regret-24 takaci様

夏の日差しが照り付ける。





国産車ディーラーの自動扉がスッと開いた。





「いらっしゃいませ。あ、西野さん」





サービスフロントの女性が笑顔で迎える。





「こんにちは。ウチの子の整備終わってます?」





「はい。ただいま用意しますので少々お待ち下さい」





そして、ブルーのスポーツカーが横付けされた。





つかさから笑みがこぼれる。





Z34型フェアレディZ。





日本国内でのつかさの愛車だった。





「ありがとうございました」





フロントの女性が笑顔で見送る中、つかさは愛車に乗ってディーラーをあとにした。





「へえ、Zに美女か、絵になるな。でもあんな美人ウチのお客にいたっけ?」





店長らしき人物が顔を出してきた。





「西野さんは普段はフランスで、たまに日本に帰ってくるときに足として使うんです。だから普段は置いたままなんでこうして帰って来ると整備に出すんですよ」





「なるほどね。道理で記憶にないわけだ。けど乗りっぱなしのお客が多い中で、あの子はしっかりしてるねえ」





つかさに好印象を抱く店長だった。











舞台は再び田舎の海沿いの町へ。





陽もすっかり落ちた闇の中で、色とりどりの光が舞い散る。





「きゃあきゃあ!」





「あはははは!」





浜辺で秀一郎たちは花火を楽しんでいた。





一日海で遊び切ったが若い身体は疲れ知らずで、ハイテンションを保っていた。





火薬の匂いと潮風が心地よい。





夏だと実感していた。





奈緒が正弘にロケット花火を向けている。





逃げる正弘に追う奈緒。





それを一同が笑いながら眺めている。





奈緒はこの中で末っ子的な立場になり、わがまま言い放題だった。





秀一郎的にはちょっとわがままが過ぎるかなと感じてはいたが、ほとんどの面々がそれを楽しんでいるようなので静観していた。





その被害を大半は正弘が被っていたのは少し心苦しくはあったが。





ただそれよりも、





「桐山、楽しそうだな」





沙織が笑顔を見せていたことが嬉しかった。





「うん、楽しいよ。でも奈緒ちゃんってホント純粋でいい子だね。天真爛漫って感じ」





「まあ、わがままばっかで申し訳なくはあるけど、根は悪くないんだよ。もう少し自重して欲しいけどな」





「でも、あれが奈緒ちゃん本来の姿でしょ?」





「まあ、な」





苦笑いを浮かべる秀一郎。





「あたし、気にしてたんだ。この前の件で奈緒ちゃん傷つけちゃった。そのせいで笑えなくなったらどうしようって」





「桐山がそこまで気にすることはないよ。あれは仕方のないことだったし、それにもう済んだことだ。ああして奈緒も立ち直ってるからさ」





「ありがとう、佐伯くんって優しいよね」





「そ、そうかな?」





沙織に笑顔を向けられて思わず照れる秀一郎だった。











「お、リツじゃねえか」





聞き慣れない男の声が届く。





気になって目を向けると、里津子に3人組の男たちが声をかけていた。





暗くてよく見えないが、それでもあまりガラはよさそうではない。





しかも里津子はかなり嫌悪感を見せている。





隣の沙織の表情も曇る。





嫌な感じがしたので、里津子の側に寄った。





「御崎、知り合いか?」





「まあ、一応ね。こんな奴を知ってるなんて忘れてたいけど」





刺のある里津子の言葉から相当嫌っているのがわかる。





「おいおいつれないなあ里津よお!昔は楽しくツルんでたじゃねえかよ!」





男のひとりが突っ掛かかってきた。





「それは大昔の子供の話よ。あんたとあたし、もう交わることはないしあたしは近寄りたくもないし友達に知られたくもない。あたしはあんたが嫌いなの。わかった?ならさっさと消えなさ

い」





冷たくあしらい、男たちに背を向ける。





「おいおい、久しぶりだってえのに、随分冷たいじゃねえかよ」





男が里津子の肩を掴んだ。





里津子の顔が歪む。





さすがに我慢ならずに、その男の手を掴もうと腕を伸ばす。





だが秀一郎の腕が届く少し前に、別のか細い手が男の手首を掴んだ。





「痛え!」





男から悲鳴が出る。





「ちょっと馴れ馴れし過ぎます。それとも痴漢で訴えましょうか?」





真緒が、怒りが込められた眼差しで男の手首を締め上げていた。





「くそっ!」





男が乱暴に真緒の手を振り払うと、少し距離を取った。





「おい嬢ちゃん、あんた世間知らねえようだな!このまま帰さねえぞ!」





「少し痛い目見てもらおうか」





もうひとり男が出てきた。





ふたりで凄みを効かす。





それに対し、秀一郎と真緒が一歩踏み出た。





負けずにガンを飛ばす。





「へえ、お前らがやるってんのか?馬鹿じゃねえかこいつら?」





「後で詫び入れたいってのは聞かねえぜ!」





軽く笑い飛ばす感じの口調に変わった。





「真緒ちゃん、どうするこいつら?避けようがない気もするけど」





「口だけは達者のようですが、中身は伴ってないみたいですね。軽く揺さ振って様子を見ましょう」





「了解」





「へっ、逃げる算段か?逃がさねえぞ!」





「オラァ!」





男ふたりが向かってきた。





秀一郎、真緒がそれぞれ呼応する。





ふたつの影が交錯する。











「うっ?」





「げっ?」





うろたえる男たち。





秀一郎は男のパンチをかわして鼻先にクロスカウンターを、





真緒も背後に回って踵を男の首筋に、





それぞれ寸止めで入れていた。





「どうします?次は止めませんよ」





真緒が凄みを効かすと、男ふたりは一気に引いた。





「な、なんだこいつら・・・」





「ちくしょう、里津の奴・・・」











「ふっ、はははははっ!」





ここで、ずっと黙っていた3人目の男が突然笑い声をあげた。





「さ、桜田さんが・・・」





「ど、どうしたんすか?」





どうやらこの桜田という男がこの中のリーダーのようだ。





嫌な笑みを浮かべ、前に出てきた。





「どうやら久しぶりに楽しめる相手に出会えたようだな。ここいらじゃすっかり遊び相手がいなくてよお」





この男は前のふたりとは異なり、虚勢を張ったり威嚇するようなそぶりは見せない。





だが、物凄い威圧感があった。





ガタイもよく、素人目でもケンカが強そうに見える。





(こいつは、ヤバい。でも・・・)





こみ上がる恐怖を理性で押さえ込み、一歩踏み出した。





「おい、テメエに用はねえ。俺の相手は後ろの女だ」





「なに?」





男は冷たい表情で秀一郎を無視し、背後の真緒を睨んでいた。





そして真緒もそれに呼応する。





「センパイは下がっててください」





真緒も男を睨んだまま、秀一郎には目を向けずに一歩踏み出した。





「真緒ちゃん待て、きみが強いのはわかってる。けどあいつをひとりで相手にするのは厳しいよ」





「そうですね。気を抜いたら一瞬で終わるでしょう。でもそれは向こうも同じはずです。あたしは大丈夫ですから、センパイはみんなを頼みます」





止めようとする秀一郎にそう告げると、真緒は男の前に立った。





大柄の男と小柄な真緒。





明らかな体格差があった。





「お嬢ちゃん、あんたに怨みはねえが、これも何かの縁だ。タイマンでケリ付けようぜ」





「あたしもあなたに怨みはありませんが、避けようのない戦いのようですね。手を抜くわけにはいかないので、大きな怪我を負わせるかもしれません。その時は許して下さい」





「へっ、それは俺も同じだ。女だからって手加減はしねえ。けど気に入ったぜ。俺は桜田雄作だ。あんたは?」





「小崎真緒です」





「そうか、じゃあお互い自己紹介も終わったとこで、始めようぜ」





桜田が構えた。





真緒も構える。





空気が凍る。





秀一郎は静かに女子たちを集めて、その身を護るように前に立ち様子を伺う。





加勢したくても出来ない、真剣のタイマン勝負が、





始まった。













桜田が出る。





真緒も出た。





急接近する。





桜田の射程に入ったところで、正拳を放った。





だが真緒は素早くかわして懐に飛び込んだ。





外から見ると、異様な動きを見せる真緒。





たぶん桜田の視界からは消えているだろう。





真緒は速かった。





一瞬で桜田の背後に回り込み、





桜田が気付いたときには、





「はあっ!」





バキイイイッ!!





こめかみに強烈な回し蹴りを入れた。





その反動で桜田の身体は吹っ飛ぶ。





倒れたまま動かない。





「よしっ!」





秀一郎からも思わずガッツポーズが出た。





だが、





真緒は険しい表情を崩さない。





「随分と演技に長けているんですね。さっさと立ってください。あれくらいで倒れるあなたじゃないはずです」





(えっ?)





真緒の言葉に驚く秀一郎。





そしてその言葉を受けた桜田は、





「へへへっ、誤解するなよ。別に手加減したわけじゃねえ。俺は相手の一撃を喰らわないと調子が出なくてよ」





笑いながらゆらりと立った。





ダメージがあるようには見えない。





(な、なんて化け物なんだ。真緒ちゃんのあの蹴りを喰らって平然と立てるなんて・・・)






秀一郎は桜田にただならぬ脅威を覚えた。





さらに危機感も強くなる。





「行くぜ!」





桜田が飛び出してきた。





真緒も呼応する。





ふたりの真剣の組み手が展開される。





今度の桜田は速かった。





テンポよく動き、真緒の速度に対応しているように見える。





それを受けた真緒は少してこずっているように見えた。





「おい、女子はこの隙に逃げろ。ここは危ない」





秀一郎は背後の里津子にそう告げた。





「そんな、あたしのせいでこうなったんだよ。あたしのせいで真緒ちゃんが戦ってる。そんな真緒ちゃんを放って逃げるなんて・・・」





「気持ちはわかるがいまは堪えろ。真緒ちゃんが作ってくれてるこのチャンスを無駄にするな。ここは男に任せろ」





「そんな・・・でも・・・」





なかなか踏ん切りがつかない里津子。





「キャッ!お姉ちゃん?」





奈緒が悲鳴をあげる。





後ろを見ていた秀一郎もその声で目線を戻す。





「真緒ちゃん!」





嫌な光景だった。





桜田の一撃が決まり、真緒の身体が浮き上がっていた。







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