蛍狩り 〜聖域の中で〜
序 幕
暗い中、真中が手を引きながら、つかさを小川の縁までいざなう。
慣れない浴衣と濡れた砂利のせいで、よろけてしまう。
「あっ」とっさに真中が庇う、
それは、抱き寄せるように、やさしく、かの人の胸の中へおさまってしまう。
蛍狩り前編
全てが金色(こんじき)に染まる。
夕暮れの町の中を、その日一日の話をしながら、
手も繋がず、触れ合いそうな距離を保ち、二人は歩く。
子供たちが二人の間を微笑みながら、追い越していく。
夏の気配をはらんだ風が、二人をなでて。
それはまるで、今の二人を表している様で。
彼女は浴衣を着ていた。
白地に朝顔が染め付けてあり、
帯は朱に近い赤で、彼女の持つ可愛らしさを引き立たせていた。
下駄をカラコロ、心地よい音を立て、祭りが開かれている小さな神社へ到着した。
真中はホタルを見ようとつかさを誘った。
ここには鎮守の森とその小川があり、わずかに残ったサンクチュアリであった。
この賑やかな会場で、本来ならばデートと言うべきものを、楽しんでいると、
空はいつの間にか暮れており、人もまばらとなっていた。
「もう、いい時間だね、川の方へ行こうか」
「うん、そうだね、私、ホタル見るの実は初めてなんだ」
「そうか、知らなかったよ、誘って良かった」
安堵にも似た、その言葉を真中が言う。
「だから、淳平くんと行くのすごーく楽しみにしてたんだ」
素直に気持ちを吐露するつかさ。
「えっ、本当に。そうなんだ。 こっこんな地味なこと、興味ないかと思ってたからさ・・・。」
照れて、つかさを見ることが出来ない。
「ありがとう、淳平くん」
真中が顔をむけた方へ、首を傾げながら、
彼女は微笑んだ。
早速、小川へと向う。待ちきれない様につかさが先を行く。
道すがら、真中は気付く、
浴衣、この「木綿の一重物」は、意外と身体のラインをくっきりと出していることに。
彼女のうなじから背中にかけては、ブラの紐と肩甲骨の線。
帯のあたりの引き締まった腰、それとは対照的な丸みをおびたお尻。
そこに現れている、下着の形。
魅入られてしまったかのように、釘付けになってしまった。
「淳平くん、着いたよ。ん、どうしたの?」
つかさはまた、真中がぼうっとしていたのだと思った。
真中は心の内を見透かされた気がして、返事さえもおぼつかない。
「折角、ここまで来たんだから、下まで行こうか、ねっ!」
つかさは気付かずに、否、気付いていたとしても変わらない彼女なのだが。
「わあ、暗いねー、大丈夫かなあ」彼女が手を差し出す。
「淳平くんお願い、危ないから、いいかなあ」
その声に艶があると思うのは、真中だけであろうか。
暗い中、真中が手を引きながら、つかさを小川の淵へといざなう。
慣れない下駄と、濡れた砂利のせいで、よろけてしまう。
「きゃっ」咄嗟に真中が庇う。
それは、抱き寄せる様に優しく、かの人の胸の内へ、おさまるように。
・・・おわり。