LETTER(仮題)二ページ目
8
胸元にある唯の頭を守るように手で軽く押さえつける。
(同じ匂いだ)
唯の髪の匂いは家にいたときと同じにおいがする。
シャンプーを変えないでいたことに驚く。
(唯、唯ぃ)
もっと匂いをかぎたかった、身体の奥まで届くように。
力を入れてなかった唯の頭にふれていた手にも自然と想いがこもる。
腕枕にしている腕も頭を乗せたまま内側に閉じてゆくき、幼さを残す肩にまわされた。
今や先程とは違い、自分の意思でしっかりと唯の華奢な身体を胸の内にしまいこんで離さない。
髪にキスをするように嗅いでゆく、つむじから前髪へと。
(いいにおいだ)
疼痛に似たものが全身を駆け巡り、甘美で熱い痺れが全身を包む
そのまま額にまぶたに唇で触れてゆく。
鼻先そして口元。ゆっくりとそこでとまり偶然を装うように軽く触れる。
(やわらかいなぁ)
顔の角度を変え再びキス、軽く吸いちゅっと音の出るキス。
軽く唇に挟んでみる。先程より強く吸ってみる。
唯の唇の輪郭を舌先でなぞってゆく。
次第に行為に熱を帯びてきて、とまらなくなる。
9
ついばむ間隔が短くなり息継ぎするように口を離すとはっきりと自らの唇を押し付ける。
(ゆい!)
力の加減も分からないまま、強引に押し付けるだけのキス。
互いの歯がぶつかり合い、唇に痛みが走る。
自らのそれが求める快楽に反応し、股間にある唯のふとももに擦りつける形となる。
「んーんんん」
息苦しさと痛みに身じろぐ唯。
寄り目になりながらそれがなんなのか見る。
近くにあり過ぎる真中の顔に焦点が合わない。
真中は、はっと我に返って引き剥がすように離れる。
「ふぁ、はあー」
やっと息が出来る。完全に目が覚める唯。
「苦しいよ淳平、どうしたの?」
不思議そうに腕の間から覗き込む。
「なんでも、ねぇよ」
今の気持ちを上手く表す言葉も、言い訳も思いつかない。
ただ胸は高鳴る。
そこに頬をよせる様に身を預けている唯には気付かれているだろうか。
言い捨てると顔をそむける。幼さを残す幼馴染の唯の顔を見る事は出来ない。
相手は唯なのだ悟られたくない。
この戸惑いを、この願望を。
10
最初に沈黙を破ったのは真中だった。この焦燥に耐えれない。
「唯、おまえ、そのぉ、キスしたことないよな」
我ながらバカな質問だと真中は思った。自分から奪っておいて女の子に聞いちゃいけないことだ。
「うん」こくりと頷く。
自分が今何をされたのかだんだんわかってきたのか、唯の頬が赤い。
(淳平、キスしたんだ)
(やっぱり、俺が初めてになっちまった)
激しい後悔と自責の念が湧き上がる。顔が急速に曇ってゆくのが自分でもわかる。
(唯相手になにしてんだ、俺って)
「淳平、なに悩んでるの」
「でも、悪いことだよな、ごめ・・・」
「あやまらないでよ、悪いことなの?」
途中で遮る。謝られてもこまる。嫌というわけじゃない火照った触感が唇に、火傷したように残る。
(あたしだけ、かわらないのかなあ)
幼馴染のいつまでも子供であった頃とは違う、しっかりとした腕、広い胸板、高い背、低い声。
その胸の中に納まってしまう、五年前と比べて変らない自分。
真中の方が経験はあるだろう。好きな人がいるのだから。
しかし未だ誰が一番好きなのかもハッキリしない真中なのだが。
でもさしたる疑問じゃない。
淳平との関係はそんなことで変わらない、変えようのないことは自分が良く知っていた。
11
「あの、俺は」
「気にしなくていいよ」
続ける言い訳の言葉を唯はやさしくきっぱりとさえぎる。
「お前、わかって言ってんのか」
「んー、よくわからないけど、淳平のしたい事だったらいいよ、私かまわない」
「ばか、それはお前なぁ」
「今日ね来てくれてすごくうれしかった、たくさんお話しできて、また一緒にご飯も食べたし、同じ部屋で布団で寝れてうれしかったの」
「唯」
真中の頬に手で触れる。その手もやはり暖かかった。
「変な顔!泣かないでよ。ねえ、じゅんぺー、淳平の好きなことならなんでもいいよう」
唯は言い切った。真っ直ぐ見つめる瞳は澄んで深い冬の大気のようだ。
なにも映されてはいない、真中以外は。
12
真中は頬にある手を胸に持っていき唯の小さな手をしっかりと握る。
「唯、いいのか?」
暖かい気持ちに包まれ、それでも相手が唯だということに照れながら胸の中の少女を見た。
「じゅんぺー」
普段と変わらない声。
唯はそれが何を意味するのか本当に分かっているのだろうか。
拒絶の声は上がらない、ただやさしく名を呼ばれるだけ。
見詰めあう瞳には今や目の前の相手しか見えない。
「うん、いいよ」
こくんと頷くその振動が胸の鼓動を直接打ちつける。
変わらない匂い、変わらない微笑、胸の中の少女は微笑んでいた。
ドクン、ドクンと高鳴りが耳を塞ぎ、全身がカッと燃え盛る。
「ゆいぃっ」
ぎゅっと硬く抱き寄せる。この瞬間を逃したくない。
吸い寄せられるようにお互いの鼻先が、そして唇が重なりあう。
押し付けるだけのキスから次第に唇は開き、真中の熱い舌先が唇を割って唯の中に侵入してくる。
舌先が唯の前歯をなぞる。
「んん、ん」
「ううぅ」
同時に二人はうめくと唯は真中を深く受け入れる為、自らの舌先で迎え入れた。