今度こそ・・・3 - シャバゾウ 様
なぜ俺が唯にまで頼んで寝坊しないようにしたかというと、それには理由がある。
今日は自分の夢に向かってまた一歩前進できる日だからだ。
時はこれより1日前に遡る・・・
5月1日
この日俺はプロダクションの事務所にいた。
このプロダクションは、若くして監督になった渡辺満が創設したものだ。
渡辺監督はこの業界じゃ天才として名がとおっている、俺の憧れの監督だ。
「オーイ真中、渡辺監督が呼んでるぞ」
書類の片付けをしていた俺に菊地先輩が笑いながら話かけてきた。
「またお前何かやらかしたんじゃね〜の?」
菊地先輩は俺が行ってた大学の先輩で、いつも俺のことを目にかけてくれていた。
今の仕事場も先輩が俺に監督を紹介してくれて入れたのだ。
「そんな、俺今日はまだ何にもしてないですよ。」
そう言ったものの、内心はビビリまくっていた。
「俺、何にもしてなかったよな?」
俺はぶつぶつひとり言を言いながら監督がいる部屋に向かった。
コンコン
「真中です、失礼します。」
そこには、険しい顔をした監督が座っていた。
(やばっメチャクチャ怖い顔してるよ。やっぱ俺、何かしちゃったんだな)
などと思っていると、監督が
「まぁ、そこに座りなさい。」
ドキドキしながら座ると、いきなり監督が俺に質問をしてきた。
「明日が何の日だか知っているかな?」
(え〜と、明日なんかあったっけな?やばい、全然わからないよ〜。)
「すいません、わからないです。」
少しして監督が再び口を開いた。
「まぁわからないだろうね、まだ一部の者にしか言ってないことだから。」
監督は険しい顔のまま話を続ける。
「明日ついに僕が温めてきた映画のプロジェクトが動き出す。
そこで淳平、君には助監督の補佐兼緊急の時は助監督もやってもらいたいと思う。」
「えっ?」
何が起こっているのか全く理解できていないといったようなマヌケな声を発してしまった。
「まぁ、驚くのも無理はないな。何せ君は僕の所にきて3年しかたっていなし、
君より早くここに入ってきた先輩達もたくさんいるからな、それに、こんな事あんまりあるものじゃないからね。
でもかなり話し合って決めた事なんだぞ。
まぁなんだ、君はプロのみんなと混じって映画をつくる点では他の先輩達との経験の差はあきらかだ。
でも君には、そんな経験差をも埋めてしまうを持っていると僕は思う。
それは・・・
<人徳>だ。」
俺は監督の口から意外な言葉がでてきたので驚いて尋ねた。
「ちょっと待ってください。俺のどこに人徳があるんですか?監督も聞いていますよね?
俺しょっちゅう失敗するし、寝坊して遅刻もするし社会人として本当にダメ人間だし・・・」
監督はさっきの怖い顔から一転して笑顔になった。
「ぷっあははは。君の事ならよく聞いているよ。
君は自分で思っているよりもダメな人間じゃないし、良い所もたくさんあるよ。
人間自分自身のことはよくわかわないもんなんだよ。君もわかっているだろうけど、
この業界は表面では華やかに見えているかもしれないが、
本当は想像以上に醜い事が日常茶飯事に起こっているだ。例えばいじめ何かが良い例だ。
若いやつがちょっと調子にのったことをしようものならすぐに嫌がれせを受ける事があるだろう?」
「はい・・・」
「今だから言うけど、実は君が僕のプロダクションに入る時スタッフのみんなは猛反対だったんだ。
他にもたくさん入りたがっている人がいるのに、
一人だけ簡単に菊地の推薦だけで入らせるわけにはいかないってね。
その場は菊地が君の実力をわからせるために、
君が高校と大学の時に撮った映画をみんなに見せて納得させたんだけど、僕は心配したんだよ。
やっぱりスタッフのみんなもまだ納得しきれてない人が何人かいたからね、
その人達からいじめられるんじゃないかってね。
やっぱりそんな事があると現場の雰囲気が悪くなって良い作品がつくれないからね。」
「そうだったんですか。俺が入ってくるときにそんな事があったなんて思ってもいませんでした。
でもそんな俺のどこに人徳なんてものがあるんですか?」
俺は申し訳なさそうに尋ねた。
「まったくまだわからないのか、いいか君が入ってきてからみんなから嫌がらせを受けたことが一度でもあったか?」
「あっ」
「そうだ一度も嫌がらせなんてなかっただろう?」
「はい、嫌がらせどころかみなさん俺にとても良くしてくれて・・・」
「みんな最初は反対してたのに、君と接しているうちにだんだん君に惹かれていったんだ。
これを人徳と言わないで何て言うんだ?これも一種の才能なんだぞ、誰もが持ってるわけじゃないしな。
それにな、映画にもそれは反映されると思うしな。だから君を選んだんだ。どうだやってみるか?」
この時の俺は、何がなんだかわからなくなって返事もろくにできなかった。
「やっぱり、自信がないか?今回はやめとくか?」
その声を聞きはっと我に返りすぐ返事をした。
「いっいえ、やりたいです。自分がどこまでできるかわかりませんが、やらせてください。お願いします。」
監督は笑顔のまま
「それじゃあ、この映画の台本明日までに目通しとけ。後助監督は菊地だからあいさつしとけよ。
菊地も君の事を推薦してくれたんだぞ。」
「わかりました、失礼します。」
外に出ると俺は急いで菊地先輩の所に向かった。
「せんぱーい、菊池先輩〜はぁはぁ」
急いで走ってきたので息がみだれなかなかしゃべることができない。
「おっ、なんだ真中たっぷりしぼられてきたか?」
「はぁはぁ、いえ怒られなかったですよ。それより映画の件あのありがとうございます。
俺なんかを推薦してくれて。」
「何だ、怒られてきたんじゃなかったのか?つまんね〜な。」
菊地先輩は笑いながらそう言った。
「それと映画の事聞いたんだな?お前が勘違いしないために一つ言っておくぞ、
俺がお前を推薦したのは同じ大学で先輩後輩の仲だからとかそんな甘い考えじゃないからな。
厳しくいくからな、そこんとこ忘れるなよ。」
さっきの笑顔とは全く違う真剣な顔つきで言った。
「はっはい」
俺の返事を聞いて菊地先輩はまたいつもの笑顔になって言った。
「なんだよそんなに肩に力入れると良い作品なんてできないぞ。」
「そんなこと言ったって、そうさせたのは先輩じゃないですか。」
「まぁそれもそうだな、はっははははは」
「そうですよ」
「じゃあ明日10時半に集合だからな、遅れてくるなよ。」
「はい。」
そんな事が昨日あって俺は急いでいた。
「やべぇ〜俺新人だから30分前には着いておきたかったのに、もう15分前だよ。」
自分でも信じられないくらいの速さで打ち合わせをする事になっていた泉坂スタジオに向かった。
「ふぅー10分前か、何とか遅刻だけはまぬがれたな。」
コンコン
「失礼します。」
ガチャ・・・キィー・・・・
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