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西野つかさ [まほろば掲示板0ch] “SS(ショートストーリー)は突然に”より

つかさマジックスイート

夏休みの西野つかさはバイトから帰るとおつかいを頼まれ、
夜の公園近くを歩いていた。
公園を何気なく覗くと、光るものと唸る声がする。
ネコか何かだと思ったが少し違和感を感じて、
コンビニの袋をぶらぶらさせ立ち止まる。
よく見ると砂場に人影がある、誰かがうずくまっているらしい。
苦しそうな声・・・つかさは急いで公園へ入った。

「大丈夫ですか?」
「う〜ん、苦しい・・・見つけてもらえませんかのう」
人影は初老の女性でかなり小柄だった、何か探し物をしているらしい。
「薬か何かですか? お探ししますよ?」
「ならお願いしようかのう、それにはその姿では探せぬぞえ」
「え? 姿?」
特別変な格好ではない、
ぴっちりとした短パンにタンクトップというかなり涼しげな格好だ。
「△△を、○○を探して欲しい」
「あのーもう一度お願いします、よく聞こえなかったから・・・」
(よくわからないわ・・・この言葉もしかして外国語かしら)
「**じゃよ、■■とも言うぞえ、人の発音にするとむずかしいわい」
「え? 人の?」
「ええーい、まどろっこしい〜、この姿になれば簡単じゃぁあああ」
小首をかしげたままのつかさに向って、
小さな指揮棒のようなものを振り下ろすと、煙が立ち上がった。

ぼわわわわわ〜〜ん

小柄のわりに胸の大きな老婆は、胸を震わせてピョンピョン飛び上がる。
「おおお、やったぞついに!! ワシはもう変化できないから困っておったんじゃ、
これで安心して探せるぞな」
「にゃにぃをにゃすのにゃ〜」
晴れた煙の中には、ビクターの犬の様に首をかしげた純白の毛並みのネコがいた。
「にゃっ、にゃぁあああああああ」
「むふふふふ、さて、探してもらおうかのう、それよりも魔法を使うと眠いんじゃ〜たまらん、
少し寝るから待っておれ、ふわわわわ〜」
大きなあくびをすると、遊具の中に入っていく。
土管の中のようなスペースに身を横たえるとステッキを一振り、
カーテンが表れるとシャーッと閉じてしまった、向こうが透けてあっという間に姿が見えない。
「にゃぁああああああ、にゃっにゃっにゃーーーーーっ」
「ええいうるさいのう〜、探し物を探したらといてやるぞえ安心おし、朝には目が覚めるじゃろうて・・・
まあ、寝すぎて10年ぶりに目が覚めたんじゃが・・・ふぁ〜」
「にゃんにゃってー」

親切心から大きな絶望へ落ちていた。
グリーンに透き通る瞳は大きく見開かれ涙が一杯たまっていた。
三日月の形をした瞳孔はその瞳の色が映え、月と街灯が照らす世界を映していた。
「にゃぁぁぁ〜・・・」
小さなネコから大きな溜息が出る、もしや誰も先ほどの少女だとは気付かない。
このまま待っていても家族に心配かけるだけだ・・・老婆が起きるまでに家に連絡しよう、
それにお母さんならわかるかもしれない、一縷の望みをかけて公園から飛び出した。

ぐるるるるる〜

背後から唸り声が・・・慌てて振り返るとそこには赤い目が二つ・・・
「ぴにゃああああ」
慌てて公園の木に登るつかさ、いや今はネコだ。
うおおん、くんくん、くん?
つかさが持っていた買い物袋を漁る犬、首輪がついている、公園内で放しているのだ。
人を襲わなくても、猫となれば別なのだ。

(ど、どうしよう・・・公園から出れない・・・その前に木から降りれない・・・)
「ふにゃぁ・・・」
犬以外にも危険が一杯だろう、家は遠すぎる。
一番近い知り合いの家、真中のうちでも今の姿だったらきついものがある・・・
おとなしく木の上で朝まで待とう・・・金色の髭を下げあきらめていた。

ざっざっざっ
聞いたことのある歩調、息遣い、鼻歌。
ネコだからこそ敏感に聞こえるその気配。
(やったー淳平くんだわ!!!)
公園入り口に差し掛かったリュック姿の少年に飛びついた。
「にゃにゃにゃーにゃっ、ゴロゴロゴロゴロ・・・・」
「おわわわわわわ、何?なんだ? ネコ? なついてるなあ」
胸元にくるんとおさまる白いネコ。
「よしよし、食べ物欲しいのかな? マンションにつれて帰るわけ行かないし、
 ご飯も持ってねーし、ごめんな」
「うにゃにゃ?」
ベンチに下ろされてしまう。
(え〜、そ、そんなあ・・・気付いてよ淳平くん!!)
再び胸元まで飛び乗る、つかさは必死だ。
「わっ、好かれちゃったか・・・うーん、一晩くらいなら大丈夫かな?
 よーし、家に帰ったらミルク飲ませてやるから大人しくしてるんだぞ」
「なぁ〜ん、ゴロゴロゴロゴロ」
スッポリと胸におさまったままつかさは真中の家に行くこと成功した。


真中は自分の部屋にミルクを入れた小皿を持って来ると飲ませた。
「おいしいか?よしよし」
「うなぁーん、にゃんなにゃぁああんにゃ、にゃににゃに・・・」
翻訳『あのね、変なおばぁさんにね、いきなり・・・』
「夜だから静かにしてくれよ、ばれちゃうだろう」
「・・・にゃ・・・」
がっくりと肩を落とすつかさ、説明しようにも喋っちゃいけないならどうしようもない、
その前にネコ語が伝わればの話なのだが。
「ちゃんと返事したような、頭いいみたいだなあ、
 動物って今まで飼えないからあんまり触ったことないけど、
 かわいいんだなあ、こちょこちょ、かわいいなあ」
「ゴロゴロゴロゴロ、んなぁ〜・・・」
(気持ちいい〜このままでもいいかも・・・いけないいけないどうにかしないと!)
はっと気付くと目の前には真中の顔があった。
「目の色は誰かさんにそっくりだ、きれいな色だよなあ」
「なぁ」
ざらり
鼻先を嬉しさのあまり舐めた、猫の舌特有のざらざらが真中の鼻をくすぐる。
「ひゃっ、くすぐったいな、本当に人になれてる、捨てられたんだろうなかわいそうに・・・
 こんなにかわいいのに、さあもう寝よう・・・お前も一緒に寝ようか」
「にゃ?!」
真中は子猫を胸にしまうように抱きしめたままベットに入った。


「よーしよし、おやすみ」
抱きしめるように胸の中へ、大事なものを収めるように包む。
(淳平くんの顔がこんなに近くにある、それにとってもやさしい、
 あたたかいなあ、淳平くんのこと・・・もっと・・・)
胸の鼓動を感じてうっとりとする、もっと触れていたい、そーっと真中の口元につかさは口を近づけた。
ふぁっはっくしょーんっ
大きなくしゃみ、つかさの金色のヒゲが真中の鼻に入ってしまったのだ。

「ふぁ、ぐすぐす、ヒゲかあ、鼻に鼻を近づけたんだな〜、しかしホントにお前の瞳の色って似てるよな・・・」
「・・・」
「・・・西野・・・いまどうしてっかな・・・寝てるよな普通」
(ここにいるよ)
心の中にこだまする、伝わりそうで伝わらない、まるでいつもの様に。
「お前見てると思い出すよ、こーんなに間近に顔があって・・・それでも出来なかったけどな」
「・・・」
「今なら、今いるなら、あの時出来なかったことが出来るかもしれない、
 彼氏でもなんでもないから、しちゃいけないんだろうけどさ」
「・・・」
「おまえだから言ったんだぜ、内緒な、なんて、ネコ相手になに言ってんだか・・・ははは・・・」
(淳平くん、ここにいるよ)
(・・・西野・・・ホントに西野に思えてきた・・・瞳が・・・吸い込まれる・・・)

「・・・」
「・・・」

キスする五秒前・・・真中は自然と目を閉じた、
雰囲気に飲まれたように、本物の西野つかさを相手にするように。

金のヒゲ゛ぴくぴくしている。
小さな口と大きな口が重なる。

ちゅっ

ぼわわわわわわわ〜〜ん

「な、なに、なんだぁあああああ」
「きゃっまたけむりが・・・ふう、朝まで時間があるから寝ようっと、すりすり」
「あわわわわわ、ここにいて欲しいとか思ってたら、キスしたいと思ってたら・・・腰が抜けた・・・
 おわっすりすりなんてされたら・・・西野とりあえず離れて!!」
「え、にゃーにって・・・えっ、ええええ、変身とけてる〜やったー」
ぎゅーっと抱きつくつかさ、嬉しくて真中がジタバタもがくのもお構いなしだ。
「・・・西野・・・そんなことされたら俺・・・」
身体を引き離そうとしてた腕はつかさの背中でクロスする。
夜中のベットの中固く二人は抱きしめあって・・・

がちゃ

「なに夜中に騒いでるの? 近所迷惑だから寝な・・・・さい・・・西野さん?」
「わっ、ええとっ、こんばんはっ」
飛び起きて正座するつかさ、ぽかーんと口が開いたままの真中。
「お、お邪魔してごめんなさい、ごめんなさい、仲良くね、おやすみっ」
「あ、はい、おやすみなさい」
ペコペコ頭を下げる真中の母とつかさ、こんな場面で丁重な挨拶をしようと必死だ。

バタンッ パタハタパタ・・・

「あ、母さん・・・絶対誤解したよな・・・あれは・・・誤解するような事してないのに・・・」
「誤解じゃなきゃいいんじゃないかな? 」
「それは、そのう、えっ・・・いいの?」
「・・・聞いたんだから・・・淳平くんの気持ち・・・今度は私の番ね!」
「しっかし、いつも突然だけとこんなのありかよ〜」
「それはねえ・・・うふふふふ、朝まで時間はあるよ、ゆっくり説明するね ・・・その前に、ねえ
 ・・・人間の姿に戻ったんだもん、もう一度・・・」
「・・・西野・・・うん・・・んっ」
「んーっ」


早朝、朝日の下で背の低いバーさんはニコニコしてブランコを漕いでいた。
「寝てる間に手に入るとは良かった良かった、これで力が出たわい、
 元の姿に戻れるし、久しぶりに家に帰ることができるのう」
ブランコから勢いよく飛び出すと、そこには人影はなく黒い影が一つ。
耳をピンと貼り、真っ黒なネコが真っ直ぐ街道を走り抜けた。
「ありふれていて当たり前に見えても、手に入らないものが多すぎるにゃぁ・・・」

ネコの独り言は誰にも届かなかった。
しかし手に入れた二人は今も温かなベットの上で実感していることだろう。
二度と失うことのない絆とともに。


-完-


追伸

当分の間、つかさは猫耳が出たり引っ込んだりしていた。
頭に白い耳がピンと立っていると、トモコに引っ張られるのはご愛嬌で、
真中の家に行くと舌先でくすぐられるのも、いまや習慣だったりする。

美しいのは三日月の形の瞳孔の瞳で、真中はいつも吸い込まれて、
知らぬうちに唇を合わせてしまうのも、もはや周囲の事実で、場所を選ばない。

高校最後の暑い夏が来た。
周りの人間はもっと熱く感じてるんだろうけど、夏休みはまだ終らないのだった・・・。