ただそれだけの風景 - つね  様


「わあ、今年も綺麗に咲いてるなあ。」


僕は毎年この季節になると決まってこの桜並木道を歩く。


昔と変わらないこの風景。


満開の桜。


ここを歩くといつも思い出す。


幼いときのあの思い出…

















あれは小学校2年生のときだったかな


僕は特に目立たない小学生だった。


クラスの人気者は勉強が良くできるとか、運動が得意だとか、そんな感じで。


だけど僕は、勉強も、運動もまるでダメ。


友達からはいつも馬鹿にされてばかり。


帰りに通る桜並木道、


今日もうつむいて歩く。


その手にはテスト用紙。


人に見せれるような点じゃない。


「わあ、綺麗だね。」


「だろう。毎年この季節になると満開になるんだ。」


高校生くらいのカップルの声が聞こえる。


少し周りに目をやれば、通りを行き交う人はみんな笑顔で上を向いて歩いてる。


その中で僕だけがうつむいている。


どうしていつもこうなんだろう。




通りの横の公園では自分と同じくらいの年の子が楽しそうに遊んでいる。

(…あの子…見たこと無いけど…どこの子だろう…)


僕の目は一人の少女にくぎづけになった。


かわいいなんてもんじゃない、


輝いてた。


まるで天使のようなその笑顔。


僕は一瞬でその女の子の惹かれた。


これを一目惚れって言うのかな。


でも何か違う気もする。


一目惚れって言うには、あまりにその娘に惹かれてた。















翌日


学校からの帰り道、


空の色は暗くて、今にも降り出しそうで、


それに今日も学校じゃいいことなんてなかった。


でも今日は何か違うんだ。


とうとう雨が降ってきた。


冷たくて、強い雨だった。


それでも、今日は何か違うんだ。


僕は桜並木道で走っていた足を止める。


そして公園を見たんだ。


こんな雨の中、遊んでる子供がいるわけ無い。


でも、公園にあの子の姿を探したんだ。


こんな強い雨に打たれても、


舞い落ちる花びらに僕の体が埋もれそうになっても、


いつか君と話せることを、


夢見てるんだよ。


ランドセルに押し潰されたって、


その日がいつか来ないかって、


首を伸ばし続けてんだよ。














家に着くと、それとほぼ同時に雨が上がった。


窓を開けてみる。


さっきまでの雨が嘘のように透き通った空。


そして、心地良い風が吹く。


いつかこの風が僕を遠くに運んでくれるならいいのに、


そしたら今は遠く感じるけど、


ここから見えるあの公園へ行けるかな。


そんなことを考えてた。














それから一週間が経った。


学校の帰り、今日も桜並木道を歩く。






(…あれ…あの子は…)


間違いない、毎日遠くから見ていた、憧れのあの子。


君は靴紐を直してた。


その様子にずっと見とれてた。


そして僕はふとしたことに気付いた。


靴紐を直してた君はいつのまにかこっちを向いて微笑んでいる。


君と目が合った僕は動けなくなってしまった。


ドキドキが止まらなかった。




ほんの数秒の間だっただろうけど、


その時間が何分にも、何十分にも感じたんだ。





結局君は、僕のそばには来なかったけど…






君が歩き出すのと同時に僕も歩き始めた



チャリンッ


僕の気持ちは高ぶったままで、背中でしたその音に気付かなかった。













家に帰ってもドキドキした気持ちは静まらなかった。


僕はいつものように机の上にランドセルを置いた。


(あれ…?)


そこにはあるはずのものが無い。


(ここに…付いてたはずなんだけど…)


いつか神社で買ったお守り、


今まで大事にランドセルの横に付けていた『交通安全』のお守りが無かった。


(小さい鈴が付いてたから、落としたら気付くはずだけど…)


大切にしていたものだたけど、その夜ずっと家の中を探してもお守りは出てこなくて、もう諦めもついた。











次の日の朝、


桜並木道を通る。


昨日のことが思い出されて、


なんだか、明るい気持ちになれた。


君と目が合った、


ただそれだけのことなのに、


そんな些細なことで明るくなれて…








初めて君を見てから、


僕は生き甲斐を見つけたんだ。


これがきっと出会いってヤツだろう。


今日もこの桜並木道を通るかな?


そんなことをずっと考えてる。




学校に着いてから、


授業中も、休み時間もあの子のことを考えてた。


思えば僕の脳みそなんてのは単純なもんだ。


ほんのちょっとしたきっかけで、


毎日が楽しくなってるんだ。


でも誰だってそうなんだ、本当は。


今ならそう思える。














帰り道の桜並木道、


今日も公園で遊ぶあの子を見る。


そして帰ってからも僕の部屋から、




夕日が公園に差し込み始めた頃、


君は家へと帰っていった。


君の家は公園と同じように僕の部屋からよく見えた。


夕暮れの中、僕の頬を風が優しく撫でる。






この風が、


僕を遠くへ運んでくれるのなら、


ここから見える憧れの、あの子の家へ…



『どうか遠くへ…』この風に願いを込めた。


いつか、


ここから見える憧れの、


あの娘の元へ…











それからその子は、引っ越してしまったみたいで、


僕の初恋は一言も話せないまま終わった。

















それから10年経った今、


あの子は今どこにいるんだろう


10年前と変わらない桜並木道、


満開の桜を見て思う。













その頃、桜並木道から少し離れた家では、


「つかさどうしたの?戻ってきて、」


「ちょっと忘れ物したんだ。」


階段を上がり自分の部屋へ行くつかさ。






しばらくして降りてきて、


「じゃあ、いってきまーす!」


(今日もしっかり守ってね。)








手には使い古した『交通安全』のお守りが、







しっかりと握り締められていた。



END