第一部「WEST GATE」 プロローグ スタンリー様

タイトル「扉の向こう側」




第一部「WEST GATE」


「プロローグ」


つかさがフランスから帰ってきた年の翌年の夏、淳平が休暇を取得し、つかさ

の高校時代の親友であるトモコの夫の両親が所有している避暑地○○村に

ある別荘に向かって淳平が車を運転している。


助手席には、つかさが座っている。




2人が乗っている車は舗装された山道を走っている。


前日までの雨のせいで山道の側溝から溢れた水が道路に流れている箇所がある。

水が流れているところを車が通るたびに水しぶきができる。


つかさがカーナビの画面を見ながら。

つかさ「あと少しで、別荘に着くみたい。」



淳平「家を出て4時間かぁ。途中休憩もあったけど久しぶりのロングドライブ

になったなぁ。

昨日までここら辺は大雨が降ったみたいだけど、今日は晴れてくれて助かった

よ。」


つかさが笑顔で。


つかさ「そうね。本当、ラッキーよね。」



淳平「ただ、山の空って変わりやすいっていうから、今晴れていても、急に

土砂降りってこともあるから。」



つかさ「そうなの?今日、ここら辺にある神社でお祭りがあるらしいから

お祭りが終わるまでは、雨が降らなきゃいいけど・・・ねぇ、天気予報って

知ってる?」



淳平「夕方ころまでは晴れみたいだけど、夜は大気が不安定になるかもって

さ。」



つかさ「お祭りには夜に行きたかったけど、少し早めに出かけたほうがよさそ

うだね。」



淳平「そうだな。」



つかさ「ここのところ、ずぅっと忙しそうだったのに、よく休みが取れたわね。」


淳平「この日のために、たまってた企業のCMとか芸能人とかのPV(プロモ

ーションビデオ)撮りとかを殺人的なスケージュールをこなしてきたからな。

まぁ、実際できなかった分は営業が先方にお願いして帰ったらやるってことで

話をつけておいてくれたはずだから。」



つかさ「CMとかPVとかって・・・、映画の方は?」



淳平「そっちの方は、主に角倉さんがやってるから。それにまだ長編の経験が

ないからさ、こと映画に関してはお手伝い程度かな。」



つかさ「そう・・・。」



淳平「知ってる?最近映画で○○製作委員会ってのをテロップなんかで見ると

思うけど、あれって複数のスポンサーを募って投資リスクを分散させて映画を

作ってるんだけどさ、実際できてから、いざ映画を上映しようと思っても上映

してくれる映画館がなくてお蔵入りした映画が数え切れないくらいあるんだ

ぜ。

そこにきてこの不景気だろ、スポンサーがなかなか集まらなくてさ、映画の制

作本数自体が減ってて、なかなか撮るチャンスがないっていうのもあるから。」



つかさ「大変なんだね。」



淳平「だからさ、今はCMとかPVとかをしっかりやって認められるものを作

って実力をつけて名前が売れたら、映画のスポンサーがついて、映画の話がく

るようになると思う。」



つかさ「どれくらいかかりそうなの?」



淳平「まだ、分からないけど・・・。」



つかさ「何か、近道とかないの?」



淳平「近道?うーん、よっぽど力のある俳優とか作家の指名とかコネがあれ

ば・・・だけどやっぱり実力がないのにそんな話とかないからさ。今ある仕事

をきっちりやるしかないと思うんだ。」


つかさ(力のある作家・・・・。)


つかさが4日前、偶然街で東城綾に会い二人で喫茶店に入った時の事を

思い出す。


――――――つかさの回想の始まり。―――――――


喫茶店の中でつかさと綾が同じテーブルに相対で座っている。

つかさ「久しぶりだね、東城さん。最後に会ったのは、高校三年の冬だったは

ずだからもう5年振りになるわね。」



綾「そうね、確か、真中君の受験の日だったかな。」



つかさ「そうだったね・・・あっ、大林賞受賞おめでとう。もう1年近く経っ

ちゃったけどテレビとか雑誌の取材とかでよく見かけるから、ますます人気が

出てきて忙しそうだね。」



綾「ありがとう。西野さんだってパティスリー鶴屋2号店の店長兼パティシエ

としていろいろな雑誌で取り上げられて、私以上に忙しそう。」



つかさ「雑誌のおかげで、お店はそれなりに活気はあるんだけど、でもそれは

私の実力じゃなくて日暮さんのおかげだと思うから・・・。」



綾「そんなことないよ。2号店限定のお菓子って、あれ殆ど西野さんのオリジ

ナルでしょう。

何度も食べさせてもらってるけど、本当に美味しいもん。」



つかさ「買ってくれてたんだ・・・それに、美味しいって言ってもらえて・・・

嬉しいな。」



綾「将来、独立とかを考えてるの?」



つかさ 「すぐにってわけじゃないんだけどね、小さくてもいいから自分のお店

を出したいなぁって。」



綾「あの頃と変わってないなぁ、何に対しても前向きで積極的っていう感じが。」



つかさ「変わってないかなぁ。そういう東城さんも変わってないみたいだけど。」



綾「ううん、私は変わった・・・あの雪の日から。」



つかさ「えっ?」



綾「引っ込み思案で、自分の気持ちを出さないようにして、いろいろなことに

躊躇して損をしてたからね。だから、できる限り積極的になれるよう努めて生

きてきたから以前の私を知っている人から今の私をみたら相当図々しくなった

と思うわ。」



つかさ「図々しく・・・あの東城さんが?想像できないな。」



綾「うふふ、そう?あと少し年をとって、したたかなところがでてきたかも・・・。」



つかさ「年をとったって言ってもまだ23歳でしょ。同じ年なんだから。」



綾「うふふ、・・・ねぇ、そういえば真中君、元気にしてる?」



つかさ「う・・・うん。」



綾「気を使わないで、もう5年も前のことなんだし。

そうそう、今度ね、雑誌のTVコマーシャルに私が出演することになったんだけ

ど、それを角倉監督の事務所が撮ることになったみたいなの。もしかしたら、

真中君が撮る事になるかもしれないの。」


つかさ(淳平君が角倉さんの所で働いているのを知ってるんだ。)

つかさ「そう・・・淳平君は元気だよ。でも仕事で忙しくてなかなか会えない

んだけどね。

ところで、失礼なことを聞くかもしれないけどいい?」



綾「どうぞ。」



つかさ「今お付き合いしている方っているの?」



綾「ううん、仕事のせいにしちゃいけないけど、小説や講演が忙しくてね、な

かなか出会いとか縁がなくて。」



つかさ「変なことを聞いちゃったかな。」



綾「いいのよ、この年になって付き合っている人がいないのは他人から見た

ら、寂しそうに見えるだろうからね。

でも夢を実現するために今の小説の仕事を選んで頑張ってるんだから。」



つかさ「そう・・・夢って一体どんな?」


綾が笑顔で。

綾「笑わないでね。高校時代に真中君と約束したことなんだけどね。私の作品

で一緒に映画を作ることなの。」



つかさ「・・・・」


―――――――つかさの回想終わり。――――――――――




淳平「どうかした?急に無口になったりして。」



つかさ「えっ?ちょっと考え事をしちゃって・・・。」



淳平「そう・・・・。」



つかさ「ねえ、誰か有名人のCMとかPVとかは撮ったことってないの?」




淳平「有名人?ああ、ポルターガイアっていう音楽グループがあるんだけど

知ってる?

この前そこのグループのPVを作ったら、ボーカルのTAKUTOさんに気に入っ

てもらえてさ、また次も頼むって言われてるんだぜ。」



つかさ「あの人気ロックグループの?凄いじゃない。」



淳平「まあな。」



つかさ「他は?これから撮る予定とかも含めて。」



淳平「あまりまだ有名じゃないアイドル歌手とかなら他にもいるけど・・・。」



つかさ「有名な作家さんとかは?」



淳平「作家?うーん、ないなぁ。でも、何で?」



つかさ「特に意味はないけど・・・なんとなくね。」



別荘地に車が入り、カーナビの画面上にある自車位置が目的地付近に近づいて

いる。



淳平がカーナビの画面を見て。


淳平「目的地に近いみたいだけど、どれが目的の別荘なんだ、なんだか皆同じ

様な建物ばかりでわかんねぇよ。」



つかさ「少し車を横に寄せて、携帯でトモコにどこか聞いてみるから。」



つかさが携帯でトモコに電話をしてどの別荘なのかを聞いている。


つかさ「私、お掃除ご苦労様ぁ・・・うん、今××って言うところの辺にいる

んだけど・・・

そう・・・○○交差点を右に曲がって、3つ目の建物ね。駐車場のところに看

板があるんだ・・・・・外に出て待っててくれるの?助かるわ、ありがとう。」


つかさが携帯の通話を切る。



つさ「この先の・・・。」



淳平「○○交差点を右折して、三軒目の建物があって近くに看板があるんだろ

う?」



つかさ「うん、それでね、トモコが外に出て立っててくれるって。」


淳平が○○交差点を右折し、速度を遅めながら運転している。


「ようこそ○○村へ」と書いてある看板の前で手を振っている女性がいる。


つかさがその女性を見て。

つかさ「3っつめだから・・・。あっ、トモコだ。ねぇ、あの別荘だからね。」



淳平「分かった。」


淳平がウィンカーを出し、車を別荘の前の駐車場に停める。


つかさ「運転、お疲れ様。」

つかさがドアを開けて車から降りる。


トモコが笑顔でつかさに歩み寄って抱きつく。

トモコ「ひさしぶり。元気だった?」


つかさがトモコの腕を振り解きながら。

つかさ「久しぶりって、ほんの5日前にあんたの家で会ったったばかりじゃん。」



トモコ「そうだっけ?アハハ」



つかさ「旦那さんは?車が駐車場にないみたいだけど?」



ともこ「ちょっと、買い出しにね。」



つかさ「涼しいわねぇ、10度くらいは気温が違うんじゃない。半袖の服だと

少し寒いぐらい。」



トモコ「この季節にここに来ちゃうとムシムシした家には帰りたくなくなっち

ゃうわね。」


淳平が車のトランクを開けて、ビールや荷物が入ったバッグを取り出して、ト

ランクを閉める。


つかさ「こっちのバッグを持つよ。」


淳平「助かるよ。」


淳平とつかさが荷物をもち歩く。

トモコが別荘のドアを開ける。



淳平がトモコに対してどこかよそよそしく。


淳平「これ飲み物とビール。」



トモコ「運転お疲れ様、淳平君。」



トモコが淳平に近づき小声で。

トモコ「感心、感心、約束を忘れなかったみたいね。」



つかさ「約束?」



トモコ「何でもない、何でもない、こちらの話だから。」



つかさ「そう・・・、これ家で焼いてきたんだけどアップルパイ。」



トモコ「わぁ、自家製だよね。つかさが作ったのって美味しいから楽しみ。

それと、淳平君、飲み物は冷やしておくから、そこに置いておいて。」



淳平が飲み物とビールを指定された場所に置く。



つかさ「今日は誘ってくれてありがとね。でもお邪魔じゃなかった?」



トモコ「気にしなくてもいいって。ここに来るのも、もう3回目だしね。

夏は避暑地として使えるし、ゲレンデが近くにあるから冬になればスキー

とかボードができるからね、・・・いい所でしょ。」



つかさ「本当ね。いいひと、見つけたわね。」



トモコが満足げに。

トモコ「そう思う?」



つかさ「うん。」



別荘の裏側は木が茂ってい十数メートルさきは山を削った斜面になっている。

別荘のドアの上にお札が貼ってあるが誰も気が付かず全員別荘の中に入った。




第一部「WEST GATE」 第一話

第一話



ともこが別荘内を説明している。


ともこ「部屋は私と隆志(トモコの夫の名前)で掃除しておいたから。」


三人で二階へ行ったとき隆志の車が駐車場に入る。

ともこ「あっ、帰ってきたみたい。」


少しして、隆志が別荘に入って二階に上がって来る。


つかさ「隆志さん、ご無沙汰してます。」


隆志「やぁ、つかさちゃん久しぶり・・・と・・・。」



淳平「あっ、真中、真中淳平って言います。」



隆志「そうそう、真中淳平君だね。話はトモコとつかさちゃんから聞いている

から。

僕は、加藤隆志です。」



淳平「隆志さん、お世話になります。」


隆志が寝室のドアを開ける。

隆志「ここが寝室。一応親が使ってる部屋だけど、中にある物は使っても

らっていいから。」


ベッドが二つならんでいる。

つかさ「わぁ、広い部屋だねぇ。本当にいいの?」



隆志「ほとんど使ってないからね。クローゼットに布団とシーツがあると

思うから寝る前にセッティングして使ってね。」



つかさ「うん。」



トモコ「今晩近くの神社で祭りがあるけど、夕方から天気がどうなるか分か

らないから、4時になったら、行くことにしよ。」



つかさ「さっき車の中で話してたのよ、楽しみだね、淳平君」



淳平「・・・そうだな。」



つかさ「どうしたの?」



淳平「運転でちょっと疲れてるから、行くまですこし横になっていてもいい

かな?」



トモコ「そうね、じゃぁ、ここで寝てたら、私達は居間にいるから。」


隆志とトモコが寝室から出て行く。


つかさ「大丈夫?」



淳平「ちょっと横になっていれば大丈夫だと思うから。」



つかさ「ねぇ、昨日ってお仕事終わるのって遅かったんじゃないの?」



淳平「えっ!?ああ、別に・・・普通だったけど。」



つかさ「こらっ、嘘はつかないで、正直に話して。」



淳平「仕事が終わったのが今日の午前3時で、寝たのが4時だったんだ。」



つかさ「じゃぁ、今日家を出たのが8時だったから・・・もしかしてあまり

寝てないの?」


淳平「2時間くらいかな、実際に寝たのは。」



つかさ「もう、無理してぇ。」



淳平「最近ゆっくり会えなかったし、このお泊りすっごく楽しみにして

たろう。だから、どうしても一緒にきたかったからさぁ。」



つかさ「ありがとう、我儘をきいてくれて。」



淳平「いいって。」



つかさ「仕事が忙しいのも、私が我儘なのも分かってるの。それに時々

理不尽な事を言って貴方を不快な思いにさせていることも・・・。」


淳平「気にすんなって、なんとも思ってないから。」


つかさ「うん、この3日間だけは、仕事のことは忘れてね。じゃぁ、呼び

にくるまで寝てて、あっ、ベッドメイキングをしようか?」



淳平「自分でやるからいいよ。」



つかさ「そう?いつもお互いに忙しくてゆっくりできないから、ここにいる

間はゆっくりしようね。」



淳平「そうだな。」

つかさが部屋を出て階段を降り居間に行った。



居間では、トモコと隆志がソファに座って話している。



トモコ「どう?」


つかさがトモコの隣に座る。

つかさ「うん、朝の3時まで仕事をしてたって。」



トモコ「二人とも仕事が大変みたいだね。ちゃんと会えてるの?」



つかさ「お互い休みもほとんど取れないし、取れても私の仕事柄土日祝日は

基本的にお店があるからね。平日は仕事が終わっても翌日の準備やら、帳簿

とか忙しくてほとんど会えないかな。でも電話とかメールで連絡は毎日し

てるのよ。」



トモコ「そう・・・、喧嘩とかしないの?」



つかさ「喧嘩?う〜ん、私がどんなに変な理由で怒っても、言い返すわけで

もなく淳平君から直ぐに謝っちゃうから・・・喧嘩ってしたことがないかも

・・・。」



トモコ「それって相手が我慢してるって事じゃないの、ストレスがたま

るよ、きっと。」



つかさ「うん・・・・。私たちのことはいいからさ。今何の話をしてたの?」



トモコ「えっ、ああ、話ね。今日ここの神社のお祭りでしょ。それにまつわる

話をね。この祭りの日位にね、死んだ恋人の霊が残された彼女の所に帰ってく

るって話があるらしいの。」



つかさ「それって怖い話なの?」



隆志「死者の話だから一応怪談になるのかなぁ。でも恋人の話とかにもなる

からなぁ・・・。」



つかさ「面白そうね、私も聞きたいな。」


隆志「じゃぁ、最初から話すよ。この家の玄関の扉にお札が貼ってあるの

に気づいたかな。」



つかさ「気がつかなかったけど。」



隆志「あのお札ってさ、死者の世界とこちらの世界を遮断する効果がある

んだって、それを踏まえての話だから。」


隆志が、静かに話はじめた。




第一部「WEST GATE」 第二話

第2話


隆志「昔、このあたりに仲がいい恋人達がいて、二人は互いに好きあ

ってて結婚の約束をしていた。だから婚約者同士になるかな。名前は

・・えぇっと、忘れちゃったから・・・、トシとヒロコってことで。」


隆志「ある日、トシが結婚準備のため一人で町へ行く途中に、不幸にも

土砂崩れがあって、それに巻き込まれて死亡してその日のうちに死体も

見つかったらしい。」



隆志「残されたヒロコの方は、婚約者の死をとても悲しんだ。自分も彼

の後を追って死のうとまで考えたけど、友人や両親の説得でなんとか思

いとどまった。」



隆志「それから数日たって、ここの神社のお祭り夜、ヒロコの両親は祭りで

近所の家に行ってて、彼女と友人一人が一緒に家にいたんだ。そこに彼氏の

声で・・・・」



「ドン、ドン、ドン」(ドアをたたく音)




トシ「俺、俺だよ、トシだ、ドアを開けてくれ。」

「ドン、ドン、ドン」

ヒロコと友人が驚き、玄関のドアに近づく。


ヒロコが泣きながら尋ねる。


ヒロコ「トシ君、トシ君なの。」


ヒロコとが玄関のドア近くに行った時、友人が、ドアが施錠されてない

のに気づく。


ヒロコがドアノブに手を掛けたとき友人が開けるのを制止して、友人

が恐る恐るトシに尋ねる。


友人「ねぇ、トシ君、トシ君って土砂崩れがあって・・・この世には

いないんだよね。」



トシ「俺が、この世にいないって・・・死んでるかって?何言ってるんだ

ピンピンしてるぜ。現に今ここで、話してるだろう。」



友人「だって、鍵をかけてないから、勝手に開けて入れるはずだよ。」



トシ「えっ、開いてる?おかしいなぁ、開かないぜ。建てつけが悪いん

じゃないかなぁ。内側からなら開けれるかもしれないから開けてくれよ。」


友人がドアを見るが、特に建付けが悪いようには見えない。


友人が小声でヒロコに。

友人「もしかしてお札があるから開けられないのかも。」


ヒロコ「・・・・。」



友人「ヒロコ、私2階の窓から本当にトシ君が玄関にいるのかを見てくる

から待ってて、でも絶対にドアを開けちゃ駄目だからね、いい?」


ヒロコが涙を流しながら頷く。

友人が2階へ行き、二階の部屋の出窓から玄関を確認するが、トシの

姿がない。







隆志「少しして友人が窓から玄関を見たけど誰もいないことをヒロコに

伝えようと2階から戻ってみたら、ドアが開けっ放しになってて・・・。」




つかさ「ヒロコさんはいなかったの?」

隆志が頷く。


隆志「おそらくヒロコがトシに説得されてドアを開けちゃったんだろうな。」


トモコ「それって、ヒロコさんがあっちの世界に行っちゃったってこと?」



隆志「おそらくね。」



つかさ「きっとヒロコさんにとって彼が全てだったんじゃないかなぁ。

それと、彼が亡くなってから余り時間が経ってないし。」



隆志「ヒロシが亡くなってまだあまり経ってなかったから、そうかもし

れないね。

もし同じ状況でヒロコの立場だったらドアを開ける、開けない?」



トモコ「私なら絶対に開けないなぁ。」



つかさ「いいの、旦那さんの前でそんなことを言って。」



トモコ「だって親とか友達とかが悲しむもん。」



隆志「構わないよ。ただ、ちょっと寂しいけど・・・好きな人には

生きていてほしいからね。」



トモコ「つかさは?」



つかさ「うーん・・・・・開け・・・ないかな、私も。」



トモコ「つかさだってじゃん。」



つかさ「私のせいで彼の人生を終わらせて欲しくないしね。」


トモコ「彼ならどう言うかなぁ?」



つかさ「彼って、淳平君のこと?どうかなぁ・・・・開けるって

いうかも。」


トモコ「それはつかさが開けて欲しいって思ってるからじゃないの?」



つかさが頬を少し赤らめて。


つかさ「・・・うん。」



トモコ「アハハ、やっぱりそうなんだ?あんたって本当に我がままだね。自分は


開けないのに、彼には開けて欲しいなんて。」



つかさ「だって、向こうの世界なんて、どんなんだか分からないし、もし独りぼっち

になっちゃったら寂しいじゃない、だからね。」



隆志・トモコ「ハハハ。」




第一部「WEST GATE」 第三話

第3話



午後五時ころ淳平とつかさ二人で神社でお参りをしている。

空は次第に曇ってきて、少し遠くの方で雷が鳴っている音が聞こえる。


つかさ「もう少しで降り出しそう。」



淳平「少し早いけど、別荘にもどろうか?」



つかさ「そうね。」



淳平「でも二人はどこにいるんだ?戻ってもドアが開かないんじゃぁな。」



つかさ「安心して、合鍵を借りてあるから。」



二人が腕を組んで、別荘に向かって歩き出す。



つかさ「ねぇ、淳平君が寝ていた時にね、隆志さんがここら辺の怪談話をして

くれたの。」



淳平「怪談話・・・、で、どんな?」



つかさ「えぇっとね。昔・・・・

つかさが先程別荘で隆志から聞いた話を淳平に話す。


・・・・というわけで、ヒロコさんがいなくなってたんだって。」




淳平「ふぅん、祭りの夜にねぇ。」



つかさ「淳平君がヒロコさんの立場だったら、どうする?」



淳平「俺は・・・つかさはすっげぇ寂しがり屋だから開けちゃうかな。」



つかさが嬉しそうに。


つかさ「確かに寂しがり屋でトモコ達にもそう言ったけど・・・開け

ちゃダメだよ。」



淳平「どうして?」



つかさ「だって、今まで育ててくれた両親とか、知人とか友人たちに

迷惑がかかるし、第一悲しむじゃない。」



淳平「そうかぁ。あまり深く考えなかったけど・・・。」



つかさ「でも開けてくれるって信じてた。」



淳平「じゃぁつかさは?」



つかさ「もちろん開けないわよ。」



淳平「ひっでぇなぁ、ハハハ。」



つかさ「アハハ。でもね本当に開けちゃぁダメよ。親とか知人が

悲しむからっていうのもあるけど、何より私のせいで貴方の大切

な夢・・・映画をとることをあきらめて欲しくないの。」



淳平「・・・・。」



つかさ「それにね、私がこの世からいなくなったら私の事は早く

忘れて素敵な人をみつけて幸せになって欲しい。」




淳平「・・・早くって・・・できるわけないだろう。それに相手

だってそんな簡単に見つかるわけないじゃんか。」




つかさ「そうかなぁ。背も伸びて、格好良くなってるから。モテる

と思うんだけどなぁ。」




淳平「格好かよ。大人になっても、いつも空想ばかりしてて、お金も

ねぇ俺なんか誰が好き好んで。」



つかさ「何よ、私がもの好きみたいじゃないの、いいわそんな


淳平君がすきなのは確かだから、そうねぇ・・・東城さんな

んてどう?」




淳平が驚き声を荒げて。



淳平「な、なんで、東城の名前をここで出すんだよ。」



つかさ「ここに来る数日前に彼女に会う機会があって、少しお

しゃべりしたの。その時、あなたと一緒に映画を創るっていう

夢のために頑張ってるっていってたし。彼女なら貴方のことを誰

よりも理解してくれそうだからね。それに、学生時代好きだった

じゃない。」



淳平「確かにそんな時期があって、不安な気持ちにさせたことが

あるかもしれないけど・・・そんな、昔のこと言うなよ。

・・・俺の恋人はつかさなんだから。」



つかさが頬を赤らめながら。


つかさ「嬉しいな。」



淳平「それに、卒業して5年だぜ、東城だって誰か付き合ってる彼氏

とかいるだろうから。」



つかさ(今、誰とも付き合っていないこと知らないんだ。)



つかさ「でも、相手が東城さんじゃなくてもいいから、いい人を見つ

けてね。」



淳平「しつこいなぁ・・・分かったよ。たとえ死んだはずの君が来て何

を言ってもドアを開けないし、早く新しい彼女も見つけるように努力する。

これで満足か?」



つかさが組んでる腕に少し力を入れる。


つかさ「うん、でも生きている限り私が淳平くんの彼女だからね。」



淳平「いてて、そんなの当り前だろう。もう、こんな話やめようぜ。あの世

とか、新しい彼女とかさ、縁起でもねぇよ。」




つかさ「そうだね。ここにいる間たっぷり甘えちゃうんだから、覚悟しててね。」




淳平「それは俺のセリフだって。ここずうっと会ってなかったんだから。」



つかさ「ごめんね、お店が忙しかったから。もう少ししたら、お店の方も要領

よくできると思うから、そうすればもっと会える時間ができると思うし。」




淳平「いいって、俺の方だって不況だって割にここ数カ月急に仕事が増えてき

てるから。今はお互いの夢のために頑張んなきゃいけない時期だからな。

でも無理だけはすんなよ、人一倍責任感が強い君のことだから、体を壊さないか

心配してんだぜ。」




つかさ「うん、淳平君もこわなさいようにね。」



淳平「ああ。」


淳平とつかさが別荘に戻ったと同時に小雨が降り始めた。