「Last smile」 2
「うわー、スゴイいきおいで雲がひろがってるよー」
荷台の唯は刈り取った草の上に寝そべり、
360度広がっている頭上の空を眺めている。
真中に吹き付けていた風が、湿り気お帯びたものとなる。
吹き出た汗が引かずに、ズボンやシャツを雨に打たれたかのように、濡らしていく。
「おーこれは・・・くるな」
雷雲に急き立てられスピードを上げる真中。
しかし、道には無数の凸凹が・・・
ごどんどん、ごどごどどががん
路傍の石に乗り上げるたびに唯の身体がはねる。
「きゃ、もっとやさしくしてよー」
「できるかよ、雷がきてるんだぞ、置いていくぞ」
(くそー大八車で草と唯を乗せてそんなに早く走れるかよ)
雷雲は間近に迫り、その正体を明かそうとしている。
風はイオンを含んだ特有のにおいを運び、霊気にも似た雰囲気が迫る。
盛大に夏を謳歌していた虫たちの声も、いつの間にやら途絶えている。
ごごごうん、どどおん、ごんごん
雲の端がきらめく。
その雲の下は枝垂れたように、雲が地上まで垂れている。
豪雨だ。
「うおおおおっ、間に合うかぁああっ、おおおおお」
道のはるか先に森が見え、そこには大きな鳥居が見える。
全力で引く。
「唯も手伝うよ」
ちょこんと降り、台車を押す。
幾分軽くなったそれはスピードを上げ、あぜ道を疾走する。
がらがらがらごんがんがらぐら
真中の背にぼたっと大きな雨粒が落ちる。
身近に迫ったそれに成す術もない。
「ええーい、置いていくぞ」
ヤカンとスイカが入ったかごを持つと、大八車を路肩に放置し、
前方に見える鳥居の奥の社を目指す。
「ま、まってー」
ずあーばばばばばばばばばぁあああああああ
空は暗転し世界が塗り変る。
音と光が交錯し、雨で全てを遮断されてしまう世界に。
かっ
閃光が目を焼き眩ませる。
ぱっん
高音が大気を震わせ、その後に低音が大地を振るわせる。
轟く大気。
どごごごごごん
「きゃぁあああああ」
耳を塞ぎ悲鳴を上げても、自然の猛威の前では無意味だ。
精一杯のそれは雨音でかき消され、目の前の真中にさえ届かない。