regret-22 takaci様

「わあ、きれいな砂浜だね〜」





「なかなかいい場所じゃないかよ」





「へへっ、いい所でしょ。さあ明日から存分に遊び倒そう!」





「おーっ!!」





男女10人の活きの良い声が響いた。










夏休み前、





「みんなで遊びに行くわよ!」





里津子が元気よく音頭をとる。





秀一郎たち男子5人組と里津子たち女子3人組が夏休みに海に遊びに行くというプランが持ち上がった。





電車で半日ほどの場所で、旅館は里津子の親戚が経営しているので格安、さらに地元の夏祭りと花火大会が楽しめるというなかなか豪華な内容である。





「なかなかいいプランだと思うけど、男5人に女3人ってのがなあ。どうせなら男女5人に出来ない?」





男子のひとりがそう言い出した。





すると里津子は自信満々の笑みで、





「大丈夫、そのあたりは抜かりないよ。ウチら3人に加えて1年の女子ふたりが頭数に入ってるから。双子のかわいい子だよ」





男子から歓喜の声が上がる。





(ん?双子?)





秀一郎は何か引っ掛かるものを感じ、





「おい御崎、その双子ってひょっとして・・・」





と尋ねると、





「そうだよ、真緒ちゃんと奈緒ちゃん。佐伯くんは彼女とラブラブ旅行ってわけ。うらやましいなあ」





実は先日の秀一郎の貸し出しの時に里津子と奈緒の間で今回の旅行が取引条件となっていた。





奈緒と真緒のふたりは格安のプランからさらに値引きという特別待遇を得ていた。





それをこの場で里津子から聞かされた秀一郎は、





「あいつ、ちゃっかりしてんなあ。でも大丈夫か?まだ凹んでるぞ」





呆れながらも恋人を気遣う。





この頃の奈緒はまだ事件のショックを引きずっており、学校にも行けずに自室に閉じこもったままだった。





里津子もその辺りの情報は耳に入っていたが、





「奈緒ちゃんと旅行の件でメールやり取りしてるけど、それまでには復活するって返って来たよ。行く気満々みたいな感じ。でも少し心配だから旅行までにちゃんと彼女フォローしてあげてね佐伯くん!」





特に心配していないようだった。





そしてその通りになり、集合場所に集まったときの奈緒はとても元気よくはしゃいでいた。





その様子を見てホッとしつつも、奈緒のタフさを感じた秀一郎は少し複雑だった。





奈緒は基本的にはあまり人見知りせずに積極的に話すほうなので、道中でこの場で初顔合わせとなる面々ともすぐに打ち解けて盛り上がっていた。





ただ、沙織と話す場面をほとんど見なかったのが少し気になったものの、こちらは真緒が相手をしていたので気まずい雰囲気を感じることはなかった。





それよりも秀一郎と奈緒は参加者で唯一の恋人同士なので、男女問わず様々な質問攻めの対応に追われてあまり気が回っていなかった。





目的地に着いた頃、秀一郎は綺麗な夕焼けに少し感動しつつも少し気疲れを感じていた。





「センパイ、少しお疲れですか?」





真緒が秀一郎のそんな様子に気付いて優しく声をかけてきた。





「ああ、ちょっとね。けど今夜休めば大丈夫だよ。真緒ちゃんもありがとうね。桐山の話し相手になってくれて」





「いえそんな、あたしは普通に桐山先輩と話をしてただけですよ」





「いや、桐山ってこういうみんなでワイワイ楽しむのが苦手みたいに聞いてたから、ちょっと気にしてたんだよ。それに奈緒とは相変わらず折り合い悪そうだし」





「でも、それは仕方ないんじゃないですか?」





「えっ、なんで?」





真緒がそう返して来るとは思わなかったので思わず聞き返す。





真緒は笑顔の中に少し悲しさが感じられるような笑みで、





「センパイって鈍いところありますよね」





と、小さな声で言った。





「えっ?」





「それに、周りに気を遣い過ぎだと思いますよ。それはセンパイのいい面なんですけど、もう少し自分の気持ちに正直になってもいいと思います」





「真緒ちゃん?」





秀一郎は真緒の言葉の意図が掴めない。





「何でもないです。気にしないで下さい。ほら、みんな先に行ってます。あたしたちも行きましょう」





真緒は先を行く友人たちを指し、いつもの笑顔で後を追う。





(女の子って、よくわからん)





秀一郎は首を軽く振り、真緒に続いた。










旅館はかなり立派な建物で中の造りも純和風、いかにも高そうな雰囲気が感じられた。





事前に聞いていた金額では完全に足が出る気がしたので、





「おい御崎、マジであの金額でいいのか?」





と思わず聞き返してしまった。





それを受けた里津子は至って余裕の笑みで、





「大丈夫大丈夫。あ、でもオフレコにしておいてね。ホント特別金額だから」





と小声で返すと、フロントに手続きに向かった。





秀一郎は金額から場末の民宿に毛が生えた程度だと思っていたので少し驚いていた。





他の面々も同じように感じているようで、キョロキョロと見回している。





「えっ、そうなんですか?どうしよう・・・」





突然、里津子が困ったような声をあげる。





「どうした?」





「あ、佐伯くん、実は予定してた部屋が埋まっちゃったんだよ」





「なんで?」





「実は安い料理の理由で、空き部屋を使うんだよ。でも5人泊まれる大部屋って滅多に使わないからそこを2部屋使う算段でいたんだけど、今日は団体さんが入って埋まってるんだって。で、空いてるのは4人部屋がふたつとふたり部屋がひとつ」





「4人部屋になんとか5人入れないのか?」





その問いにはフロントの女中が、





「すみません、お布団敷けないんです」





と申し訳なさそうに答えた。





「ってことは、この面子を4、4、2に分けるのか」





秀一郎と里津子は揃って全員を見回して、揃って困り顔を見せた。





「なんで悩んでるの?普通に分ければいいじゃない」





ここで秀一郎の隣で事情を聞いていた奈緒が至って普通の顔でそう言ってきた。





「お前なあ、普通ってどう分けるんだ?」





「だから、」





奈緒は秀一郎の側を離れると、





「こうと、」





秀一郎以外の男子4人を集め、





「こうと、」





自分以外の女子4人を集め、





「こう」





自分は秀一郎の腕を取った。





「ええ〜っ!?」





奈緒以外全員が驚きの声をあげる。





「ちょ、ちょっと奈緒ちゃん、いくら恋人同士でもそれは・・・いいの?」





そう尋ねる里津子の頬は少し赤い。





だが奈緒はケロッとした顔で、





「この状況ならこれが無難でしょ。男女一組同室になるならあたしらが同じ部屋が自然でしょ。同じ部屋で一晩過ごすのは慣れてるしね」





(お前、この状況でこんなことをサラっと言うなよな)





秀一郎は奈緒の神経の図太さに呆れつつ、他の面々からの視線が痛かった。





「でもこの中で他に男女ペアで一緒に過ごしたい人がいるならそれでもいいけど、どう?」





本気で皆にそう聞く奈緒に対し、





(お前はどういうつもりかわからんがこの状況でそんなこと言える奴なんて・・・)





いない、と心の中で突っ込もうとした秀一郎の前で、





「はいっ!俺!奈緒ちゃん以外の女子となら誰でも・・・ゲホァッ!?」





奈緒が正弘の顔面目掛けて自分の旅行鞄を正確無比に投げ付けたのを見て、





「あんたみたいなド変態エロ野郎なんかと一晩過ごせる女子なんているわけないでしょ!」





奈緒のいつものキツい言葉を聞きながら、





(若狭、お前って奴は・・・)





友人の言動に心底呆れていた。





この奈緒の行動が皆にかなりのインパクトを与えたようで、その後は奈緒に意見する者は誰もいなかった。





その後部屋に別れてひと風呂浴びたが、これまた立派な大浴場だったので驚かされ、





さらに広い座敷に並べられた夕飯も充分に豪華で立派なもので、相当リッチな気分を味わえた。





とにかく皆はこの旅館を用事した里津子に感謝しまくりで、里津子自身は鼻高々の様子だった。





風呂から出て腹が満たされると一日の疲れが出るようで、まだまだ若い面々だが長い長距離移動にその間は高いテンションを維持していた反動で半数ほどが疲れの色を表していた。





それで翌日に備えて早く休もうということになり、それぞれの部屋に解散となった。





「ふう、疲れたな」





奈緒とのふたり部屋は他の皆との4時人部屋とは離れたフロアにあり、どこか静かに感じる。





「ねえ秀、電気消してこっち来てよ」





奈緒が窓際のテラスから呼ぶ。





秀一郎は言われたままに明かりを消し、奈緒の側に寄った。





「へえ、綺麗な眺めだなあ」





「でしょ?」





夜の海。





美しい白浜と穏やかな波。





その先には港と思われる小さな光が瞬いている。





「なんかロマンチックだね。秀とふたりっきりでこんな景色、夢みたい」





奈緒はうっとりとして秀一郎の肩に小さな頭を寄せる。





秀一郎は奈緒の肩を抱き寄せた。





「あたし、今日はちょっと疲れた。なんかひとりだけ完全アウェーじゃない。余計な気を遣った感じがする」





「御崎たちとやたらハイテンションだったが、無理してたのか」





「うん、ちょっとね。やっぱり知らない人相手って疲れるよ。こうして秀と一緒にいられると落ち着くんだ。だから今夜はいっぱい甘えさせてね」





「おいおい、いくら違う部屋ってもみんないるんだぞ」





「そんなの関係ない。今はふたりっきり。しかもいつもとは違う場所。なんか素敵じゃない。それにみんなの前だからって遠慮はしたくない。堂々といつものようにして欲しい。じゃないと逆に不自然。だから秀もまわりは気にせずいつも通り・・・ううん、いつも以上にして欲しい」





甘い声でねだる奈緒。





秀一郎も若かった。





奈緒の甘い誘惑には逆らえない。





奈緒を抱き寄せ、そっと唇を重ね合わせた。






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