東西逆転!? 6  - 小鈴 様




 つかさの心の声が、聞こえるはずもなく・・・

「はあ〜〜・・・・。」

 公園のベンチに腰を下ろし、失意の男子高校生は深くため息をつ

いた。

「くそっ、まさか綾さんに僕や真中よりも親しい男がいたと

は・・・・。僕の恋もここで終わりか」

 気づけば、視界がぼやけている。涙が頬に小川をつくり始めていた。

「フラれて泣かない奴がいるかよっ!」

 誰に対してか、言い訳がましく叫んだ。











 それでも、何とか涙をぬぐい、立ち上がったとき・・・

 公園に二人の男女が近づいてくるのが見えた。

 一人は金髪の美少女・・・あれはどこの制服だったっけ?

だが、男のほうを見たとたん・・・

(まっ、真中!?)

まさに真中淳平が、こっちに向かってくるではないか。

 反射的に天地は茂みに身を隠した。二人は、公園に入り、天地か

らやや離れたベンチに腰を下ろしている。

(やっぱり真中か・・・・。だけどあの女子は・・・?)

この間、約0.02秒・・・。

(ああ、確か西野さんとかいう・・・。真中め、二人でこんな穴場に・・・)

 時刻は夕方前だが、公園には子供一人いない。寂れた雰囲気が天

地の想像力を悪い方向へ刺激した。

(あの西野さんって子を、守ってあげねばならない事態がきっと起

こる・・・ような気がする。僕は女性の味方だから、見過ごすわけ

にはいかない!)

勝手に決め込むと、天地は茂みの中を音もなく移動していった。
















 一方・・・

(え〜〜〜と、どうすればいいんだ?)

当事者である淳平は、内心で頭を抱えていた。

(なんかいつもと違うから思わず呼び止めたけど、誰もいない公園

で二人っきりって)

 最初は、かわいい“つかさ”に見とれていた淳平だが、さすがに

異変に気づいたらしい。そこで、公園に誘ってみた。ここまでは上

出来だが、つかさ相手に、これまで一度だってリードしたことのな

い淳平である。

(西野がこんなに黙ってるなんて何があったんだ?やっぱり昨日の

ことが・・・。)

 もちろん“つかさ”、いや綾のほうもパニック状態である。

(あぁぁぁぁぁぁ、どうしよう。やっぱり不自然だったかなあ。で

も、西野さんのフリするなんて無理だよぉぉ・・)

 公園についてきてしまった以上、今更逃げることはできない。内

心で頭を抱えていた綾は、ようやくひとつ思いついた。

「そういえば、学祭の準備は進んでる?」

「えっ・・・・ああ」

「盛り上がると良いね!」

はにかみながらも“つかさ”は笑顔を向けた。淳平の鼓動が一気に

速まる。

「・・・大丈夫だよ。今回は、その・・・、西野が手伝ってくれた

し!」

「え??」

「だって、あの主人公役は、絶対西野しかできなかったと思うか

ら」

淳平の目が、まっすぐに“つかさ”を見つめた。

「・・・そ、そうやって言われるとはずかしいな」

「演技も初めてなのに、すごくってさ〜」

「・・・・・。」

「一緒にできて、本当によかったなって思ってる」


 心が言葉を紡ぎだし、言葉もまた心を紡ぐ。

 淳平自身も自覚していなかったつかさへの想いが、口から溢れ出

していく。

 だが、淳平は気づいていない。目の前の少女は、耳を塞ぎたい衝

動を、懸命に抑えていることを・・・。














 さて、天地は二人のそばの茂みから様子をうかがっている。

「くそっ、いったい何をはなしてるんだ?ここからじゃ、まだ聞こ

えないな」

さらに二人に近づいていく天地。

 そのとき、突然、天地は肩をつかまれ、引き戻されたのである。

「なっ・・・!!!」

ほぼ同時に口を塞がれ、天地はパニックに陥った。

「・・・・・・・っ!!!」

「ちょっ、ちょっと、静かにしなさいよ!みつかっちゃうでしょっ!!」

耳元に切迫した女の声。

はっきりと聞覚えがあった。

「きっ、北おっ・・・・・モガッ!!」

離れかけた手のひらが、再び口に押しつけられる。

「バカッ!!絞め殺すわよっ!!」

 軽く首を絞められ、天地は目をいっぱいに開いた。必死に首を縦

に振る。

 ようやくさつきは、天地を解放した。

「ハア、ハア・・・」

 呼吸を整える天地に見向きもせず、さつきは早くも茂みを移動

し、淳平たちのほうへ近づいていく。

 天地も急いで追いついて、

「北大路クン、君はいったい何を・・・?まさか、盗み聞きするつもりかっ!?」

「はぁ?!なによそれっ!!あんたも同じことしようとしてたくせに!!」

「ぼくがっ?!! 僕はただ西野さんに何かあったら大変だと思って・・・・」

「なにその苦しい言い訳!!どうせ真中の弱みを握って、東城さんを奪おうとか思ったんでしょっ!!」

「そっ、そんな下品なこと僕が考えるわけないだろっ!!」

「失礼ねっ!!下品とはなによっ!!!」

場所を忘れ、言い争いを始める二人。






「ちょっとまって!!!」







あたりに響いた声に、二人は口を閉じた。

「いっ、今の声、西野さんだよね?」

「あっ、ああ・・・。そのようだな」

天地とさつきは、淳平たちのほうを見た。




 淳平と“つかさ”は立ち上がって、お互いを見つめている。

「えっ・・・・?」

淳平の口から、間の抜けた声が漏れる。

「え・・・・え〜と、その・・・・」

“つかさ”は淳平から視線をはずし、後ずさりした。

「にし・・・」

「ごめんなさい!!!」

回れ右をして、“つかさ”は走り去っていった。


 淳平と動揺、天地とさつきも固まってしまった。

「今なにが起きたの?」

「さっ、さあ・・・」


 二人の存在にまったく気づかず、右手を前に伸ばしかけたまま、

淳平は凍っている。


 その瞳は、西野つかさの残像を映しているのみであった。





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