『WHEEL』 序章―無限の歪― - 光
様
カオス理論:初期条件によって以後の運動が一意に定まる系にお
いても、初期条件の僅かな差が長時間後に大きな違いを生じ、実際
上結果が予測できない。
この世のある一つの出来事は、この世のその他全ての出来事との
相関により生じる。風が吹けば桶屋が儲かるというあれである。い
つ何時、どんな些細なことが世の流れを変えているのかわからな
い。
“彼女”は、その流れをずっと見守ってきた。こんな言い方をす
れば、ある意味神のような存在に思うかもしれないが、彼女自身そ
んな自覚はないし、事実、神とも少し違う。時にあまりに不合理だ
と思うことがあれば手を加えはしたが、流れに歪みが生じたときに
修復を行うのが彼女の役目である。
ある時、彼女は小さなミスをする。とある場所に、本来ならあり
得ないはずの風を一つ吹かせてしまった。風一つと侮ってはいけな
い。彼女はその重みを誰よりも知っている。すぐさま修復箇所を探
した彼女だったが、ややあって、彼女は胸をなでおろす。特にこれ
といった変化が見られなかったからだ。時には、こんなこともあ
る。一つの事象が他に与える変化があまりにも微量過ぎ、様々な出
来事に分散してしまって、やがて何事もなかったのと同じになる。
しかし、初期条件の差が僅かでも、それは後に計り知れないほど大
きな違いとなる。
彼女の名前はディエス。今回のことは、彼女のミスと、それを発
見できなかったことにより起こった、些細な変化がもたらした、大
きな歪み・・・・・・・なのかもしれない。
「大体堅すぎんだよな、あの先生」
「応援してっから走りきれー!」
「そーだ、そーだ!女の子に興味もって何が悪いんだチクショ
ー!」
正直に言って、初めは馬鹿だと思っていた。受験を控えて、部活
も引退直前で、何でこんな下らないことに時間を使うんだ、って。
でも・・・
「ふぅん。真中っていうんだ・・」
言い切れるけど、カッコ良くはない。でも、罰で校庭走ってるだ
けなのに、こんなに応援してくれる人がいるんだなぁ。すごく不思
議。
マナカクン、もうすぐ4周か。山岡先生は、確か50周って言っ
てたよね。
「がんばれ!がんばれ真中!あと46周!!!」
ビュゥッ
「キャッ!」
うわっ!すごい風!砂が顔に当たって痛い!
「!?今、女の声しなかったか?」
・・・・・・・・・
「「あっ」」
「にっ、にっ、にっ・・・西野つかさちゃん!!!」
一陣の風が早めた、二人の出会い。これから、“彼女”の気付か
ないところで、少しずつ流れは狂い始める。
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