さくらんぼキッス




同名の曲に捧げます。



西野つかさはいつもの通りにケーキを届けた。

「豊三郎さんは、いないの?」

「お茶が切れたから買出しだよ」

どうせ、どこかの女性店員を冷かしに行ってるのだろう。

そこまでの説明も最早不要だった。



真中は、ざっとテーブルを片付ける。

いつもと違う、ラップされた鉢がある。

「これ何?」

「さくらんぼだよ、お店の持ってきたよ、食べていいって」

「おいしそう、すぐ食べようぜ」

「待ってあげようよ」

「何時帰ってくるか解らないよ、取っておけばいいし」

そう言って早速一つまみ、ひょいと食べる。

甘酸っぱい味が広がる。美味しい。

「あー、しょうがないな、今、豊三郎さんの分けるからね」

そういう間も調子良く真中は口に運んだ。

やっと、つかさも一緒に、ご相伴に預かった。



真中が口をもごもご、動かしている。

「何してるの?」

「でーきたっ」

真中の掌には結ばれたサクランボの茎が。

「すごいね、器用なんだ、私も出来るかなあ」

今度はつかさがもごもご、中々出来ないらしい

「無理だよ難しいね、これ出来る人って上手いんだって聞いたことあるよ」

「何が?」

「えっと、ほらっ・・・キスが」そこまで言うと頬を染めて俯く。照れる。

「えっ・・・ああ、そっそうなんだ」

途端に意識してしまう。つかさの唇に釘付けになる。

リップを塗っているのか、ぷるんと光っている。

気付くとつかさが見返していた。どきりとする。

「おっ俺なんかが上手いなんて事ないし、そこまでした事無いからわかんないや」

「本当、そう・・・試してみる?」

「えっ」今度こそ言葉に詰まる、真中。

「なーんてね、冗談、冗談」

「なんだ、本気にしちゃったよ、西野とこのままキスしたらどうなるのかなって思った・・・」

「うん・・・そうだね」見つめる、つかさ。

「いいって言ったらどうしたの?本当にしてた?」ハッキリとつかさは聞いてきた。

「・・・・してたと思う」真中は正直に言い切った。

見つめ合う、お互いがお互いの眼に映る自分自身を見て。

「淳平くん・・・私・・・」

「西野・・・」その細いラインのおとがいに手を添える。

二つの人影はゆっくりと一つに・・・。



それは、この館の主人が帰って来るまでのほんの一時の出来事。