未完成―最終話 つね様




――この物語に、「二章」、「三章」は必要なかったのかもしれない。


―――「彼」が、これから歩んでいく未来がそれなのだから。


――――あなた方の想像に任せよう。「彼」の前にはきっと無限の未来が広がっているのだから。


―――――だから、やはり、この物語は、「未完成」なのかもしれない。







駅前に立っていた。

人の行き交う駅前に。

待ち合わせの人たちにまぎれながら。





待ち続ける。


ただ、待ち続ける。





しゃがみこんだ僕の身体…ふと、影が差す。






「君も待ち合わせ?」

顔を上げて語りかける。

その顔は太陽の影になってよく見えない。

だけど、毛先が無造作にばらついた天然の金髪は、これまでの苦労を想像させた。

やっと見えたその表情にも疲れが見える。



―――ああ、こんなにも。



前を向いて、歩いていこうという決心が揺らぐほどに。

変わり果てたその姿。





「映画、好きなの?」

少し、かすれた声

「ああ、これ?」

僕は手に持っていた映画雑誌を掲げてみせる。

「奇遇ね。あたしの好きだった人も映画が大好きだったのよ」

喋り方も、変わった。

「へえ、そうなんだ」

表情をうまく作れず、視線を逸らす。

「彼はどんなだった?」

「素敵だった」

「…そう」







―――過去を消すことなんてできなくて







―――でも忘れることもできなくて







―――でも、ここから始めるしか、今はできないから。







「待ち合わせをしないか?」

「誰の話?」

「君と僕が」

「…場所は?」












「五年後、カンヌで」










―――さあ、どんな未来を描こう








――物語は、まだ、未完成――










end