


『いいおしり』は同時に『いいおんな』だった。


だが、そんなことは今の真中淳平には些細なことだ。彼は今、『それどころ』ではない。


その女が起き上がり、こちらを見つめた瞬間に


世界がバクハツした!!


そう、


今にも地平のかなたへ沈まんとしていた夕日の放つ『照明』によって


泉坂市が『最高潮』を迎えたのだ。


それは、彼が見てきた数々のシーン中でも、とびきりの最高傑作。

監督、製作、演出、『自然』による感動の超大作。


「う、うるさいよ。」

胸を打つ鼓動がうるさい。邪魔だ! 静まれ! 

何物にも邪魔されたくなかった。彼は今、それを『観て』いるのだから。

興奮で呼吸がままならない。ドーパミンだか、セロトニンだか、アドレナリンだか、ベータエンドルフィンだか知らないが、いろんなものが駆け巡ってどうにかなりそうだ。

(これだ!! これが観たかったんだ!!)

わざわざこの時間にここまで駆け上がってきたのは、決して無駄ではなかった。



   『魅せるもの』


真中淳平は、心を奪われていた。


いや、『心奪われる』、そんな言葉が安っぽく聞こえるほど、それは圧倒的だった。


町の喧騒の一瞬の切れ目、吹き抜ける木枯らしの奇跡的なタイミング


落ちる夜の帳と、それを吹き飛ばす閃光のような爆発的な光の奔流によるグラデーション、


そして、それと射光を遮る中心街に聳え立つビル群の影との神懸り的コントラスト。


雲ひとつない晩秋の高いソラという極上の『スクリーン』へ描かれた神秘的『背景』は、


住み慣れた町、通いなれた学校、それら見慣れた風景を劇的に変化させる魔法のようだ。


そこに佇む一人の少女。


自然という魔法にかかった『主演』の少女は、舞い降りた天使のように優雅で、可憐だった。


このシーンのためだけにあつらえられたかのような『セット』


『主演』をひきたてる数々の『舞台演出』


その中で、完璧に役割を演じきった少女〈ヒロイン〉は


美術館などに飾ってある数々の絵画、工芸品よりずっと高貴で、美しい。



これが、『本物』の『演出』


これが、到達すべき真の『黄金率』


これが、


これこそが、真中淳平の 『■■』



いま、彼の意識は魅了に囚われたかのようにその『シーン』に釘付けになっており、それ以外のものは何もかもが、忘却の彼方にある。




だから『いいおんな』が、立ち上がって駆け抜けていったことにはまったく気がつかなかった。



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