奏 - つね  様



もう高校生活も残り数日となりいろいろな思い出が名残惜しく思えてくる


今日僕は泉坂駅のホームに来ていた


隣には一人の少女が立っている


少女の名は西野つかさ。



彼女は今日パリへと旅立つ。ここから電車で空港まで行き、そして飛び立つ。夢へと向かって‥‥‥



駅のホームはいつもと何も変わりなく、人々の声でざわめいている



でも、



ただ一つ違うのは君は今日僕の元を離れるということ


もう少しすれば、君は僕が行ったことのない、そして、僕の手の届かないところへと行ってしまう


「淳平君」
不意に彼女が呟いた


「大丈夫だって。パリなんて近いもんだよ、飛行機に乗る時間がちょっと長いってだけなんだから」





(西野は何も思わないんだろうか、俺に会えなくなって)


その感情は自惚れなのかもしれない。ただの勘違なのかもしれない



(でも…西野に会えなくなるなんて考えられないよ…)



そんなことを考えていると、今までの西野との思い出が走馬灯のように頭を駆け巡り、寂しさがこみ上げてきた




(だめだ。応援するって決めたんだから。明るく見送るって決めたんだから。)







「そうだよな。」

僕はそう言って俯いていた顔を上げた



「淳平君?」



「お、俺、西野のこと応援してるから。だから、頑張ってな!」






「うん!」
そう言って彼女は頷いた


その笑顔はとても輝いていて、やっぱり僕が引き留めていいものでは無いと思わせた













「もう少しだね…」

そう言って彼女は僕の手を握った

その手はとても冷たくて、何だか切なくなった




そして…


トゥルルルル…



不意にホームに電車の到着を告げるベルの音が鳴り響いた


その時





「あ…」



彼女の手が離れた




「じゃあ…いかなきゃね」



電車がホームに入り、君は電車に乗り込もうと歩き出した



その後姿を見ると、もう会えないような気がして…



まだ…伝えたいことはたくさんあるのに…








「西野!」




無意識のうちに僕は叫んでいた




彼女が振り向いた













泣いてた




ホントは西野も辛かったんだ…
ずっと我慢してたんだ…







「待ってるから、西野が帰ってくる時まで。」



「それで、帰って来たときには、その顔を必ず笑顔に変えて見せるから。」



「どこにいったって、西野のこと思ってるから!」

















チュッ





(えっ!?)




時間が止まった。











西野は僕に駆け寄って来て頬に軽く触れた





その瞳には涙が溢れている



そして、目を合わせてこう言った



「あたしも待ってるから、淳平君とまた会える日まで…ずっと」




そう言って彼女は電車に乗り込んだ

涙はまだ溢れていた


でも、最高の笑顔だった





そうだ、この笑顔が僕に輝きをくれたんだ
そして、きっとこれからもずっと…




僕は思う。これからもこの笑顔を守っていきたい、いつまでも…