いちご100%最終回記念ショートショート『When it snowing・・・』 - シャバゾウ 様
何のへんてつもない日常
いつものように大学に行って勉強したり友達とあそんだり、つまらなくはないけど何かが欠けた日々。
いつからだろうそんなふうに感じ始めたのは。
十二月二十八日AM五時
「今日の天気は朝の九時頃から雪が降るでしょう。」
朝の天気予報を見てから女性はコートを着て外に出た。
クリスマスは終わったというのに町にはまだあちこちにイルミネーションが輝いている。
「はぁ はぁ はぁ」
まだ微かに幼さが残る女性は駅に向かって走っていた。
「おばさんとおじさん朝早い過ぎるからって出迎え行かないなんて、自分の息子なんだから自分達が行けばいいのに。」
女性はブツブツ文句を言ってはいるが、出迎えに行きたくないわけじゃないむしろ逆だ、行ってはやく会いたいのだ。
何の説明もなく行ってしまった彼、そんな彼に相当腹を立てていたので
何かの口実で自分に言い聞かせないと会えなかったのだ。
(後少しでもう少しで会える。)
そこの角を曲がれば駅につく。
ドカッ・ドンッ
考え事をしていたためか、曲がり角を曲がった所にいた人とぶつかってしまった。
「った〜、ごめんなさいちょっと考え事をしてたもので」
「っ〜、ごめんなさいちょっとよそ見してたもんで」
二人ともほぼ同時に謝った。
(えっこの声)、女性の胸の中に一陣の風が吹く。
あせる気持ちを押さえてゆっくりゆっくり顔をあげる。
「大丈夫ですか?ケガとかありませんか?後これ落としましたよ。」
たくましくなった体、精悍な顔つき外見は変わってしまっているけど・・・
昔と変わらないやさしい彼だった。
「人の事ばっかり気にして・・・昔と全然変わってないんだから・・・」
「えっ?何か言いました?」
「・・・」
(何で気づいてくれないのよ、私の事わすれちゃったの?)
「人の心配ばかりしてバカみたいって言ったの!!!」
気づいてくれないもどかしさからか、つい怒鳴ってしまった。
「なっ、いきなりなんだよ、せっかく人が親切にしてやったのにその言いぐさは。」
「かってにそっちが親切にしただけじゃん。」
(本当はこんな事が言いたいんじゃない。怒鳴ったのだって本当は怒鳴りたくて怒鳴ったんじゃないのに・・・)
「もういいよ、君と口論しててもしょうがないし俺行くとこあるから行くよ。」
そう言うと男はそそくさと歩き出してしまった。
(えっ、まってよ本当に私の事憶えてないの?ねぇ?)
男性は曲がり角を曲がって行ってしまった。
ポタッ ポタッ ポタッ、女性の目からは涙が流れ落ちていた。
あんなに再会するのを楽しみにしていた自分がバカみたいだった。
すぐに気づいてくれると思ってたのに全く気づいてもくれない、
だから腹立たしくなって怒鳴ったのにそれが裏目にでてケンカまでしちゃったし。
家に戻ってどんな顔して会えばいいかわからない。
「淳平のバカ〜バカ〜バカーーー・・・」
泣きながら大きな声で叫んだ。
「バカで悪かったな」
さっき行ってしまったはずの男性が後ろに立っていた。
「うっうっ、何でいるの・・・?」
涙交じりに尋ねる。
「何でって出迎えの人を残して一人で帰れるわけないだろ。」
「出迎えの人って、私が誰だかわかるの?」
「当たり前だろいつでも味方するって言ったのに味方する相手の事を忘れたらどうしようもないだろ。」
「ゆい」
久しぶりに呼ばれた自分の名前、うれしくて今まで以上の涙が頬をつたって流れだした。
「グスッ、じゃあ何で会ってすぐに久しぶりだねとか言ってくれなかったのよ。」
ここに来て今までたまってた言いたかった事がいっきに溢れ出た。
「それになんで私に何にも言わないでいなくなっちゃうのよ。いつでも味方してくれるんじゃなかったの?本当に心配したんだから。うぇーーーーん。」
ついには大声で泣きだしてしまった。
「わかったわかったから悪かったよ。唯の事知らないふりをしたのはちょっとしたイタズラ程度にやったんだよ。
一人暮しとか世界をまわる事も言おうとしたんだけど言いそびれちゃってさ、本当に悪かったな。」
「うっっ、ヤダ絶対に許してやらないんだから。」
「おい唯〜、許してくれよ〜。」
「じゃあ家まで唯の事おんぶして。」
「おっおんぶって、お前なぁ〜歳いくつだよ。」
少しあきれながら言う。
「うるさいな〜さっきぶつかった時に足ひねったの、淳平のせいなんだから。」
「あの時か悪かったな、じゃあおんぶしてやるから早く乗れよ。」
「・・・うん」
朝六時
いつもなら人も歩いている時間なのに、二人のまわりだけ魔法がかかったかのように人はおろか車も一台もいなかった。
フワ〜ぴとっ
「冷てっ」
「わぁー雪だ〜。」
やはり天気予報というものは当てにならない。
九時から降るはずの予報はずれ雪、でもその雪のおかげでイルミネーションと合わさって幻想的な空間になる。
「ねぇ淳平憶えてる?私達が初めて会った時のこと。」
女性は雪を見てふと尋ねる。
「あぁ憶えてるよ、あの時もたしか雪降ってたな。」
「うん、雪が降っててそれで淳平滑ってころんで泣いてた。」
「・・・」
「それに高校受験のために久しぶりにこっちに帰って来た時も泣いてたよね。」
「あぁそうだな、西野にふられた後であきらめきれないで泣いてたんだったっけ。」
それきり二人の間に沈黙の時間が流れる。
話を切り出したのは男のほうだった。
「―――何か不思議だな・・・お前と会うときはいっつも冬のこの時期だもんな。」
「うん・・・」
「―――何かしんみりした会話になっちゃったね。」
明るく言う。
その言葉を最後にまた黙り込む二人。
でもこの静寂は決して嫌なものではない。
いつも隣にいて自分の事を誰よりもわかってくれていて守ってくれていた人。
久ぶりの再会。
今は言葉なんて必要無い。
ただ男の存在を傍で感じる事ができればそれでいい。
温かい背中、ただそのぬくもりを感じる事ができればそれでいい。
「―――淳平大好きだよ。」
ふとこぼれた言葉、誰にも聞こえないよう自分の気持ちを確認するように小さくつぶやく。
<好き>それは昔も言ったことがある言葉。
いろいろな意味を持っている言葉。
「ちょっちょっと、そんなにくっつくなよ。」
顔を赤らめながら男は言う。
「別にい〜じゃん、何か困る事でもあるの?」
「べっ別に困る事なんてねーよ。」
(言えね〜絶対に言えね〜よ、いろんなところにいろんな感触が・・・なんて。
全然会ってなかったからな知らない間にいっきに成長したな。)
「あっもしやHな事考えてたな。全くもうそーゆー所は変わってないんだから。」
「そっそんな事考えてなんかねーよ。少し重くなったって思っただけだよ。」
「ちょっとそれどーゆー意味よ。」
「だから、太ったんじゃないか?」
「ひどいそんな事レディーに向かって言う言葉」
「お前みたいな奴はレディーとは言わん。」
・
・
・
・
シャリッ・シャリッ・シャリッ
規則正しく鳴り響く音、薄く積もった雪の上。
成長し大人になったはずの二人の姿が、その時だけは昔と同じ真中淳平と南戸唯の姿にもどっていた。
何のへんてつもない日常、少しだけ・・・何かが変わり始めた。
END