SS『遠い未来の近い夢』 - 光 様
いつも通りだ。
いつも通り、アタシは台所に立っている。
朝からこうしているのも、最近ではすっかり慣れてきたかな?ちょ
っとばかり大変じゃないわけではないけれど、愛する人のためと思
えば、自然、やる気も起きてくる。
でも、今日はいつも通りじゃないことが、一つだけ起きた。
キィ
(アレ?珍しいな。いつもアタシが起こすまで、絶対に起きないの
に・・・。)
あんな寝顔を見られるのは、アタシだけの特権だと思ってた。そ
の寝顔を見損なったんだから、早く笑顔で迎えてあげたかった。
でも、アタシは振り向かない。
だって、
その”彼”が、アタシに気づかれないように近付こうとしてるの
がすごくよくわかるから。
ぎゅうっ
ホラ、来た。
「今日は、随分早起きだね。」
「うん、なんとなく。」
後ろから抱きすくめられているせいで、アタシの手が止まったま
ま。
「ご飯の支度、できないんだけど?」
「ん、もうちょっと。」
わんぱく坊主め♪
「ところで、ウチのわんぱく坊主は?」
「今アタシに抱きついて、料理の邪魔してる。」
「俺のことかよ・・・。」
そういって苦笑いする彼。アタシも、クスクス笑が止まらなくな
る。
と、
ガチャ
あ、来た来た。もう一人のわんぱく坊主が。
「あらあら、もう起きたの?早いね〜。」
「ほら、おいで。」
腕を広げる彼の元に、近付いてくる。最近、やっと歩けるように
なったばかりの小さな足で、よたよたと。
「もう自分で歩けるもんな〜。良い子だね〜♪」
「♪♪♪」
彼に誉められて、とっても嬉しそう。
・・・・・・・
ずるい
ぎゅっ
「ん?」
ちょっとびっくりして、アタシを見る彼。アタシだって、甘えた
いんだもん。
「おいおい。自分の息子に嫉妬するなよ。」
「嫉妬じゃないもん。さっきの仕返しだもん。」
今だけ、アタシもわんぱく坊主・・・。
「つかさ!!!」
「ぴっ!?」
思わず出た変な声と同時に顔を挙げたアタシの目に映ったのは、
呆れ顔のトモコ。
「あ、アレ?」
「なぁ〜にが、”あれ?”よ。アンタ今、すごい顔で寝てたわ
よ?」
「す、凄い顔・・・って?」
「こーんな顔。」→( ̄∀ ̄)
あ、ホントだ。
「・・・って、なに人の寝顔ケータイで撮ってんのよ!」
「だって、可愛かったんだもん♪」
「なっ!?」
時々、わからなくなる。この親友の頭がどういう造りになってる
のか・・・。
「ねぇ、ねぇ。どんな夢見れば、あんな幸せそ〜、な顔で寝られる
の?♪」
(///)!!!
顔から火が出そう。
「コラ、トモコー!その写メ消去しろー!!」
「大丈夫、大丈夫!チェーンメールで回したらちゃんと消してあげ
るから♪」
「コラー!!!」
「あ、そうだ♪例の”彼”にも見せてあげよっか?」
「絶対ダメ!!!!!!!」
面白がるトモコと、必死になって追いかけてるアタシ。教室が無
人で本当に良かった。
後でわかったことだが、この日の夜
アタシは
彼と初めてのキスをした。
end